- 2019年05月08日 09:13
労働力不足が「歓迎」される令和時代 - 塚崎公義(大学教授)
新しい時代が始まりました。まずはそれを祝いましょう。その上で新しい時代の日本経済について、大局的な見地から予想してみましょう。
■少子高齢化で労働力不足に
少子高齢化は労働力不足をもたらします。現役世代の人数が減り、高齢者の人数が増え、総人口はそれほど変わらないわけですから「少ない現役世代が作った少ない物(財およびサービス、以下同様)を、多くの国民が奪い合う」ことになり、現役世代の労働者も奪い合いになるわけです。
高齢者の個人消費は医療や介護などの労働集約的なサービスが多いので、労働力不足を招きやすいのです。若者が自動車を買っていた時代は、全自動のロボットが自動車を作っていたので労働力不足になりにくかったのですが、少子高齢化で状況が変化した、というわけですね。
筆者が最初に「少子高齢化による労働力不足で黄金時代が来る」と記したのは、リーマン・ショックの直前でした。もちろん黄金時代は来ずに、大いに恥をかいたわけですが、実は筆者の内心ではこっそり自信を深めていたのです。
それは、リーマン・ショック後の失業率がそれほど上がらず、ITバブル崩壊時と同水準に止まったからです。ちなみにITバブル崩壊はリーマン・ショックの8年前のことで、事件としてはリーマン・ショックより遥かに小さいものでした。
これは「少子高齢化によって日本経済が労働力不足の体質に移行しつつある」という大きな底流の流れを実証している、というわけです。
これまでは現役世代の中で運の悪い人が失業していた。けれども少子高齢化によって引退していく高齢者が自発的かつ永遠に失業を引き受けてくれるので、現役世代の失業は減るだろう、というわけですね。
現在、アベノミクスによる景気回復で労働力不足とされています。しかし、これは上記のような、底流にある大きな流れの上の小さな波がアベノミクス景気だ、と捉えるべきだと思います。アベノミクスの景気回復自体はそれほど力強いものではないのに、厳しい労働力不足となっているからです。
したがって、こうした大きな流れは今後も続き、10年もすると「景気が良い時は超労働力不足、景気が悪くても少し労働力不足」という時代が来るかも知れませんね。
このことは、平成時代と令和時代の日本経済の置かれた環境が正反対となるかもしれないことを示唆しているわけです。
■平成時代はバブル崩壊後の長期低迷期で失業に悩んでいた
平成時代のほとんどは、バブル崩壊後の長期低迷期に悩んでいました。諸問題の根源は失業でした。
失業それ自体が深刻な問題であることは間違いありません。失業者は所得が得られずに困窮するとともに、自分が社会で必要とされていないのではないか、といった感覚も持ちかねません。また、失業者が消費を手控えることで景気が悪化して更に失業者が増えてしまう、といった悪循環も招きかねません。
失業者が大勢いると、企業は労働力を囲い込む必要性を感じなくなるので、正社員を減らして非正規労働者を雇うようになりました。その結果、正社員になれずに非正規労働者として生計を立てざるを得ない「ワーキング・プア」が増加したのです。
失業者が大勢いたため、ブラック企業も出てきました。「失業するよりはブラック企業に勤めた方がマシ」という労働者の置かれた状況を悪用して労働者を酷使したのです。
企業が省力化投資のインセンティブを持たなかったため、日本経済が効率化しませんでした。自動食器洗い機を買うよりもアルバイトに皿を洗わせる方が安かったからです。
失業が多いことが、財政赤字を拡大させる要因となりました。失業対策の公共投資が行われたこともありますが、増税しようとすると「増税すると景気が悪化して失業者が増えてしまう」という反対の声が上がったことも痛手だったのです。
■労働力不足が諸問題を解決する
平成から令和に時代が移る少し前から、日本経済は労働力不足となりました。失業に悩んでいた状況が反転したのです。そこで、失業に由来していた諸問題も解決に向かい始めています。
失業者が事実上いなくなったのみではありません。仕事探しを諦めていたために失業者の統計に載っていなかった、高齢者や子育て中の女性なども「ぜひ働いて欲しい」と言われるようになっています。働く意欲と能力のある人々が生き生きと働けるのは素晴らしいことです。
非正規労働者の時給は労働力需給の逼迫を素直に反映して上がり始めています。これにより、ワーキング・プアの生活も少しずつマシになりつつあります。
ブラック企業もホワイト化を迫られています。「辞めたら失業者だ」という脅しが効かなくなったため、ブラック企業のままでは社員が次々と辞めてしまうからです。
正社員については、賃上げは期待薄ですが、それでも若手に関しては採用難を反映して上がりつつあります。中高年サラリーマンの給料が上がらないことについては「同一労働同一賃金に向けた望ましい動きだ」と前向きに捉えることとしましょう。
企業の省力化投資も活発化し始めていますから、日本企業が効率化していくと期待しましょう。非効率な経営で高い給料が払えていない企業から労働者が抜け出し、効率的な経営で高い給料が払える企業に労働者が加わることで、日本経済全体としての効率が高まることも期待しましょう。
財政赤字も減っていくと期待しましょう。10年も待てば「増税して景気が悪化しても失業が増えない」時代が来るでしょうから、そうなれば増税が容易になるでしょう。もしかすると「労働力不足で賃金が上がりインフレになるので、インフレを抑えるために増税で景気を悪くしよう」ということもあるかも知れません。そうなれば、増税は財政再建とインフレ抑制の一石二鳥ということになりますね。
■デフレの時代からインフレの時代へ
平成時代を象徴するのはデフレです。しかし、デフレはすでに止まっています。日銀が期待するほどのインフレにはなっていませんが、時間とともにインフレ圧力が強まっていくことは疑いないでしょう。
労働力不足で賃金が上がり、それが物価を押し上げる力が働くことは疑いありませんし、もしかすると宅配便業界のように「応じきれないほどの需要があるので、値上げをして少しくらい客が逃げても構わない」と考える企業が増えて来るかも知れませんね。
個々人の資産運用に話が飛びますが「老後の蓄えは銀行預金で持っているのが安全だ」という平成時代の価値観から「老後の蓄えの一部はインフレに強いドルや外貨に分散して持っておこう」という令和時代の価値観への転換が必要かも知れませんね。
余談ですが、上記のように労働力不足は日本経済にとって望ましいことなのですが「不足」という言葉の語感が悪いため、困ったことのような印象を与えかねません。筆者としては「仕事潤沢」「労働力需給逼迫」といった言葉を使いたいのですが、今ひとつセンスが悪いですね(笑)。
誰かが「労働力不足」の同義語で、今少し前向きなイメージの言葉を流行らせてくれることを期待しましょう。
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