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池袋プリウス事故はガス抜きの「上級国民叩き」で終わってはならない

平成の終わりに、何とも痛ましい事件があった。池袋の交差点で、80代男性の運転するプリウスが突如暴走し、通行人を次々とはね、2名の死亡者と多くの負傷者を出す、という交通事故があったのだ。

連日続いた報道でおそらく知らない人はいないだろう。これだけ大きく取り上げられているのは、この事故には「様々な条件」が揃っており、さらに多くの問題を提起しているから、と言われている。

まず、亡くなった被害者が若い母親と幼い娘であり、父親は一瞬で妻子を失ってしまったことになる。

キレイごとを言えば命に優劣はないのだが、やはり被害者が子どもだと、我々はより「痛ましい」と感じてしまうものなのだ。逆に「被害者は自称漫画家カレー沢薫36歳(無職)」と報道されたら「うん、まあ」となってしまうのが残念ながら「人情」なのである。

さらに加害者は高齢者の男性である。

高齢者が運転する車による事故は今までも起こっており、そのたびに高齢者の運転について問題提起がされてきた。そんな中で死亡者を出す大きな事故が起ってしまったため「防げた事故だったのではないか」と思わずにはいられないし、「高齢者に車を与えるな!」と海原雄山状態になってしまった人も多いだろう。

また、加害者はただのジジイではない。旧通商産業省工業技術院院長をはじめ、各種団体、企業の重役を歴任した所謂「偉いジジイ」だったのである。

事態は五輪エンブレム以来の「上級国民」批判に

この加害者は現時点で、逮捕をされていない。

このことから加害者は「上級国民」だから忖度され、逮捕されないのだ、という憶測がネットで流れ大きく騒がれることとなった。

状況から見てそう思われても仕方がない所があるが、逮捕されない理屈は一応ある。

加害者も無傷というわけではなく、骨折し入院をした。よって、逃亡、証拠隠滅の恐れがないため、逮捕の必要がないから逮捕されないのだという。

また、逮捕してしまうと、48時間以内に送検する必要があり、拘留も原則10日以内延長されても20以内に、起訴、不起訴をきめなければいけないため、今の取調も満足に出来ない状態の加害者を逮捕したところで、日数を無駄に使うだけなので、むしろちゃんと捜査するために逮捕をしていないという見方もある。

またメディアが加害者を「さん」づけ、または肩書で報道し「容疑者」と呼ばないことに関しても「さんをつけんなよデコ助野郎!」という批判が相次いでいる。

これに関しても「容疑者」という言葉は逮捕された者に用いられる呼称なため、逮捕前である加害者を「容疑者」と報道することをメディアが躊躇しているのではないかと言われている。

だが理屈はどうあれ「さん」はおかしくないか、せめて「メンバー」とか他に言い方はあるだろうというのが「国民感情」であり、ここでもやはり「上級国民だから」という憶測が飛んでいる。

捜査の結果、高齢や心神喪失を理由に罪に問われない、ということになる可能性はあるが、間違ってもこのまま「無罪放免」ということはないと信じたい。今の段階で「上級国民だから人を死なせても無罪なのだ」と言うのは早計だという。

しかし、今の処遇やこれからの捜査に全く「忖度」がされないかというと、それは我々の知る由もないことなので、世間が「納得」できることがないのも確かである。

私刑が当たり前になってしまった「ご時世」とのズレ

現在、インターネットでは、何かやらかした人間は、警察がやらなくても有志により秒で個人を特定され「処される」ことに見慣れてしまっている。

そのため、この事故も法律的なことや、これからのことはどうでも良いから「一秒でも早く加害者が処されるところを見ないと気が済まない」という感情から、「加害者がすぐ逮捕されてない」という事実、また被害者が弱者で加害者が権力者という役満な構図に、世間は爆発的反応を示したのではないかと思う。

感情的には「やりきれない」のは言うまでもないが、法律的には現状ですぐ、どうこう出来る問題ではない、というのも確かなようである。

そして今回の事故で、また大きく注目されたのは「高齢者の運転問題」である。

確かにやりきれぬ事故であり、加害者は適切に裁かれるべきであり、高齢者の免許返納問題も、今の実質「本人の判断に任せる」形では、また同じような事件が起こるだろう。


だからと言って、「老は社会の害悪なので、ある年齢になったら即刻免許を奪って人様に迷惑をかけないように表に出るな」となるのも危険である。別に老をかばいたいわけではなく、自分も老にならないわけがないので危機感を感じるのだ。

この加害者が大きく批判された理由の一つに「東京なら無理して車運転しなくても生活できるだろう」というものがある。

逆に言えば車がないと、まるで生活できない土地に住んでいる老もいるのだ。そんな土地に限って、今後も公共交通がどんどん減ってしまいそうという悪循環だって課題だ。つまり老から免許を奪うことで、老に轢かれる人間は減るかもしれないが、今度は老の生活がままならなくなる恐れがある。送り迎えをしてくれる親族や、タクシーを使う余裕があれば良いが、全ての老がそうではないだろう。

ここで、若い命のために、老は餓死しろ、というようなら、時代は姥捨て山に逆戻りだし、老にならない人間はいないのだから、ある意味自殺行為と言える。

高齢者に車を運転をさせたくなかったら、免許を奪うだけでは解決しない。老をまとめて病院やマックスバリュに連れて行くバスツアーや、「むしろ病院が来い」という訪問型サービスの充実など、老が運転する必要がない「社会」を、老ではない世代も知恵を出して作っていく必要があるだろう。

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