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ある種の人間にとっては、中国が台湾侵略をねらっていてくれないと都合が悪いらしい

櫻井よしこが編集した『アジアの試練 チベット解放は成るか』という本の中で、櫻井は次のように書いています。

>今、中国は「北京五輪後の台湾併合」という目標に向けて最終段階に入ろうとしている。中国にとってはまことに好都合なことに、二〇〇八年一月の台湾総選挙では親中派の国民党が圧勝し、三月の総統選挙でも国民党出身の馬英九氏が当選した。台湾経済は、もはや大陸頼みだ。中国にとって「南進」の機は熟した。否、リスクを冒して南進せずとも、馬政権になれば台湾のほうから転がり込んでくると期待しているふしもある。万が一そのようなことになれば、台湾は第二のチベット、ウイグルとなる。(p.38)

彼女がこれを書いたのは2008年ですが、いまは2012年、別に中華人民共和国が台湾を併合するよう具体的に動いているというものは見えませんよねえ(失笑)。おまけに今年行われた台湾総統選挙では、事前の予想以上の票差で氏が再選されましたし。

選挙の争点はいろいろですので単純には言えませんが、つまりは台湾の人々は中国が武力で台湾を併合するとかいう可能性というか蓋然性はあまり高くないと考えているっていうことじゃないですかね。

簡単に言っちゃえば、多くの台湾人にとっては、中国への併合も嫌だが独立を公然と宣言するのもリスクが多すぎて好ましくない、つまり現状がいい、ということでしょう。そしてそれは、たぶん中国側にとってもいちばん好都合です。

ついでながら産経新聞はこの馬氏再選がくやしかったようで、支離滅裂な批判記事を掲載しています。bogus-simotukareさんが批判されているのでお読みになってください。

どうでもいい話だけど、第3国の新聞や学者・ジャーナリストが他国どうしの敵対をあおったり、その緊張緩和(と考えられること)を残念がっているっていうのもかなり末期的というか、まともじゃない光景ではあります。

それにしても別にこの件に限りませんが、ほんと櫻井って、こういう当てにならんことを年がら年中くりかえして世間を煽るのが好きですよね(笑)。たとえば彼女は、憲法を改正しなければ日本は滅びる滅びる、とさんざん主張しているけど、現憲法が施行されて今年で65年たっているわけでいつ日本は滅びるんだよ(笑)。だいたい櫻井の好きな戦前の体制自体が滅んじゃった過去があるじゃん。こういうのは「滅びる滅びる詐欺」とでもいうべきでしょう。上の台湾の話は、「侵略される侵略される詐欺」でしょうか。

そういった話は「やりっこなし」というものなのでしょうが。

ところで上の文章の続きに次のようなくだりがあります。

>日本政府は友邦・台湾の危機に際し、手を拱いていてはならない。

台湾て、日本の友邦なんでしょうか? 日本は中華人民共和国と国交を樹立した時点で台湾(中華民国)を切り捨てたわけで(国交断絶)、少なくとも日本にとっても台湾にとっても「友邦」なんて言えた義理じゃないと思いますが・・・。

別に「危機」でもないときにそんなことを煽っていること自体どうしようもないけどね。

また同じページの文章に

>「我こそは中華帝国の正当な継承者」であると国民に宣伝してきた共産党政府は、みずからの存在意義を賭けて台湾を獲りに行くであろうから。

あのー、櫻井は中華人民共和国が台湾占領を具体的に着手することを期待しているんですかい?

すくなくとも日本の立場としては、そういった事態が起きることを避けるために可能な限りの努力をすると思うし、またしていると思うんだけど。 

1950年代なら、本気で台湾に攻め込むという可能性もあったでしょうが、いまは時代がちがいますからねえ。チベットを国共内戦終結直後に人民解放軍兵士をだして併合するというのは、中華人民共和国設立直後という時代の高揚感とともに行われたし、またチベットとは軍事力も違いすぎますから容易ですが、その後の統治のコスト(莫大なインフラ投資から国外からの人権抑圧非難にいたるまで)を考えれば、むしろ保護国とか衛星国にしてインドとの緩衝地帯にでもしたほうがよっぽどよかったんじゃないですかね? もっとも国共内戦で国民党側が勝っていたら、やっぱり蒋介石はチベットを占領していたのは確実でしょうけど。

1950年ごろのチベットと現在の台湾とでは国力に差がありすぎるし時代もちがいすぎるし(当たり前ですが、当時よりも今のほうがはるかに困難です)、その後の台湾統治のコストを考えれば中国の台湾占領なんて論外の極致だと思いますけど。だいたい台湾を軍事占領するって、それって未来永劫中国が台湾の統治に責任を持たざるを得ないわけで、この点、イラクやアフガニスタンでもいちおう治安が回復したらさっさと本国へ帰る米国などとは話がちがうわけで。そもそもいまの中国の立場や状況を考えれば、1979年の中越戦争のような規模の戦争だって当時と比較すれば行うのは甚だしく困難じゃないんですかい。

中国が、形の上では台湾への武力統一の方針を破棄していないのは国内向けのポーズでしょう。蓋然性が少なくても自分たちの方から「譲歩」の姿勢をみせたら自分(たち)の権力基盤が危なくなる。北方領土の問題で、4島一括返還方針なんて誰も実現が可能だと思っていないことを日本政府が引っこめないのと同じような話です。

たとえば北方領土が4島一括でなくても返還されるとしたら、返還後も島に残る今までの住民国籍にしたってロシアとの二重国籍を認めることを考えなければならないし、日本の国会にも幾人かの議員をだすために選挙区も作らなければならない。教育についてもロシア語の教科書や教材が必要だし(当然教員の確保も急務です)、北方領土の地方議会には、日本国憲法の枠内における大幅な自治権と立法権を付与することになるでしょう。とうぜん北方領土のみに適用される膨大な特別法が制定されなければならない。

で、そういうシミュレーションを日本の役所はしていますかね? 私の知る限りそういうことはしていないと思うんですけど。あるいはしているのかもしれませんが、でも役所だって具体的な話がさっぱりないことをそんなに一生懸命するほど暇じゃないですよね。いつかはわかりませんが、かならずおこる地震の備えでもしているほうがよっぽどいいというものです。

すいません、余談が過ぎました。

櫻井は、この文章を次のように最終的にまとめています。

>日本国政府と日本人が、自由と民主主義をのぞむ中国の人々、とりわけこれからの中国の未来を担っていく中国の若者たちと普遍的価値観を共有することができれば、中国共産党独裁体制は自然と崩壊するに違いない。(p.41)

いや、かりに中国共産党が崩壊するとしても、それはぜんぜん違う要因ではないかい・・・と思いますけど。

でも櫻井の本音はここですよね。要は台湾は、中国攻撃のための道具だってこと。チベットやウイグルも同じです。

そのためには、中華人民共和国がつねに台湾へ侵略をねらってくれないと、都合が悪いっていうことなのでしょう。

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