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「ヤッたではない。ヤらせていただいたんだ」さらば青春の光・森田が綴った謙虚で下衆なエロストーリー

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上司とセフレ経験のあるOLと個人戦

写真AC

それ以外のコラムで、個人的に撃ち抜かれたのは「合コンを捨てた男の過酷すぎる個人戦」だった。内容を倍速すると、森田は「M-1グランプリ2016」の決勝進出者が発表されたことにかこつけて、自身のインスタに「誰かご褒美に風俗奢ってください!!」と呼びかける。そこに菜々というOLから「森田さんのコラムが大好きで毎月読ませてもらってます。私でよければ是非風俗奢らせてください(>_<)」との返信。森田はこれを「菜々ちゃんがオレに仕掛けてきたプロレスなんや!入り口は風俗やけど最終ゴールはセックスってあらかじめちゃんと決まってる、しっかりとしたエンターテインメントや!」と、裏読みに心躍らせ、「メッセージありがとうございます! 女性に風俗奢ってもらうのは流石に下衆過ぎるので、良かったら今度飲みませんか?」と、五反田でのサシ飲みに持ち込む。

森田は自身の十八番である芸能界の汚れたゴシップを並べ、菜々を笑わせ距離を縮めていく。そこに徐々に下ネタを織り交ぜ、菜々のエロスペックを確認、すると「私が上司のセフレをやってた時なんですけどね……」と、セックスへの大いなる可能性を感じ、普段は仲間達との合コンで敗北ばかりだが「もしかしたらオレは個人戦の方が向いてんのかもな?」とほくそ笑む。

そして居酒屋の時間も終わり、「僕の家この近くなんですが、来ます?」と決め技である宅飲みに誘う。が、「いえ、今日は帰ります」と固い拒絶に遭う。想定外の展開にすでに高まっているムラムラの行方におさまりがつかず、森田は菜々に「じゃあ風俗奢ってくださいよ」と要求する・・・。

ここからの数ページが出色で、人として携えるべき理性やプライドを放棄して性欲の奴隷と化す下衆芸人森田。彼に対して無償の金銭奉仕を施す菜々。森田が指名して登場する風俗嬢なな。リビドー(性的衝動)とアガペー(自己犠牲的博愛)とデリヘル(出張資本主義)の、交わっているようで誰も交わらない、どうしようもなくやるせない「個」の交錯が一行ごとに刻印される。この数ページは短いが、又吉直樹の「火花」と並ぶ文学性が匂い立つ。

明け透けな性遍歴 思い出されるみうらじゅん

BLOGOS編集部

男女が出会い、あの一夜にあと一歩踏み出していたら「やれた」のかも・・・という思い出を検証し、その意味を解き明かしていく傑作漫画「やれたかも委員会」(作・吉田貴司)から、情や機微や浪漫などのウエットな湿り気をまるまる抜き取ったのが「メンタル童貞ロックンロール」だとも言える。

が、その乾ききった日々の、黙々とした性欲の、不毛な合コンの数々の、セックスに取り憑かれた自身の、さらけ出しとツッコミの、分厚い自己観察記録は、ページをめくるごとに笑わせる、活字エロエンタメの快著だ。読みながら思い浮かべたのは、現代を代表するエロの巨匠みうらじゅんによる傑作「やりにげ」(初版1995年 ぶんか社)だった。

「ピンクローターの女」「ベープマットの女」「3Pの女」・・・著者の様々な性体験の中から、キレイごとではない、こっぱずかしい、情けない、そんな出来事をめくるめく綴った一冊だ。

出版された1995年当時、この「やりにげ」は画期的だった。文学の態で作家が自身の体験を描写に活かすことはあれど、名のある著者が自身の情けない性遍歴をここまで明け透けに、しかも大量に披瀝した作品は無かった。まだみうらじゅんが「ザ・スライドショー」も「マイブーム」も世に放つ前、ブレイク前夜に成した身を切る、そして相手の女性達もおそらく道連れ爆殺な問題作だった。

この、著名人が自らの性遍歴を明け透けにするというメソッドにおいて、森田哲矢の「メンタル童貞ロックンロール」は「やりにげ」の系譜に位置する。のだが、平成初期の「やりにげ」は「やった」話の集成で、平成終期の「メンタル童貞ロックンロール」は「ヤリ損ねた」話の集成である。この大いなる変遷が、エロエンタメのひとつの大河において「平成の失われた30年」を映し出しているのかもしれない。

NHKスペシャル「映像の世紀」のテーマ曲「パリは燃えているか」(作曲:加古隆)をエンディングBGMにイメージして、森田哲矢が綴ったエロに対する「謙虚」がにじむ一文を引き、この項をシメます。

< さらば青春の光 森田哲矢・著「メンタル童貞ロックンロール」(KADOKAWA)より >

森田哲矢「ヤッたではない。ヤらせていただいたんだ、という気持ちを常に持って生きてきました。」

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