
貧困支援には早期のアプローチが重要
——LFAは2016年にこのプロジェクトに参画されたそうですが、LFAの学習支援と第三の居場所ではどういった違いがあるんでしょうか?
李:最も大きな違いは、学習だけでなく食事や生活、家庭など、丸ごと含めた支援がおこなえるところです。子どもの困難には、経済的貧困のほかにも、虐待問題、発達障害など、さまざまな難しさが絡み合っています。そのため、学習支援だけでは本質的な支援には至らないという歯がゆさを感じていました。そんな矢先にこのプロジェクトの話を聞き、ぜひ協力したいと感じました。
本山さんからもお話があったように、「第三の居場所」では親御さんと協力しながら子どもの支援を行います。これに加えて、各拠点には必ずソーシャルワーカーが常駐しています。ですから必要に応じて児童相談所と連携したり、市の教育センターに繋いだりというようなことも行うことができます。
——なるほど、専門機関との連携があるんですね。
李:そうなんです。「行政や病院に相談するほどでもないけど少し気になる」ということを、親御さんが気軽に相談してくれる最初の窓口になれていると思います。また、小学校低学年を対象としているのもLFAの学習支援拠点との違いの一つですね。
——LFAの学習支援拠点で対象としているのは?
李:小学4年生から中学3年生まで、特に多いのが中学生なんですが、中には中学3年生でLFAにたどり着いて、九九を覚えるところから始めなければならない子もいます。
そうすると、そこからその子がどれだけ努力しても、また私達がどれだけ支援しても、高校受験に間に合わないんです。残念ながら高校受験に失敗してしまった子の中には、やむを得ず定時制の高校に行ったものの、結局はそこもやめてしまって、低賃金労働に従事せざるを得なくなったという子もいます。学習支援を貧困対策として十分に機能させるには、やはり早い段階でのアプローチが必要なんです。

——「第三の居場所」が出来たことで、やってくる子どもたちに目に見えた変化がありますか?
李:それはもう十分にあります。たとえば、小学校低学年でやってきたある男の子は、最初のうち感情のコントロールがあまり得意でなく、周りの子と激しい喧嘩をしたり、暴力を振るってしまっていました。けれども、スタッフが寄り添って、時間をかけて丁寧なケアをしていく中で、どんどん変わっていきました。今では他人の気持ちを尊重し、自分の気持ちを抑えるということもできるようになったんです。年下の子達からも慕われ、頼もしいリーダー的な存在になりました。こうした子どもたちの姿を見るにつけ、このプロジェクトの意義を改めて実感します。
——現在15拠点とのことですが、今後も増えていくんでしょうか。
本山:計画では来年度中には30拠点、中長期的には2022年までに100拠点を開設予定です。ひとつ拠点を作るのに1年ほどかかるので、すぐに増やすということができないんです。
——開設までの1年には、具体的にどういった準備をされているんでしょうか?
本山:開設予定地の近隣住民の方に事業について説明させていただいたり、行政や地元の福祉団体の方との関係作りを行います。特に近隣住民の方から理解を得るのは極めて重要なことで、ここがクリアできずに開設できなかったケースもあるんです。
どんな人達が運営しているのか、どんな子どもたちが来るのかがわからない以上、不安を抱えてしまうという方もいらっしゃるんですね。ですから丁寧にお伝えして、安心して頂く必要があります。また開設後もスタッフが地元のお祭りに出たり、懇親会に出たりすることで、地域との関係作りを継続的に行っています。
——地域との連携が重要なんですね。
本山:そうなんです。というのも、地域や行政との信頼関係を築き、密接に連携することで、本当に支援が必要な家庭とのつながりが得られ、見えないSOSにもいち早く対応できるからです。

子どもの貧困対策のもたらす経済効果
——日本財団子どもの貧困対策チームは2015年、子どもの貧困を放置することで、将来的には社会に40兆円超の経済的損失があるという調査結果を発表されました。
本山:ここまでお話してきたように、家庭の経済状況と子どもの学力には相関があります。学力は学歴の差となり、就職も左右します。特に大学に進学しなかったり高校中退した場合、就職率が下がったり、また職に就いたとしてもアルバイトやパートなどで、保証が得られない状況に陥る傾向があります。
こういった子どもの貧困問題に対し、「第三の居場所」や学習支援のように何らかの対策を講じることで、本人の将来の賃金が上がります。すると自ずと所得税、住民税などを払うので税収も上がる。政府の財政も良くなり、社会全体のサービスも向上します。
——なるほど。
本山:逆に、子どもの貧困に対して何の対策もなされず、可能性の芽を潰されたまま育った子どもが働けなくなってしまった場合、生活保護などの社会保障を受給することが考えられますが、それらには当然、税金が使われます。そういったことを全て積み重ねて試算していくと、現状7人に1人といわれる子どもの貧困対策を講じないことによって、約40兆円の経済的損失が生まれるのです。
ですから「貧困は自己責任、支援する必要はない」と考えるのでなく、社会全体が、何より自分ごととして考えなければいけません。

李:子どもの貧困対策として国の投じる予算は十分とは言えません。学習支援団体や子ども食堂など、現在数多くのNPOが頑張っていますが、職員達の労働環境も非常に悪く、アルバイトとかけ持ちしながら活動するという状況も当たり前に見られます。こういった現状も、政府の後押しによってきちんと改善される必要があります。貧困問題は民間で解決する問題ではなく、社会全体の問題として、最後には国が責任をもって解決すべきものです。
本山:私たちが望むことは、「第三の居場所」が今後ますます増えて、街中に多く見られるようになることで、貧困家庭の子どもたちに居場所が必要であるという認識を、社会にもっと広く持ってもらうことなんです。100拠点できたとしても、支援の必要なすべての子どもをカバーできるわけではありません。ですから、こういうやり方でうまくいくということが実証できたら、今度は政府できっちりと予算をつけて制度化してもらう必要があります。
——そのモデル作りを行われているということなんですね。
本山:そうです。子どもの貧困は解決できる問題です。ぜひ想像してみてください。子どもへの、一つ一つの小さな積み重ねで、一人の人生が結果として大きく変わっていく。そして一人の人生が変わるという尊いことが100回、1000回と起きることで、社会をより良くする大きな変化になっていく。少なくとも私はそう信じて、この活動を行っているんです。
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今回お話を伺って、子どもたちに適切な教育機会と生活環境とを提供していくことは、子どもたちとその家族をサポートするばかりでなく、未来の私達の生活にも、直接良い影響を与えるものであることがわかりました。改めて、子どもとその家族を、社会全体でサポートしていくことの重要性を感じました。
加えて、貧困やそれに付随して起きるさまざまな困難は、誰にとっても決して他人事ではありません。「第三の居場所」のような取り組みが広く知られることによって、困ったときに他者の力を借りる、誰かを頼るといったことが、選択肢のひとつとしてもっと当たり前に想起される社会になるといいな、と思います。