記事
  • 畑恵

日本の科学技術、その復興に向けて 〜「基本問題小委員会」とりまとめ(1)

1/2

平成も幕を閉じようとする今月23日、昨秋から取り組んで来た自民党科学技術イノベーション戦略調査会「科学技術基本問題小委員会」(船田元委員長)のとりまとめ文書が、自民党・政審(政務調査会審議会)で正式に承認されました。

委員会発足当初、このブログでもご紹介した通り[https://ameblo.jp/japanvisionforum/entry-12416888076.html]、「基本問題小委員会」は国際競争力の低下により深刻な危機を迎えている日本の科学技術、中でも低迷が著しい「基礎科学の振興」と、困窮し減少する「若手研究者の支援」などを柱に設立されました。

これまでに、本庶佑氏、山中伸弥氏、梶田隆章氏、大隅良典氏など5名のノーベル賞受賞者をはじめ、科学界・産業界を代表する20余名の方々を講師として迎え、現在の科学技術政策に関する問題点の洗い出しや分析、解決に向けた検討を続けて来ました。



委員会開催中は、基礎研究の重要性に対し懐疑的な議員から批判的発言や欠席が相次ぐなど、会の存続自体が危ぶまれる時期もありましたが、その度に本庶先生から頂戴した「有志竟成」の色紙と対峙し、(志があれば、必ずやり遂げられる!)と強く自らを鼓舞し、どうにかこうにか「とりまとめ文書」を書き上げるところまで、たどり着くことができました。


このように審議中は大変難航した委員会でありましたが、とりまとめ段階では幹部議員からも一定の理解を得ることができ、なんとか党本部から申し渡されていた期限内に審議・承認の運びとなりました。


今後は日本の科学技術の復興に向け、とりまとめ文書に盛り込んだ政策提言の実現を図るべく、「政府・骨太方針」や「科学技術白書」などへの反映に引き続き取り組んで参ります。


この「基本問題小委員会」は、今後も党本部で活動を継続しますが、基礎研究を重視した科学技術イノベーション政策の振興については、“令和”の時代からは超党派での展開も模索して参ります。

政・官の政策担当者に、研究、教育、医療、産業など各“現場からの声”を届けることを第一の使命として活動を続けて行きますので、今後とも宜しくお願い致します。


それでは、次の文章が基本問題小委員会の「とりまとめ」となります。

「プロローグ」と「本文」を、平成最後の日となる本日、「エピローグ」を令和幕開けのブログに掲載し、私の科学技術復興への“誓い”とさせていただきますので、少々長文ですがご笑覧いただければ幸いです。



《科学技術イノベーション戦略調査会
基本問題小委員会 とりまとめ》
2019.4.23

【プロローグ】

 資源に乏しく超少子高齢化を迎えたわが国にとって、科学技術・イノベーション力とは、まさに「生命線」である。

 にもかかわらずここ十数年間で、日本の科学研究力およびイノベーション力は、ほぼすべての分野で急速に国際競争力を低下させている。

 研究論文の国際ランキングは質・量ともに下落。世界全体の論文数が2015年までの10年間で80%増加する中、日本は6%減と主要国で唯一減少し、人口当たりの論文数でも世界35位と先進国で最低となっている。

 特に深刻なのが高被引用論文(Top10%)の国際シェアで、20年間で4位(1993~95年) から9位(2013~15年)へと大きく下落している。中でも、日本のお家芸とも言える「ものづくり」分野でこの7年間に、自動車が3位から6位、機械は3位から10位、土木は4位から16位に下落している。

 人材面でも、大学院離れにより若手研究者が減少。人口100万人当たりの博士号取得者数は韓国の半分以下、先進国で最低レベルであり、科学技術人材の将来は危機的と言える。また大学の資金難から人手不足となり教育や事務に費やす時間が増える中、若手研究者が自律的に研究を実施できる機会も減少している。

 研究生産性も、一部国立大学への資金の集中により多くの大学の研究現場が研究時間と研究資金の不足により疲弊したことを受け、低下している。同時に、知の厚みと言える科学研究力の“多様性”も危機に晒されている。

 なぜ21世紀初頭、世界に冠たる科学技術立国であった日本の研究力がこれほど低下し、科学技術先進国の座からの失墜を、英誌『Nature』をはじめ世界から危惧されるまでに失速してしまったのか。その現状と主たる要因、解決策について産学の当事者たちからヒアリングを行い、調査検討を行なった。

【科学技術を取り巻く環境の変化】

<世界的な環境変化>

 世界では、科学技術イノベーションの推進こそが経済成長のエンジンおよび安全保障の要諦であるとして、研究開発分野で熾烈な覇権争いが繰り広げられ、日本も日夜しのぎを削っている。

 中国を筆頭に欧米や韓国など主要各国が競って政府による研究開発投資を増加させる中、日本は2001年以降ほぼ横ばいで推移。民間を含めた研究開発費総額は高水準を保っているものの、特に米中と比較した場合その伸びは小さく、両国との差が拡大しているのが現状である。

 研究人材についても、2008〜13年の博士号取得者数の変化を見ると米国24%増、中国22%増に対し、日本は8%減と主要国が軒並み増加している中で唯一減少している。

 また、情報処理スピードの加速化の恩恵もあり、近年、AIやゲノム編集など、様々な分野で研究開発から製品化までのスピードが急速に高まっている。しかしながら、世界の主要各国がAIを基幹産業と位置付け、国際競争力を高めるための戦略を策定する中、我が国はAI研究、社会実装、人材育成等で後塵を拝している。

<国内的な環境変化>

1.研究資金のシフト

科学研究予算について、主に次のような資金のシフトが図られたとの指摘がある。

⑴ 運営費交付金などの「基盤的研究費」から、「競争的研究費」へ。

⑵ 競争的研究費の中でも、費用対効果が算出しにくい「基礎的研究」から、短期的成果が得やすい「応用的研究」へ。

⑶ 「ボトムアップ型研究」から、「トップダウン型研究」へ。

そのような状況もあり、以下のような現象が生じている。

① 研究時間の不足

 基盤的経費の削減にともない、大学教員の教務や事務等に従事する時間が増加。その結果、教員の職務に占める研究活動の割合は、2002~13年の間で11ポイント少ない35%に減少している。

② 独創的研究の減少

 知的好奇心よりも競争的資金の確保を優先せねばならないことにより、「はやり」や「成果が直ぐに出やすい」研究が増加し、挑戦的・独創的な研究が減少している。

 また、ニーズプル型の研究開発が奨励され社会や企業のニーズに合致した トップダウン型研究に資金が集中する一方で、ボトムアップ型研究への資金が減少し、独創的で画期的な研究が生まれにくくなっている。

③ 中堅大学の疲弊

 競争的資金獲得競争は、設備面や人材面で優位に立つ一部トップ大学に有利に働く。米国やドイツなど主要先進国と比較しても、日本では研究費の上位大学への集中が著しいことがデータ的に示されており、大学間格差が顕著になってきている。

 中堅上位大学の多くはトップクラスの大学に比して、研究者数当たりあるいは研究費当たりの論文発表数は多く、また、研究の多様性を担保してきたと言われる。しかし、現在は極度に疲弊し、存亡の危機に立たされる研究室も少なくない。その結果、国立大学全体としての論文生産性が低下している。

④ 若手人材の大学院離れ

 40歳未満の研究者のうち任期付き雇用が6割強と増加する中で、キャリアパスや経済的不安から若手人材の「大学院(特に博士課程)離れ」が急速に進行している。

 任期付き雇用の場合、次の職を得るための活動に時間が割かれることから、例えば5年の雇用であっても実質的に研究可能な期間は2年半程度という指摘もある。こうした不安定な雇用環境は、職業としての研究者の魅力を低下させることにつながっていると考えられ、この15年間で修士から博士課程に進む学生が半減するなど、研究のグローバル化が進む中で必須と言える博士号を有する若手研究者の確保は危機的状況にある。

⑤ 知の多様性の減少

 知的好奇心に基づく基礎研究は多様なシーズを生み出す源泉であるが、近年競争的資金を獲得しにくい状況にあり、研究規模の縮小を余儀なくされている。その結果、淘汰・絶滅の危機に瀕している分野もあり、「知の多様性」が失われつつある。

2.国際性の低下

 近年、日本人留学生の数が減少、特に3か月以上の中長期の留学については激減している。また、海外から受け入れる研究者数も伸び悩んでいる。さらに、諸外国が二国間・多国間の研究ネットワークを着実に構築する中、日本は出遅れており、国際共著論文の割合も低くとどまっている。

3.政策体制のシフト

 科学技術政策の司令塔である総合科学技術イノベーション会議(CSTI)の主眼が、科学から経済に移行しつつある。当初は複数の科学者を含め4名だった常勤議員も、現在は科学者でない1名に減少し、また議員の専門分野や帰属先についても、AMED との関連もあり工学系や応用系重視の傾向が強くなっている。

 その一方で、経済力の源であるイノベーション力は低下し、例えば世界経済フォーラムのイノベーションランキングで、2012年の1位から21位へと急落している。

あわせて読みたい

「研究」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    セブンの斬新な飛沫防御策を称賛

    佐々木康彦 / ITmedia オルタナティブ・ブログ

  2. 2

    東京の緊急事態対応は「まとも」

    木曽崇

  3. 3

    緊急事態宣言を同時中継する忖度

    水島宏明

  4. 4

    よしのり氏 恐怖煽る報道に苦言

    小林よしのり

  5. 5

    二郎を残す客にALS患者が怒り

    恩田聖敬

  6. 6

    コロナで日本の通勤者 僅か9%減

    幻冬舎plus

  7. 7

    緊急事態会見はライターが上手い

    Chikirin

  8. 8

    藤浪感染で残念な私生活が露呈

    NEWSポストセブン

  9. 9

    今すぐに検討すべき現金一律給付

    BLOGOS編集部

  10. 10

    「韓国に学べ」となぜ報じないか

    水島宏明

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。