- 2019年04月24日 09:15
万年不正スズキは"帝国重工"以上にヤバい
2/2正しい仕事をする者ほど検査課内で疎まれるような風潮
他部署から理不尽な要求を受けたら上司に報告し、対処してもらうのが普通だが、「多く不合格を出し、ラインを停止しがちな者は検査課内においても疎まれるような風潮があった」という。つまり、上司も見て見ぬふりを決め込んでいた可能性が高い。「上司や先輩に不合格を合格にして良いと言われた、他の人がやっているのを見て、自分もやって良いと判断した」という供述もある。
検査員の中には不正検査を行うことを当初は悪いことなのではないかとか、心理的抵抗があった人もいたようだが、こうした状況では何を言ってもムダだと思ってしまうのも不思議ではない。仕事に対する意欲が上がるどころか、ますます低下していくだろう。
現場の雰囲気についてこう指摘している。
「現場の検査員も、役職者が現場の要望や不満に対して適切に対応してくれない、あるいは、役職者の検査業務への知見の乏しさのため、役職者に適切に現場の要望を理解することが困難であるとの認識から、役職者に対して、当該問題点を報告し、改善を求めることを半ば諦めていた」
他部署から左遷部署扱いされ、いったん送り込まれたらほとんど異動することはない。常に苦情を言われ、逆らうことも許されない。仕事に対する誇りも感じられなければ働く意欲すら失われてしまう、暗く沈滞したムードが漂う職場が長く放置されてきたことに驚かざるを得ない。

スズキ「ジムニー」のエンジン(写真=iStock.com/teddyleung)
車の安全性をないがしろにして生産性と効率性を重視
しかし、最も大きな問題は検査部門に限らず、他部署の社員を含めて車の安全性をないがしろにしてまで生産性と効率性重視に躍起となっていたことである。
スズキの各現場では生産性向上の名のもとで過度なコスト削減を要求されていた。同社は2018年3月期まで毎年200億円以上の原価低減を行ってきた。
その裏で「少人」と呼ばれる工場全体の人員を削減する取り組みが実施されてきた。一般的な工程の見直しによるカイゼンや自動化設備の導入ではなく単純に人を減らすだけの取り組みだった。
調査報告書はこう指摘している。
「具体的には、『少人』は、生産本部の業務計画に応じて、各工場の工場長が、各工場の業務計画を策定する際、各部門に対して、人員の削減目標を割り当て、工場の各部門において、割り当てられた人員の削減を実行するという形で長年にわたって実施されてきた。このように、『少人』は、検査課の人員に対してのみ人員の削減を要請するものではなかったが、検査課においては、例えば、『少人』を達成するため、検査員が定年退職した場合にその退職者分の増員をしないことや、検査員を同じ工場の事務職に異動させること等の方法により、検査員の人員を削減していたこともあった」
スズキのような労働環境で「働き方改革」を実施したら……
業務の効率化と称して単純に人を減らせば、残った社員の負荷は増大する。検査課だけではなく、工場の多くの社員が疲弊していただろう。
もし、こんな環境下で残業削減などの「働き方改革」を実施したらどんな事態に発展するのか、想像するだけでも恐ろしいものがある。
働き方改革では従業員の負担軽減よりも、生産性や効率性を重視する企業も多い。仮に人員が不足している職場で、さらに上から操業時間を減らすように指示されたらどうなるのか。負担軽減どころか、従業員の疲労度はさらに高まるだろう。
実際に残業規制によって仕事が忙しくなり、職場のコミュニケーションも減ったという声もある。あるいは人を増やせない以上、名目上、労働時間は減ったことにして、実際はサービス残業が増加する事態になりかねない。
働き方改革と言いながら従業員の負担が増し、さらには違法残業が横行する可能性がある。
いずれにしてもこうした作業環境では製品の不具合や不良品の増加は避けられないだろう。しかも最終的にチェックする検査課が機能不全に陥っていたら、最終的にその代償を払うのは私たちユーザーということになる。
スズキは『下町ロケット(ヤタガラス編)』の帝国重工そっくり
こんなことを考えていたら、テレビドラマ『下町ロケット(ヤタガラス編)』に登場する帝国重工を思い出した。

『下町ロケット ヤタガラス編』登場人物の相関図。神田正輝が演じたのが次期社長候補の的場俊一だ(TBS同番組ウェブページより)
次期社長候補の的場俊一取締役(神田正輝)が、農業イベントに間に合わせるために部下に対して最新鋭の無人トラクターの製造を急がせる。そして「試作段階なので参加するのは無理」との現場の声を無視し、ゴリ押ししてイベント会場に持ち込む。
ところが、その農業イベントで実施された、トラクターが通る道にカカシを置き、人間との衝突事故防止できるかどうかチェックする実験では、停止することなくカカシを踏みつけ、最後は脱輪し、用水路に落ちてしまうという大失態になる。
ドラマでは大企業のおごりと上には逆らえない企業体質が描かれていた。テレビドラマだからと笑ってはすまされないだろう。スズキの不正検査は、帝国重工のような失態が現実の大企業でも簡単に起こり得ることを示している。
(ジャーナリスト 溝上 憲文 写真=iStock.com)
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