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NHKでも間違う、持ち家と賃貸の比較。

4月21日の深夜、NHK・Eテレ「めざせ! 会社の星」にて、持ち家と賃貸に関する特集を組んでいました。
タイトルは「年収500万 持ち家か賃貸か? 決め手となる5つの鉄則」です。
先日、「持ち家は資産か?」という記事から始まる一連の原稿を書いて、非常に大きな反響(合計で10万アクセス程度)を頂いた人間としてはかなり気になる内容です。
http://blog.livedoor.jp/sharescafe/archives/4950212.html

こういう放送がある事はFPの知人が教えてくれました。感謝!

番組が始まると、いきなりアナウンサーの方が「持ち家と賃貸はどっちが得なんでしょうか?」とVTRをふるところから始まり、「あ~あ……」という感じです。
持ち家と賃貸は損得で考えるのは間違い、というのが先日書いた記事で一番ポイントとなる部分だからです。重要な事は損得より資金繰り、つまり支払いが出来るか出来ないかです。

番組に出演されていた若手社員の方は「自分が亡くなった時に、持ち家ならローンがチャラになるから、残された家族の事を考えると持ち家の方が良い」と発言する場面もありました。
住宅ローンを組むと団体信用生命保険(だんたいしんようせいめいほけん・団信と省略する場合も)というものに加入する必要があり、確かにそのような機能があります。ただ、賃貸の方でも生命保険に入れば同じ話ですから、団信を理由に持ち家が得というのは間違っています。団信は保険料がかかるフツーの生命保険です。

番組内では持ち家の予算は「年収の5倍+頭金」が目安になると説明していました。
「年収500万の方は、頭金が500万円に借入金2500万円で、合計3000万円の物件ならば安全に返していける」とも説明しています。 これも間違いです。

年収1000万円の方と500万円の方では、収入が減った際の影響が異なります。
予算の決め方に関しても、先日「持ち家の予算はチキンレースか?」で書きましたが、年収の下がる率は下限を考えた場合、高い報酬の人の方が大きくなります。
例えば会社が潰れて厳しい条件で再就職、となった場合、現在ならば収入が300万円未満になる事は珍しくありません。
300万円まで下がると仮定すると、1000万円の方は7割ダウン、500万円の方は4割ダウンです。
年収1000万円の人が300万円まで下がるわけが無いだろう、と思われるかもしれませんが、住宅ローンを年収の5倍も借りるには返済期間は30年以上は必要です。
30年後の給料をいくらもらえるか、このご時世に自信を持って予想できる人は居ないでしょう。また、給料の額を無視して単純に5倍にすると、高給な方はとんでもなく高いローンを組む事になります。下限までの下落率を考えると、これは危険な予算の決め方です。

いずれにせよ、リスクを考慮すれば年収の5倍は安全に返していけるレベルを大きく超えているのです。
(「今を基準に将来を予想する事」は誰もが無意識に行っていますが、この考え方は実はとんでもなくハイリスクです。これは別の機会にまた書こうと思います)

これは年収の5倍くらいまでなら借りられる、という指摘ならば間違いではありません。返済負担率といって、収入に占める返済額の割合が20~25%位までなら金融機関は貸してくれます。
例えば年収600万円、返済負担率25%(月12万円の返済)、固定金利3%、返済期間35年ならば、年収の5倍、約3118万円の借り入れが可能です。
ただし、これは限界まで借りた場合で、相当ハイリスクです。収入が減ってしまえば返済負担率は大きく上がるからです。
一昔前ならば年収の5倍でもよかったかもしれませんが、これは返済中に収入はアップする事が前提です。収入は増えないで子育て費用増えていけば、家計はどんどん苦しくなります。

頭金が多ければ利息が減るので得、現金一括で買うのが利息ゼロなので一番得、という話もしていましたが、これも完全に間違いです。
家を買う事は将来の家賃を前払いする事と同じです。もっとシンプルに言うと「まとめ買い」です。
将来家賃相場が大きく下がってしまえば、まとめ買いしなければよかった、という事になります。現金一括払いが得と断言できる根拠はありません。
将来金利が上がれば、家を一括で買えるほどの金額ならば、銀行に預けておくだけでもかなりの利息がつきます。しかも金利が上がれば不動産価格は下がりますから、もっと後で買えばよかった、という事も起こりえます。

つまり、現金一括で買ったほうが得な場合もある、というのならまだいいのですが、現金一括で購入する事が得だと断言するのは明らかな間違いです。
なによりよっぽどのお金持ちで無い限り、手元の現金が大幅に減り、資金繰りが悪化します。ローンの支払いは無いけど教育費が足りない、病気になった時にお金が足りない、などなど、手許現金が足りない事による弊害はいくらでも想像できます。

頭金を大きく増やした場合も手元の現金が減ります。つまり、資金繰りと損得(利息が多いか少ないか)は、両立できません。これをトレードオフと言ますが、損得だけを見れば正しそうに見えても、それは資金繰りを無視した危険な考え方です。
ちょっと考えれば簡単に分かる勘違いをここまで自信をもって断言してしまう理由は、最初に書いたとおり損得だけを見ているからです。資金繰りの方が重要だと考えればこのような間違った結論は出ません。

唯一正しかったのは、持ち家と賃貸は金銭的に見て大きな違いは無い、という部分位でしょうか。

短時間のTV番組ですから、細かな補足説明は編集でばっさりカットされているかもしれません(今回の記事に書いたような内容をテレビで丁寧に発言するには最低でも1時間は必要でしょう)。バラエティである以上目くじらを立ててもしょうがないのですが、ここまで素人でも分かる間違いを詰め込むのは勘弁して欲しいというのが番組の感想です。
期待していただけに残念です。

自分は持ち家をことさらに否定するつもりはありませんが、ことさら持ち上げるつもりもありません。リスクとリターン、メリットとデメリットを正しく理解したうえで買って欲しいというのがFPとしての思いです。

もうちょっとまじめに持ち家と賃貸を考えたい方は、以下の一連の記事(4つで一つの結論を出しています)をお勧めします。
専門家の方からも賛同を頂いたまっとうな内容です。持ち家と賃貸の細かな比較というより、持ち家を考える上での前提となる知識を伝えたいと思って書いた内容です。
これを踏まえた上で個人個人の事情を考慮した個別の話を考えましょう、というのが自分からのアドバイスです。

持ち家は資産か?
http://blog.livedoor.jp/sharescafe/archives/4950212.html
そろそろ決着をつけたい「持ち家と賃貸はどっちが得か?」という下らない論争
http://blog.livedoor.jp/sharescafe/archives/5151966.html
「持ち家は資産だ!」という反論が来た(謝罪もあり)。
http://blog.livedoor.jp/sharescafe/archives/5319408.html
リスクとの付き合い方
http://blog.livedoor.jp/sharescafe/archives/5764908.html

中嶋よしふみ
シェアーズカフェ・店長
ファイナンシャルプランナー
シェアーズカフェのブログ
ツイッターアカウント @valuefp

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