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当事者は「歌う」~フレディ・マーキュリーと「ボヘミアンラプソディ」

■ボヘミアン・ラプソディ

クィーンというかフレディ・マーキュリーの映画「ボヘミアン・ラプソディ」がようやくiTunesに入ったので、超超遅まきながらようやく僕も同作品を見ることができた。

マイノリティや当事者(ここではセクシュアルマイノリティ)に非常に優しい映画で、かつドラマティックなクィーンの楽曲と俳優陣の熱演も含め、印象的な映画であることは確かだ。

が、僕にはなんとなく、フレディ本人に届くようで届かない、フレディの言葉と声と感情は全編に溢れ出てはいるが、フレディの抱えた圧倒的孤独と他者への思いについて掴みきれないまま終わった2時間強だった。

やはり、イメージの集積である「映画」という媒体では、マイノリティ当事者の抱える圧倒的孤独は表象しきれない。マイノリティ当事者、つまりは「サバルタン」の抱える沈黙については、その沈黙を突き破る「ことば」がまずはほしい。

そんなことを思いながら見終えた作品だった。名作ではある。けれども、音楽と映像だけでは、やはり「当事者は語れない」。

■その差別社会は混乱しない

その当事者の語れなさのリアルな感じは、前回の当欄に僕は書いた(高校生は傷つきながらも静かに日常を過ごすことを知っているか)。当事者は、傷ついた時、微笑を浮かべつつ沈黙する。そのリアルな感じは、側にいるとなんとなく伝わってくるものの、彼女ら彼らが現在進行形で「傷ついた」とは決して発言できないため、想像するしかない。

その「想像」は、たいていの場合は的外れになる。

たとえば、当欄でも度々とりあげるG.C.スピヴァク は代表作『サバルタンは語ることができるか』のラストで、100年以上前のインドのある少女の死をとりあげる。

自死したその10代後半の女性は、どうやら政治闘争に巻き込まれた挙句の自死だったと、あとになって一部の関係者から想像される。

けれども、自死の直後は、家族や親族が思い描いた別の「想像」が、その自死の原因として主流を占める。

その自死の原因とは、恋愛関係のもつれ、だった。ハイティーン女子「らしく」、その女性はもつれた恋愛関係に疲れ果てて死んでしまった。そのように、家族や親族の間では受け止められる。

そのほうが、若い女性の自死の原因としては「よくあること」だからだ。

それとは逆に、10代後半の女性が政治闘争(つまりはインドの下流階層における反体制運動のいざこざ)に巻き込まれて死ぬということは、社会の主流に占める人々には想像しにくい。

そうした人物がその社会に存在してもらっては困るから、だ。なぜなら、10代後半の女性が命を賭けるほど混乱した社会だと、その自死は証明してしまうから。

だからこそ、当事者の行ないは、いつもピント外れなものとして、その時々の社会は位置付ける。10代後半女性の死は「恋愛のもつれ」だと位置付けると、その差別社会は混乱しない。

■その足りなさを埋めるツールのひとつが「うた」

「ボヘミアン・ラプソディ」において、フレディの死は、HIV患者の死、セクシュアルマイノリティ当事者のひとつの死として、言外に位置付けられている。

それはそうなんだろう。

が、最初に書いた通り、イメージの奔流としての映画作品のなかでは、フレディの死の意味ははっきりとわからない。だが我々はフレディの死の理由についてはっきりと知っており、100年前のインドの少女の死のようには歪曲されていないことはわかる。

が、その歪曲のされなさや医学的根拠とは別に、フレディの短い人生の「かなしみ」を想像することはできる。

当事者は語れない。けれども、「恋愛のもつれ」等の典型的事例として処理するのも申し訳ない。事実は「政治闘争の疲れ」なのだろう、また、「HIV患者としての生き様」なのだろう、そしてそれを説明する「ことば」はまずはほしい。

けれども、そこにも含まれきれないたくさんのものがある。

それは、たぶん「ことば」だけでは説明し尽くすことはできない。その当事者の苦しさを説明するには、まずは豊穣なことばは必要ではある。HIV、政治闘争等、それらの問題と当事者の苦しみを表現するには、まずはことばが必要だ。

が、それだけではおそらく何かが足りない。

その足りなさを埋めるツールのひとつが「うた」だ。そして、フレディの伸びやかな声とそのはにかんだ微笑だ。

つまり、当事者は「歌う」ことよって、当事者が語れないことを補う。

「ボヘミアン・ラプソディ」のヒットは、あのピアノのイントロと、「ママー」という最初のワンフレーズこそが、当事者を表象すると誰もが納得したうえでのヒットだった。

「ボヘミアン・ラプソディ」の予告

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