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屋良沖縄県知事の葬儀に供花した今上天皇の沖縄への特別な思い - 辻田真佐憲

約200年ぶりとなる天皇の「譲位」が行なわれる令和元年5月1日が迫ってきました。

明仁天皇は退位にあたって何を言い残し、徳仁新天皇は即位にあたって何を告げ知らせるのでしょう?

天皇の言葉はわかりやすいようで、実は、奥が深いもの。過去の発言や歴史を踏まえなくては、その真意を読み解くことができません。

辻田真佐憲さんの『天皇のお言葉~明治・大正・昭和・天皇~』は、この稀有な歴史的機会を冷静に立ち会うための必読書です。

昭和天皇の時代では未完に終わった「象徴天皇制」の在り方に意志をもって取り組んだ今上天皇。とりわけ戦争の犠牲が大きかった沖縄にも特別な思いがありました。

「先例を云々するのはおかしい」(平成九・一九九七年)

天皇はとくに沖縄を重んじた。皇太子時代よりたびたび足を運び、沖縄への思いを語り、琉歌(八・八・八・六音からなる現地の叙情詩)にも取り組んでいた。

一九九七年二月に屋良朝苗(やらちょうびょう)が亡くなったときも、その思いの一端が明らかになった。屋良は、本土復帰後に最初の県知事をつとめた政治家だった。天皇はその訃報を聞くや、葬儀に供花するように希望した。

ただ、天皇皇后の供花には基準があり、県知事の経験だけではそれを満たせなかった。そのため、渡邉允侍従長が先例のない旨を告げると、天皇はいつにない口調でこう反論した。

屋良さんは普通に県知事を経験した人とはちがう。沖縄が日本に復帰して初めての沖縄県知事を務めたという人は他にいないはずだ。先例を云々するのはおかしい。

そして天皇は、屋良夫人へ弔意も伝えるように指示した。渡邉は、みずからの浅慮を恥じて、指示どおりの対応を行なった(『天皇家の執事』)。

ちなみに、天皇は侍従を含めてすべてのひとを「さん」づけしており、これは呼び捨てが基本だった先代までと大きく変わった点だった。そのほぼ唯一の例外が「さかなクン」だった(二〇一〇年の誕生日会見)。

このクニマス発見に大きく貢献され、近くクニマスについての論文を発表される京都大学中坊教授の業績に深く敬意を表するとともに、この度のクニマス発見に東京海洋大学客員准教授さかなクン始め多くの人々が関わり、協力したことをうれしく思います。

それはともかく、沖縄にかんする「お言葉」はこれにとどまらなかった。一九九九年一一月一〇日、在位一〇年で記者会見したおりも、天皇はやはりその気持ちを率直に吐露した。

沖縄県では、沖縄島や伊江島で軍人以外の多数の県民を巻き込んだ誠に悲惨な戦闘が繰り広げられました。沖縄島の戦闘が厳しい状態になり、軍人と県民が共に島の南部に退き、そこで無数の命が失われました。

島の南端摩文仁に建てられた平和の礎には、敵、味方、戦闘員、非戦闘員の別なく、この戦いで亡くなった人の名が記されています。そこには多くの子供を含む一家の名が書き連ねられており、痛ましい気持ちで一杯になります。

さらに、沖縄はその後米国の施政下にあり、27年を経てようやく日本に返還されました。このような苦難の道を歩み、日本への復帰を願った沖縄県民の気持ちを日本人全体が決して忘れてはならないと思います。

私が沖縄の歴史と文化に関心を寄せているのも、復帰に当たって沖縄の歴史と文化を理解し、県民と共有することが県民を迎える私どもの務めだと思ったからです。後に沖縄の音楽を聞くことが非常に楽しくなりました。

天皇はまた、こんな細やかな配慮もみせた。ある年の歌会始めのお題に、「駅」が候補のひとつとして提出されたことがあった。天皇は、すべての国民が詠みやすいように毎年慎重にお題を選ぶが、このときも、

沖縄県には鉄道がなく、したがって駅がない。この題は、沖縄の人には詠みにくいだろう。

と述べて、別のお題を選んだ。二〇〇三年に、沖縄都市モノレール線が開通する前のことだった。「日本国民統合の象徴」と一口にいっても、それは日々のこうした行動の積み重ねにかかっているのである。

せっかくなので、天皇の琉歌も紹介しておきたい。二〇〇四年一月、天皇は皇后とともに沖縄を訪れ、国立劇場おきなわの柿こけら落とし公演「執心鐘入」を観劇した。

国立劇場の設置は、東京の国立劇場、国立能楽堂、新国立劇場、大阪の国立文楽劇場につづいて、五番目だった。天皇はそのことを痛く喜び、つぎのように詠ってその門出を祝った。

国立劇場沖縄に開き執心鐘入見ちやるうれしや

コクリツゲキジョウ ウチナーニフィラチ シュウシンカネイリ ンチャルウリシャ

 この御製の歌碑は現在、同劇場の構内に建てられている(『天皇家の執事』)。

*   *   *

続きは、『天皇のお言葉~明治・大正・昭和・平成~』をご覧ください。

辻田真佐憲『天皇のお言葉』

天皇の発言ほど重く受け止められる言葉はない。近代国家となった明治以降、その影響力は激増した。とはいえ、天皇の権威も権力も常に絶対的ではなかった。時代に反する「お言葉」は容赦なく無視され、皇位の存続を危うくする可能性もあった。そのため時代の空気に寄り添い、時に調整を加え、公式に発表されてきた。一方で、天皇もまた人間である。感情が忍び込むこともあれば、非公式にふと漏らす本音もある。普遍的な理想と時代の要請の狭間で露わになる天皇の苦悩と、その言葉の奥深さと魅力。気鋭の研究者が抉り出す知られざる日本の百五十年。

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