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永井義男『江戸の糞尿学』

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 なぜか連休中に、自分の娘の参加する少年団のキャンプで、江戸時代について話すことになった。

 子どもたちが観た劇に江戸時代の屑屋が出てくるので、江戸時代がどんな時代で、どんなリサイクル社会だったかを子どもたちに伝えたいというのが団の意向なのである。ぼくは専門家でも何でもないのだが、「何かモノを書いている人間」ということが選挙に出てまわりに知られたために、こうしたやや無茶振りの小さな注文も増えた。個人的には、できる範囲のものであれば楽しんで受けている。

 で、そのような話は実は劇団の人が劇のプレ企画のような時間ですでに話してしまった。ただ、そこで「江戸はリサイクル社会」ということが過剰に強調されていたように思うので、少し修正し、そこに理屈を入れたいと思っている。

 江戸時代がリサイクル社会であった、というのは半分当たっているが、半分は怪しい議論でもある。例えば永井義男は『本当はブラックな江戸時代』(辰巳出版)という本で「江戸はエコなリサイクル都市ではなかった」という議論をしている。

本当はブラックな江戸時代
作者: 永井義男
出版社/メーカー: 辰巳出版
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 まあ、これは程度問題だろうと思う。

 “なんでもリサイクル・リユースをするからゴミひとつない清潔な都市だった”的なところまで行けばやはり行き過ぎの議論である。永井が同書で紹介しているように、最終的にどうにも再利用できないものはゴミになって川などに平気で捨てられていた。

 しかし、利用できるエネルギーが少ない社会では、モノをつくるコストが高く、それに対して人件費が異様に安いから、しぜんにリサイクルをしたがるというのはその通りなのである。

 たしかに現代にくらべると江戸の人々は物を大事にし、リサイクルも盛んだったが、べつに環境意識が高かったからではない。

 現代、人件費は高く、物の値段は安い。江戸時代は正反対で、人件費は安く、物の値段は高かった。

 いまでは電機製品が故障したときは修理するより、新しく買ったほうがはるかに安くつく。修理代はけっきょくは人件費である。いっぽう、新製品は高機能になり、しかも値段が安くなっている。

 江戸では物が高価だったし、回収や修理にかかわる人件費は安かったので、リサイクルは充分に採算が取れたのである。(永井『本当はブラックな江戸時代』p.143)

  江戸時代は、今からどれくらい前の時代か。わが娘をダシにして、おじいちゃんの時代か、そのまたおじいちゃんの時代か……とさかのぼろうと思う。

 ぼくは昨年の夏に自分の系図づくりをした。だからさかのぼれるのだが、ぼくの娘から見て「おじいちゃんのおじいちゃん」が生まれた時はまだ明治時代(明治11年=1878年)である。「おじいちゃんのおじいちゃんのお父さん」が生まれた時にようやく除籍簿に「嘉永5年(1852年)」が登場する。この人は人生の一部を少しでも江戸時代として生きた人である。さらに「おじいちゃんのおじいちゃんのおばあちゃん」は「文化13年(1816年)」に生まれ「明治元年(1867年)」に死んでいる。故にこの人は完全に江戸時代の人である。

 そして、時代ごとにエネルギー利用が低くなっていることを知ってもらおうと思う(ネットがない、テレビがない、クーラーがない、自動車がない、など)。

 この違いは何か。

 江戸時代というのは現代に比べエネルギー利用が圧倒的に小さい社会だった。特に電気*1とエンジンというものが使えないことが大きい。大昔は食べ物を食べることで自分一人分のエネルギーしか使えなかったが、現代では科学・技術がすすんで1人あたりのエネルギー利用がその100倍になっている。つまり100人の召使いを持っているのと同じである。

 もともと紙くずのリサイクル=屑屋の話を観た子どもたちなので、和紙をつくる大変さと現代の製紙工場を簡単な映像で見てもらい、エネルギーを縦横に利用できる社会ではいかに大量にモノがつくれるかを実感してもらう。

 さて、その上で、江戸におけるリサイクルの典型として糞尿を取り上げようと思っている。これについては江戸時代を持ち上げすぎる風潮に批判的な永井も「江戸でもっとも有名なリサイクル」「見事な資源のリサイクルといえよう。循環型経済のモデルといえるのではなかろうか」(同前p.147)と述べている。もっとも、「弊害は大きかった」という留保を忘れていないが。

 関連する本をいくつか読んだが、子ども向けの藤田千枝『大小便のはなし』『下水のはなし』(さ・え・ら書房)は端的で参考になった。

下水のはなし (人間の知恵 (13))
作者: 藤田千枝
出版社/メーカー: さ・え・ら書房
発売日: 1984/11
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大小便のはなし (人間の知恵 30)
作者: 藤田千枝,矢崎芳則
出版社/メーカー: さ・え・ら書房
発売日: 1987/02
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