- 2019年05月08日 09:15
ある日突然訪れる「雇い止め」の仰天理由
1/2日本では7割の人が中小企業で働いている。だが中小企業は大企業に比べて「雇用トラブル」が起こりがちだ。一体どんな理由で解雇されるのか、その不当性を訴えたい場合はどうすればいいのか。不当解雇の実態とその対処方法を紹介しよう――。(後編、全2回)

不合理な解雇は法律で禁じられている
日本では、7割の人が中小企業で働いています。ところが中小企業は大企業に比べて、さまざまな雇用トラブルが起こりがちです。そのなかでも経営者らが「労働基準法」をはじめとする労働法を正しく理解していないため、不当な解雇を行うケースが目立ちます。
労働政策研究・研修機構の濱口桂一郎氏は、『日本の雇用終了』と『日本の雇用紛争』(いずれも労働政策研究・研修機構)という本に、中小企業のさまざまな解雇事例をまとめています。今回は濱口氏のコメントも織り込みつつ、それらから労働者の「能力」が問題になったケースを紹介します。
そもそも、会社は好き勝手に従業員を解雇することはできません。労働契約法16条では、「解雇は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合、その権利を会社が濫用したものとして無効とする」とあります。
では逆に、解雇が適法と認められる「合理的な理由」とはどのようなものでしょうか。大きくは次の3つに大別されます。
解雇が法的に認められるケースとは
1つ目は、労働者の労務提供が不能であったり、労働能力や労働者としての適格性が欠如、喪失していたりする場合です。病気やけが、その治癒過程で生じた障害により働けなくなったり、勤務成績が著しく不良であったり、無断欠勤が長期にわたったりした場合がこれに含まれます。
2つ目は、労働者の企業秩序違反です。そうした行為に対して、会社には懲戒権が与えられています。その手段は、けん責や戒告、減給、出勤停止などさまざまですが、この懲戒処分の代わりとなるのが普通解雇というわけです(より重いものは懲戒解雇となります)。
企業秩序違反行為とは、経歴詐称、職務怠慢、業務命令違反、業務妨害、職場規律違反、会社の体面を汚す行為などです。前回紹介した労働者の「(悪しき)態度」は、この企業秩序違反行為の一端を成すものと考えていいでしょう。
最後は、経営上の必要性に応じ、非のない労働者をやむなく解雇する場合です。代表的なのは業績不振が原因となったもので、整理解雇といいます。
小さい「っ」が入力できないからクビ
この法理を頭に置いた上で、先の一つ目に該当する、能力が問題となって解雇されたケースを見ていきます。(引用文の前に●を記載。一部、読みやすさを考慮し改変)。
●訪問看護師。今まで能力がないと言われたことがないのに、電話で「今後雇うことはできない」と退職を強要された。病院側によれば、看護技術と自動車の運転技術から訪問看護師には不向きと判断した。
具体的には、対向車とぶつかりそうになる、踏切の一時停止を踏切の真ん中で行う、曲がり角で大回りし対向車線にはみ出す、注意すると道路の真ん中で停車する等。また、指導する看護師に対し謙虚に指導を受け入れず、利用者からお断りされることが多く訪問させるお宅がない(非正規女性)
看護技術うんぬんはどうも付け足しのようです。本人は「運転技術が必須なら始めに言ってくださいよ」と言いたくなったでしょう。
こんなケースもあります。
●7日間勤務したら突然、パソコン操作の遅さと全般的な処理能力が劣るということで派遣元から解雇予告された。会社側によれば、パソコンでローマ字入力をする際、小さい「っ」が入力できず、客との電話対応で会話が成り立たなかった(派遣女性)
仕事上のミスが致命傷になったケースもあります。
●正社員として勤務していたが、医事課に配転後、カルテの取り違え等のミスを繰り返した。その後、事務長から雇用契約書を渡されて、6カ月の雇用期間を一方的に設定され、期間満了による雇用終了を通告された(非正規男性)
本人の同意なく、正社員から有期雇用の非正社員に格下げされた揚げ句、雇い止めを受けたというひどい事例です。
次の事例も気の毒です。
●海外ブランド品買い付け業務で持ち帰り品種や個数を間違えるミスがあり、常務から「お前なんか要らない」「仕事なめてんのか」「子供以下だ」等のパワハラ発言を受け、体調不良で欠勤。その後、出勤すると社長から解雇通告を受け、そのため精神科に通院している(正社員男性)
相対評価で社員を解雇するのは「不当」
以上の2つは、いかにも会社側の横暴を感じるひどい事例です。仕事上のミスが原因で解雇されることはあり得るのでしょうか。セガ・エンタープライゼス事件という有名な判例があります。
こんな内容です。同社の社員が「能力が低く、使えない」と判断され、複数の部署に次々と異動させられたものの、どの部署からも「与える仕事がない」と通告されたので、会社が退職勧告を出したところ、本人が受け入れませんでした。
やむを得ず、「労働の能率が劣り、向上の見込みがない」という同社の就業規則に規定された解雇事由に当たるとして解雇したところ、本人が受け入れず、解雇無効の仮処分を申請し、裁判になった事例です。
なお、その人の人事考課は下位10%未満に入っており、同じような考課結果の社員は全3500人のうち、200人でした。
裁判の結果、セガ側が負けました。能力不足を理由とする解雇については、労働能率が「著しく」劣る場合に限られ、しかも人事考課のような相対評価でそれを決めてはならず、教育や指導によって労働能率の向上を図る余地があれば、それを実施してからでないと、解雇という決断は下すべきではない、とされたのです。
これは1999年に決着した事件ですが、直近2016年にも同趣旨の判例が生まれました。舞台となったのは日本IBMでした。
- PRESIDENT Online
- プレジデント社の新メディアサイト。



