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「自分へのごほうび」が悪魔の囁きなワケ

節約中の衝動買い、ダイエット中の衝動食い……。誰にも心当たりがあるのではないでしょうか。あとで後悔するのに、なぜ、私たちは同じことを繰り返してしまうのか、行動経済学の視点で解説します。

■選択には不安と後悔がつきまとう

人が生きていく上では、毎日が「選択」の連続です。上は就職や結婚といった人生における一大事から今日のお昼は何を食べようかというレベルまで、人生に「選択」は常につきまといます。一般的に女性は男性と違って「何かを選ぶ」ということを好む傾向があるようです。多くの男性は選ぶこと自体がストレスであるのに対して、女性は選ぶことが楽しいという人が多いのです。ところがやっかいなことに、この「選択」には常に不安と後悔がつきまといます。例えば買い物において「赤いセーターを買っちゃったけど、やっぱりあの青い方が良かったかなあ」とか、「もう一軒見てから決めた方が良かったんじゃないかしら」といった具合です。

もちろんそれも含めてあれこれ選ぶのは楽しいのでしょう。ところが一方では、そういった不安や後悔を無くそうと、無意識のうちに自分が選んだことを正当化しようという気持ちが出てきます。「今日はいつもより安かったからこれを買ったの」とか「電気代が安いのが一番だからこの機種を選んだのだわ」といった具合に選んだ理由を探そうとします。

■“無料”の罠

ところがこの「選ぶ理由」を探そうとする中にいくつもの罠が待ち構えているのです。中でも割と陥りがちなのが「無料だからお得」という罠です。「あと〇〇円買えば送料無料」とか、「2000円以上お買い上げで駐車場無料」といった言葉に引き込まれて、つい、余分な買い物をしてしまうことがありませんか? こうした無料サービスに多くの人が魅力を感じるのは、「無料だからお得だ」と単純に勘違いしてしまうこともあるでしょうが、実は「選択で損をしたくない」という気持ちが大きく作用しているような気がします。


※写真はイメージです(写真=iStock.com/Kritchanut)

先程も言いましたが、何かを選んで買う場合、買わなかったものの中にもっと良いものがあったのではないかという不安があります。ところが無料の場合はそういう不安はありません。なにしろ“無料”だからです。金銭的な出費がないため、どれを選んだとしても損はないと考えるのです。ところが安心して無料でもらったり、サービスを受けたりしているうちに、つい余計なものを買ってしまうことはしばしばあることです。仮にそんなことはしなかったとしても、無料だからと言ってあまり必要のないサービスを受けることは時間の無駄です。

人間は一般的に何か行動を起こすときには因果関係と理由づけを求めるものです。「~だからこうなった」という因果関係がないと、どこか気持ち悪いと感じる傾向があります。さらに自分の行動や判断が絡んでくると「理由づけ」を求めたがるのです。「無料だから」というのもそうした行動の理由づけの一つです。でも数ある「理由づけ」の中でも最もタチが悪いのが「がんばった自分へのごほうび」という言葉です。

■「楽しんだ自分」と「ダメな自分」のはざまで

この言葉は誰もがよく使います。何かを衝動買いしてしまったとか、あるいはダイエット中にもかかわらずおいしいスイーツをいっぱい食べてしまったというケースでしばしば使われます。「これは最近、仕事を頑張っているのだからそれに対するご褒美だ」と自分で自分を納得させる、あるいはまわりの人に言い訳する時によく使われるフレーズと言っていいでしょう。SNS等を見ていると、こういうコメントや書き込みは頻繁に出てきます。言わばごく日常的に使われている言葉ですが、どうしてこれが最もタチが悪いのでしょう。

本来、モノを買ったりおいしいものを食べたりしたいと思うのは人間の自然な欲求です。場合によっては衝動買いをしたり、ダイエット中にもかかわらず突然たまらなく甘いものが食べたくなってケーキを2個も食べてしまったりする、こういうことは人間だれしもあることです。行動経済学では多くの人がそうだと考えます。1年先のスリムな姿を想像して食べるのを我慢するよりも、目の前にあるショートケーキに対する魅力のほうがはるかに大きいのは当然でしょう。したがってたまには衝動買いや食べ過ぎてしまうのはしょうがないのです。

ところが何も理由がないのに、あるいは何も因果関係がないにもかかわらずそういう行動(衝動買いや衝動食い)をしてしまうと、後ろめたい気持ちになってしまいます。そこで「これはがんばった自分へのごほうび」という理由づけをおこなうのです。この心理は「認知的不協和の解消」といって、「楽しんだ自分」と「自制心のないダメな自分」という矛盾や心の痛みを解消するために理由をこじつけてしまうのです。

■“自分へのごほうび”が最悪な理由

人には「確証バイアス」という心の傾向があります。これは自分の意見や考えに合うものだけを受け入れたがるという心理で、自分の考えや行動に自信がない場合、それを補強してくれる考えや意見を探しがちになるということをあらわしています。「これ、良いよね」と言って周りの友達に同意を求めたがるのもそういう行為です。でも「自分へのご褒美」は確証バイアスよりももっとタチが悪いのです。なぜなら他人の意見による補強ではなく、自分自身による「行動の自己正当化」「因果関係のねつ造」だからです。

欲しいものがあれば買えばいいし、食べたいものがあれば食べればいいのです。別にそれに理由づけをしたり、正当化したりする必要は何もありません。ところが、「本当にこんな高いものを買っちゃってどうしよう!」とか、「あー、せっかくダイエットしていたのについパフェを食べちゃった」という後ろめたい気持ちがあるから「自分へのごほうび」という言葉でごまかそうとするのです。でもこれはとても危険です。なぜなら「自分へのごほうび」ということにして、正当化してしまうと、それは単に言い訳をしているだけで、そこに反省も対策も出てこないからです。なにしろ「自分へのごほうび」というのはオールマイティのカードですから、これを切り続けると際限なく無駄遣いが続くことになってしまいかねません。だからこの言葉は最悪なのです。

■無駄な失敗経験も大事

一般的には衝動買いや食べ過ぎるのを防ぐには行動習慣でルール化するのが一番良い方法だと言われています。例えば買い物や食事についてはできる限り計画的にやるとか、無目的にウインドーショッピング等に出かけないことが大切だとはよく言われることです。

でもそれでは生活がつまらないですよね。たまにはパーッと買い物したりおおいに食べたりしてストレスを発散したいものです。ですからあまり窮屈に考え過ぎない方が良いと思います。そういう失敗を深刻に考え過ぎるから「自分へのごほうび」としてごまかし、正当化してしまうことになるのです。でもそれを続ける限り、いつまで経っても同じ失敗を繰り返してしまうでしょう。大事なことは、うっかり無駄遣いやルール破りをしてしまってもあまり深刻な気持ちにならないことです。「あ、やっちゃった、まあいいか」というおおらかな気持ちでいればいいのです。人間であれば誰でも衝動買いはやっちゃうし、そういう無駄な失敗経験も重ねることは大事です。

(経済コラムニスト 大江 英樹 写真=iStock.com)

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