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五神総長の『大学の未来地図』から読み解く共同参画

これも、上野千鶴子先生の東大入学式祝辞に啓発された話と言えなくはない。

そもそも、京大から東大に呼ばれ「女性学」を立ち上げたという上野名誉教授に今年の来賓祝辞を依頼するというアイディアがどなたからであったのかは不明ではあるものの(その経緯の一部はAERAのインタビュー記事に残されている)、東大総長の五神真先生の合意があったからこそ可能になったものである。そして、もし入学式で英語通訳や手話通訳などの情報保障を行っているのであれば(東大については知らないが、筆者の所属する東北大学の場合は、総長式辞の中に英語パートが含まれており、それ以外の日本語の部分に手話通訳が為される)、祝辞の原稿は事前に大学に渡されていたはずであるから、上野先生の祝辞の内容は大学本部として了解済みであったということだ。

ちなみに五神総長の式辞も東京大学のHPの「式辞・告示集」から読める。良い時代になったものである。

それで、五神先生ご自身が東大の共同参画に関してどのように考えておられるのだろうと思い、近著『大学の未来地図ーー「知識集約型社会」を創る』(ちくま新書、2019年2月10日刊行)を読んでみた。


本書の中心は、「労働集約型」から「資本集約型」への変遷の後、IT化された現代においては「知識集約型社会」を目指すべきであり、そのために知を集約してきた「大学」という存在の価値があるということを軸に、「インフラとしての大学」、「ビジネスパートナーとしての大学」の在り方を提示するものである。SDGsへの対応、教養教育の改革なども書かれている。

折しも、5カ年ごとに閣議決定される「科学技術基本計画」の第6期についての議論がそろそろ始まるタイミングでもあり、第5期で提示された「Society 5.0」のその後を考える上でも、たいへん参考になる資料であった。「あとがき」でも謝辞として述べられているが、各種資料を作成された事務職員の方々の努力も讃えたい。

さて、女性研究者や女性教員について、本書の中では最終の第7章「研究に打ち込める大学へ」で扱われている。

この章で最初に触れられているのは「若い研究者をどう育てるか」ということであり、図7−1として2006年から2012年の間に若手のポストが任期付きに大きくシフトしたことの問題点が指摘されている。「ポストドクター1万人計画」でポスドクとなった研究者の中には、現在、40代後半の方も多いので、このイシューは単に35歳以下の雇用を創出しなければならない、というような単純なものではないことに留意しなければならない。

会議時間を短くして、研究時間を確保すべきであることや、事務系職員の処遇を改善すべきという方策も本書で提示されている。

で、ようやく女性のイシューに到達する。以下、本書より引用。

 個人的な話になってしまうのですが、私は妻と共働きで娘を育てていました。子育てをしていると、子どもが急に熱を出したり、予定していたベビーシッターが来られなくなったりと、予想外のこともよく起きました。
(中略)
 出産や育児を経験する研究者にとって、長時間の会議にいくつも参加し、遅い時間まで研究室で仕事をするような働き方は問題です。男性研究者であれ、女性研究者であれ、パートナーに家事・育児を押しつけることになりますから、こうした状況は改善しなければなりません。
 東大の場合、女性教員は全体の約18パーセントしかおらず(筆者注)、まだまだ少ないのですが、その背景には働く環境が未整備であることも影響しています。男女を問わず、ライフイベントと仕事の両立ができるようになれば、女性だけでなく男性にとっても望ましい環境となるはずです。

筆者注:手元の資料からは東京大学の女性教員は18%もいない(13%)と思われるが(下記、文科省資料に基づく7大学の年次経緯)、五神総長のデータはどういう基準だったのであろうか・・・。そもそも、東大入学者の女性比率が18.1%だったくらいだ。


本書はその後、保育園整備の話や、東京都女性活躍推進大賞受賞のエピソードなどが続き、「多様性と女子学生支援」の話となる。

東京大学における女子学生が少ない理由として、地方の女子生徒が進学しにくいのではないか、ということで「女子学生に対する住まい支援」を行ったという話が出てくる。五神先生によれば、一種の「アファーマティブ・アクション」として、「東京大学は女子学生を歓迎します」というメッセージを発信したつもりらしい。

ただし、これが功を奏していないことは、今年入学した女子学生がさらに減ったことから明らかだと筆者は考える。女子寮を造るよりは、経済支援の方がコストパフォーマンスが良いと判断されたようであるが、「18歳の女子学生が初めて東京で一人暮らし」ということに対しては親御さんの不安も大きいだろう。(ちなみに、東北大学は超理系大学であるが、現在、学部の女子学生比率は27%前後。ユニバーシティ・ハウスには女子フロアがあり、定員の男女比から、今のところ、女子学生の方が入寮のチャンスが高い。)

上野先生の祝辞の中にもあったように、男子学生にとって東大に入学するということのメリットとディメリットは、前者が限りなく大きいのに対し、女子学生にとっては必ずしもそうではない。「東大生であることを伝えない女子学生」は現実に存在する。(どなたかのブログか何かにまとまっていた気がするのですが……)

つまり、問題はお金だけではない。とくに地方では大学進学率も30%代のところはいくつもあり、東京のように50%以上の18歳が大学に進学する地域とは文化が異なる(もちろん、その背景に経済格差も存在する)。「娘は短大で良い」と考える親が地方には多い。

さらに、女子学生にとって魅力的なロールモデルが十分に存在するかどうか、自分にとってのキャリアパス、自分の「未来地図」(いわばドリカムの「未来予想図」)が描けるかどうかも大きな問題なのではないだろうか。

実は、本書の中ではもう1ヶ所、女性のキャリアパスについて言及されているところがある。それはどこか、あえて明確にしないでおくので、ぜひ、興味を持たれた方は本書を読んで探してほしい。

それは、五神先生の娘さんが幼稚園のときに、先生の実験室に来られて、レーザーの赤や緑の光が「きらきらしてきれい」と喜んだという昔話。以下、引用。

「将来はパパのお手伝いをしたい」と口にしていた時期もあったものの、小学校高学年になるとパタっと言わなくなりました。娘は文系に進み、今は民間企業で働いています。

私たちが東北大学サイエンス・エンジェル(自然科学系女子大学院生の有志)の活動として科学イベントを開催する際も同様だが、小学生では女児も興味シンシンで科学実験に参加している。恐らく、そういう女の子たちも小学校高学年になり、将来のキャリアを踏まえた進路などを考える時期になって、周囲からの種々の情報を鑑みて「文系」進学を選ぶのかもしれない。その方が「幸せな未来予想図」として描かれているのだろう。

五神総長がもし本気で東京大学のために、そして日本の将来のために人的多様性が重要だと考えられるのであれば、まずはロールモデルとなる東大の女性教員を3割まで上げれば良い(3割の壁については別途論じるつもりであるが、直近では、総研大学長の長谷川眞理子先生の毎日新聞記事でも触れられていた)。そうすれば、男性中心組織でわからない気づきが多数あるだろうし、必然的に働き方改革をせざるを得ず、それは男性教職員にとっても望ましいことであるし、きっと世界から優秀な女子学生が集まるに違いない。また、3割以上の女子学生が東大のキャンパスの中にいるようになれば、その影響は将来、各界で活躍するであろう男子学生にとっても大きな影響があるだろう。

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