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汚辱Squalorと沈黙~傷つきの新時代

■当事者を包み込むのは、「沈黙」

元号がかわり日本だけ新時代になったとしても、人々の間には「たたかい」の可能性があり、それに伴う傷つきはある。

大状況においては、日本ではまずは地震、そして今世紀において勃発可能性が高くなっている国際紛争。

身近な状況においてはいじめ等の事象がある。いずれの事象も、被害者を激しいトラウマが遅い、PTSD罹患可能性がつきまとう。

PTSD(心的外傷後ストレス障害)の原因としては、1.災害 2.事故 3.暴力/虐待 4.戦争の4種があるといわれており(厳密には、1・2と3と4は「単回性」か否かで区別されるそうだがここでは踏み込まない)、過敏反応やフラッシュバック、人によっては乖離症状まで、そのトラウマは多くの困難さを当事者に引き起こす。

ただそれは医学的な分析であり、まず当事者を包み込むのは、「沈黙」だと僕は思う。それは当欄でもふれた(高校生は傷つきながらも静かに日常を過ごすことを知っているか)。

当事者は、考え事をしながらも、誰かとの接触は避けがちになる。自然の中にたたずむ、ペットと会話する、静かに音楽を聞く等は行なうが、「誰か」との接触は避けがちになる。沈黙とまでは断定できないが、あいまいな返事を重ねながらも微笑を浮かべる。

その微笑には、あきらかな「諦め」、他者ヘの諦めが含まれている。諦めが沈黙を生む。

■他者を寄せ付けない微笑

この沈黙は、「潜在化/サバルタン化」と表層的な政策化を呼び、分析の「紋切り化」を引き起こす。

サバルタン化と表層的政策化については当欄でも触れてきた。たとえば、「素朴」で「残酷」な新自由主義者たち~現代の子ども若者支援に書いたように、「見落としても気づけない」人々による政策化の矛盾は、今世紀以降あちこちで見られる現象だ。

紋切り化については、複雑な事象に寄り添いきれない、教科書的な分析から生まれる。たとえば、児童虐待に関して「警察と児童相談所の完全情報共有」は、加害親の「引っ越し」という最悪の状況のきっかけとなることからケースごとに慎重に行なう必要がある。

ただここではそれほどサバルタン化や紋切り化には踏み込まないでおこう。それよりも、当事者の「沈黙」についてもう少しふれてみる。

傷ついた人は多くを語らない。精神分析家の前では語るかもしれないが、その「語ること」自体で自分を癒すこともあり、逆に語ること自体が自分を傷つけることもある。いずれにしろ、その語りの内容がどれほど事実に近いかどうかは、その後の癒やしや語ることによる傷つきとは直接結びつかない。

多くは語らず、沈黙する。そして他者を寄せ付けない微笑を浮かべる。その微笑の奥の奥に、「汚辱Squalor」的なものをひっそりと抱えていることも多い。

■「エズミに捧ぐ~愛と汚辱のうちに」

この、汚辱Squalorは、サリンジャーの傑作短編「エズミに捧ぐ~愛と汚辱のうちに」(ナイン・ストーリーズ所収、サリンジャー (著), 野崎 孝 (翻訳))のサブタイトルにあるもの。戦争によるトラウマを抱える主人公が、それでも回復への兆しを見せる傑作短編だ。

汚辱Squalorが、終戦直後のドイツで療養する主人公を寡黙にさせる。が、あるひとつの思い出やその思い出の品により、心地よい眠気を覚えることもできる。

当事者は沈黙する。沈黙しつつも、毎日やっとのことで寝る。だが時には心地よい眠気を覚えることもある。その繰り返しの日々のなか、徐々に汚辱Squalorの色は薄くなり、時として再び濃くはなるものの、全体的には薄くなる。

Squalorとのつきあいは長くなってしまう。だが不思議なことに、それは本当に「かつてあったもの」的な、戦後の廃墟に残った銅像が街の片隅にひっそりと残るようにして、心に残る。

マスメディアやネットでは、新元号をはじめとして様々な事象や事件が語られる。新元号にともなう祭的イベントから、毎日あちこちで聞かれる性暴力のニュース、殺人事件、国際紛争。ことばと映像は、祭と暴力を、ことばと映像というフィルターを通してこれでもかと送り続ける。

一方で「当事者」は、Squalorに苛まれつつも時に「心地よい眠気」に包まれる。それらの日々は基本的に沈黙している。

そうした人々が我が国だけでも何百万人も存在し日々ささやかに生きているのが、この時代、傷つきの時代、汚辱Squalorと沈黙の時代だということだ。これを忘れないでいたい。

※Yahoo!ニュースからの転載

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