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関わった人をみんな潰す、34歳パワハラ課長 - 吉田典史 (ジャーナリスト・記者・ライター)

パワーハラスメントによる被害が後を絶たない。だが、小さな会社では、はるか前から日常茶飯事に見られた光景である。それを多くの人が少なくとも数十年間、黙認してきたがゆえにここまでの広がりをもってしまったととらえることもできるのではないか。

(LewisTsePuiLung/gettyimages)

今回は、パワハラの古典的な職場である中小企業の部長職の男性(49歳)に「仕事で関わった人を次々と潰してしまう34歳の課長」について語ってもらった。

この課長は部長の部下ではないが、同じフロアに勤務するために、ふだんから観察ができるという。筆者は、10年以上前から部長とは取材を通じて様々な事例の提供を受ける関係だ。

今回の事例は特定がされないように、匿名とした。特に取材(聞き取り)のポイントは、主に次の点である。

「パワハラをする課長はなぜ、その上の上司や周囲から問題視されないのか」  「なぜ、堂々と不当ともいえる行為を繰り返すことができるのか」

なお、2016年度の厚生労働省の調査では、中小企業(従業員99人以下)の半数以上はパワハラの相談窓口がなく、会社が問題を把握していないケースが多いとされる。結局、パワハラをする上司などの巧妙な嘘や策略でなかなか見えないのではないだろうか。パワハラを防止するうえでここが、最大のポイントなのだ。

だが、なぜか、識者たちは指摘していない。次にあげる事例のどこに、読者諸氏は疑問を感じるだろう。

事例の職場:広告代理店。社員数:120人程(正社員は90人、ほかは契約社員や派遣社員、パート社員など)。創業40年程。非上場で、社内に労働組合はない。

彼は、「ここまでするとトラブルになる」という想像力がないの

彼(34歳、課長)は、仕事で関わった人をみんな潰すんだよね。たとえば、部下や同僚、ほかの部署の管理職、外部のスタッフなど、この1年で10人以上が被害に遭った。多くは精神的に滅入ってしまうか、辞めていくか…。いずれにしろ、社内では「困った人」として知られている。「サイコパス」とささやく社員もいるね。実際のところは本人も含め、誰もがわからないのだろうけど。

30代前半で、うちの会社が3つ目。前職も広告系の会社で、数年で辞めた。上司との摩擦があったらしい。うちには中途採用試験で入り、現在4年目。慢性的に離職率が高いし、新卒採用は過去10年で数回しかしていないから、彼ぐらいでも30代前半でヘッド(課長)になれる。去年から一応、課長に。誰もが、うちでは30代で課長になるけどね。

この1年で、20代の部下2人と30代の年上の部下をめちゃくちゃくに叩き潰して、今や部内(部員は6人)で怖いものなし。部下たちが意見を言うと、全否定。常に自分の考えに従わせる。それが、「管理職の仕事」と信じ込んでいる。部下の言い分が正しい場合もあるんだろうけど、必ず否定。そもそも、課長とはいえ、まだ34歳。経験豊富とは言い難い。判断ミスもするし、要領を得ない発言も管理職会議ではしている。

ところが、部下から意見を繰り返し言われると興奮し、部下を追及し、なじる。フロア全体に聞こえるほどの声…。管理職としてたった1年で、小さな会社のワンマン社長のように振る舞う。

第一印象は、洗練されている。だが……

第一印象は、洗練されている。値段が高そうな眼鏡をかけ、名門私立の附属小学校上がりという感じ。お坊ちゃまなんだろうね…。小さいころから極端に甘やかされ、育ったという噂。自分を常に相手よりも高いところや優位な場所においていないと、心が落ち着かないみたい。

仕事への姿勢はいいし、努力家。理解力も高い。几帳面で、ひたむきさもある。大きなミスはないけど、大きな成果もない。30代前半では、ごく普通の実績。それでも、上司(本部長)のお気に入りで、人事評価も同世代の中では高いと聞く。部下を潰したりしたことを隠して、嘘の報告をするから、本部長は丸め込まれているのかな。

彼の大きな特徴が、極端に利己的であること。常に自分のことを優先し、他者や周囲への配慮がない。彼の場合は、「ここまでするとトラブルになる」という想像力がないの。猜疑心が強く、周囲をとにかく信用しない。自分中心でないと、耐えられないから、少しでも否定する者を受けつけない。

だから、その可能性がある部下や同僚、外部のスタッフに先制攻撃を仕掛ける。その意味での、策略たるスキルやすごい。こちらから見ていると姑息で、稚拙で、バレバレなんだけど…。あくまで自分の考えを押し通す。

たとえば、彼が1年前から、外注先にあるデザイナーをスタッフから外したかったみたい。常に自己愛が極端に強く、自分中心だから、デザイナーから厳しく言われるのが嫌。デザイナーは40代後半で、業界では実績は上位50番以内。仕事の進め方などで、「課長としてもっとしっかりしてほしい」と言われていたみたい。

彼は、得意の嘘の報告を本部長にする。意のままに動く、もっと実績に欠しいデザイナーを新たに起用したいと思ったみたい。動かすことができない自分の未熟さには目を向けない。こういう目標を立てると、デザイナーと会社や部署との関係、その後のことがどうなるかと想像できない。部員たちから聞いたのだけど、上司である本部長から「なぜ、デザイナーのAを外したいのか」と聞かれると、「ほかの仕事で忙しいのです」と答えたらしい。

これも嘘。Aさんとこの男はその意味での話し合いなどしていない。僕が、Aさんに確認したから…。彼は意のままに動くと思えるデザイナーのBを引っ張ってきた。

これでうまくいけばいいかもしれないが、同じことの繰り返し。Bが「課長として仕切りをきちんとしてほしい」と言うと、興奮し、なじる。本部長には「Bは協調性がない」と、嘘の報告。本人もどこまでが事実か、どこからが嘘であるかをわからなくなっているんじゃないかな。

彼みたいな人は、多くの社員と感覚が違うんですよ

彼は自らの能力や経験不足を受け入れるしかないのだけど、それができない。セルフイメージがあり、それが傷つくのを極端に恐れているのかな…。絶対に他責であり、自責をしない。  

時々、部下に思いやりの言葉をかけるようだけど、自分のプラスになるように使っているだけだろうね。徹底して利己。相手のことを考えることが、どうしてもできない。こういうタイプが課長になると、部下たちは怯え、そんたくをする。こんなことをすればいいんだろう、と先回りをして、あることをしようとする。ここで、彼が怒り始める。パワハラの嵐…。激高して追い詰める。

部下たちはますます委縮し、結果としてさらにそんたくをする。これが悪循環なんだけど…。そんたくとパワハラはある意味でワンセットだけど、いったんこのスパイラルにはまると、際限がない。みんなが潰れていく。職場も痛む。本部長は何かを言うべきだろうけど、完全に丸め込まれている。彼の代わりの人材もいないしね。人材難だから。自浄作用が働かないと、こうなるよ。

周りの社員? 僕も含め、ほぼ全員が、サイコパスみたいな彼には深入りをしない。関われば、攻撃を受けるから…。彼は勝つまで攻撃を繰り返す。その策略たるスキルや、めちゃくちゃすごい。みんなからは、バレバレだけど。

彼みたいな人は、多くの社員と感覚が違うんですよ。どちらがいいか、悪いかじゃなく、双方が違う背景や文脈で生きている。日本語で意思疎通をしても、考え方が違うから、深い会話はできない。このタイプは常に自分の論理を押し通すことしか考えない。会社や部署の業績や周囲、相手のことに想像を働かせることができない。こうすると、相手はこう思うだろう、とは感じられない。

そこでトラブルが起きると、嘘をつき、詭弁を繰り返す。それで良心の呵責なんて感じないでしょう。闘い方を変えるんですよ。剣でうまくいかないから、今度は銃にしようって。で、自分の目標を実現するべく、嘘をつきまくり、詭弁を繰り返し、相手を陥れ、貫徹する。で、また、失敗。

多くの社員とは違う背景や文脈で生きているから…。彼には彼のロジックがあるんだろうね。それはそれで仕方がないんじゃない?自己愛が異様なほどに強い。わかちあえない相手と話し合って、何の意味があるの?人生のムダ、ですよ。こんな欠陥を抱え込んだ人と深入りしないのは当たり前なのに、パワハラの議論で抜けている視点じゃないですか?わかち合うとか、理解し合うなんてできないし、しちゃいけないでしょう。

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