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NHKまで踊らされた熊本地震「地盤リスク」説(明石昇二郎)

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地震の揺れは、活断層からの距離よりも地盤の影響が大きい──地盤リスクを訴えるNHKスペシャルが2017年4月に放送されたが、その根拠となる熊本地震の観測データは捏造されていた。


布田川断層帯と日奈久断層帯
国交省都市局市街地整備課「熊本地震からの益城町の市街地復興に向けた安全対策のあり方等に関する最終報告」より。(出典:布田川・日奈久断層帯の評価、地震調査研究推進本部、地震調査委員会、2013.2.1)


2016年4月に熊本県をはじめ九州地方を襲った直下型地震「熊本地震」では、まず4月14日にマグニチュード(M)6・5の地震が発生し、その2日後の4月16日未明には、さらに規模の大きいM7・3の地震が発生していた。

気象庁や政府の地震調査委員会ではそれまで、大規模地震が発生した後は余震への警戒を呼び掛けてきた。だが、余震の揺れが「本震」を上回ってしまうという前代未聞の事態を受け、今後は「余震」という言葉を使わないよう改め、「同じ程度の地震に注意が必要」などと呼びかけることになった。これに基づき整理すると、4月14日の最初の地震が「前震」で、16日の地震が「本震」となる。

4月14日の「前震」では、熊本県益城町で震度7の激しい揺れが観測されていた。これを受け大阪大学(阪大)などの研究チームは、益城町内3カ所にポータブル地震計を設置。地震波の観測を始めた直後の4月16日、最大規模であるM7・3の「本震」が発生し、同研究チームはこの揺れを、置いたばかりのポータブル地震計で捕捉できたとした。

地震計のそばで大地震が発生し、揺れの観測に成功するのは大変珍しいことで、このデータは阪大・京都大学(京大)と産業技術総合研究所(産総研)との共著で米国の地震学会誌にも掲載され、ひときわ注目を集めることとなった。

「地盤リスク」は活断層に勝る脅威か

ところで、益城町内には「布田川断層」という活断層が走っている(地図参照)。この活断層に沿う地域では、二度の大地震によって甚大な被害を受けていた。家屋の倒壊も、この断層から100メートル以内に集中発生している。

だが、「本震」観測データは活断層の危険性を検証するためではなく、なぜか別の目的に活用される。地震の揺れを増幅させる「揺れやすい表層地盤」というものがあって、益城町ではこの表層地盤こそが家屋の倒壊を招いた――とする研究に、こぞって用いられたのである。この研究は「地盤リスク」と名付けられた。

この話に乗ったのがNHKである。熊本地震発生の1年後となる17年4月9日放送のNHKスペシャル(Nスペ)「大地震 あなたの家はどうなる?~見えてきた“地盤リスク”~」の中で、
「最新の解析によって浮かび上がってきた新たな脅威」
だとして、「地盤リスク」説が大々的に取り上げられる。

「本震」観測データを精査したところ、3カ所あるうちの一つで、およそ2倍の強い揺れを観測したところがあり、それをもとにボーリング調査をしたところ、粘土層からなる「揺れやすい表層地盤」が見つかったというのだった。が、そこで問題が発生する。



Nスペの放送後、益城町の家屋倒壊被害は「地盤」が決めたのであり、町内を通る活断層の影響など考えなくても説明がつく――とする風評が生まれてしまったのだ。

だが、地盤によって地震動が増幅されることは、熊本地震によって初めて判明した事実ではなく、地震研究のイロハである。従って「新たな脅威」と言うには無理がある。にもかかわらず、こうした言説を学会の場で主張する研究者まで現れた。

その根拠は、
「観測された強い揺れの波形は、他の地点のデータを表層地盤の分だけ増幅させる計算結果と完全に一致するから(それ以外の影響を考える必要はない)」 というものだ。いわば「悪さするのは地盤だけであり、活断層は大丈夫」説の登場である。


納屋(上)と消防小屋(下)。(益城町「平成28年熊本地震」震災遺構リストより)

この騒ぎに拍車をかけたのが国土交通省だ。Nスペの放送直前の17年3月、国交省都市局市街地整備課が出した「熊本地震からの益城町の市街地復興に向けた安全対策のあり方等に関する最終報告」の中で、
「活断層のズレが主要因と考えられる建築物の倒壊は認められなかった」
とする見解を示したのだ。

しかし、益城町の「震災遺構」になっているものの中には、ずれた断層の上に建っていて破壊された消防小屋や、活断層の真上にあった納屋が隣の自宅に倒れかかった状態のものもある(写真参照)。国交省の報告は、現実に目をつぶった的外れの主張と言うほかない。

NHKの看板番組による「地盤リスク」報道と、国交省の「最終報告」が相乗効果で生み出していたのは、
“活断層の直上やごく近い場所であっても危なくない”
という、世間の誤解でしかなかった。

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