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「武士道」の国の有給休暇

■「働き過ぎ改革」としての有給休暇強制取得制度

 元々、年間5日間以上の有給休暇を取得している人にとっては、あまり関係のない話なのかもしれないが、この4月から「働き方改革」の一環として、有給休暇を年間5日間取得することが義務付けられた。無論、労働者にではなく、企業に対して課された義務であり、違反した企業には罰金(従業員1人につき30万円)が課されることになっている。
 ちなみに、この制度は正社員だけでなくパートやアルバイトにも適用されることになっている。ただし、週4日以上勤務し、勤続年数が4年を超える人に限られる(週3日勤務なら勤続年数6年が必要)。

 有給休暇は法的には労働者に与えられた権利ということになっているが、その権利を行使できない労働者に対して有給休暇を取得するように国が義務付けたとも受け取れる。

 政府が企業経営に口出しすることを嫌う人は大勢おり、本来であれば、口出しするべきではないのだが、この有給休暇制度については、政府が音頭を取るのも仕方がないのかもしれないな…と思える。なぜなら、日本は、有給休暇を取得しづらくする「高度な倫理観」を有した世界でも稀な国だからである。

 「有給休暇」というものは、読んで字の如く「休んでも給料の出る休日」のことを意味しているが、政府が罰則を設けることで初めて気兼ねなく有給休暇を取得できるというような国は、おそらく日本だけだろうと思う。国と言うより、国民性と言った方がよいのかもしれないが、これは日本の良いところでもあり悪いところでもある。

■日本ならではの勤労文化

 日本人であれば、道に財布やスマホが落ちていれば、最寄りの警察に届けるのが一般的になっている。これは日本でしか見られないような珍しい行為であり、海外(特に他のアジア諸国)では、落ちている財布を、わざわざ善意で警察に届けるような人はほとんどいないと言われている。
 これと同じように、雇い主がタダ(無料)でくれる休日を全く取得せずに、せっせと働くのも日本人だけとも言われている。

 この日本人の勤労精神(メンタリティ)を「奴隷根性」と言う人もいるが、もっと相応しい言葉で言うと、「武士道」という日本に深く根付いた「やせ我慢文化」というものが根底にある。良い意味では「勤勉の精神」とも「資本主義の精神」とも言い換えることが可能かもしれないが、倫理観というものが根付いた日本ならではの勤労文化とも言える。

 ただ、そんな真面目で遠慮深い日本人だが、傍から観ていると、どうも本音ではやはり有給休暇を取得したいと思っている人が大勢いることが窺える。やせ我慢で「有給休暇は取らない」と言っていても、本音では有給休暇を取る人を妬んでいるような人は大勢いるように見受けられる。そして、そういった人々が多く存在するため、皮肉にも有給休暇が取れない風土が醸成されたとも言える。

■「労働者(武士)は食わねど高楊枝」文化

 お国柄、日本全体が有給休暇を取得すること(=働かずにお金をもらうこと)を罪深いことだと考えるようになっている。それは倫理的に見れば、素晴らしく高度な倫理観(責任感)の現れではあると思う。しかし、その強過ぎる責任感によって働き過ぎて(無理をし過ぎて)病気になる人や過労死する人がいるのも事実であり、行き過ぎた倫理観(責任感)が招いた悲劇でもある。

 その微笑ましくも哀しい姿の背景には「武士は食わねど高楊枝」という言葉が垣間見える。本当は休みたいのに、休みたくないように振る舞う。まさに「武士道」である。

 こういった、やせ我慢文化は、高度経済成長期のように、仕事が有り余り、休むことで明らかに仕事が遅れるという時代にはマッチしたのだと思う。しかし、現代のように仕事が機械され効率化したことによって休日を取ることが必ずしもマイナスにならない時代にはマッチしなくなっている。

 昔のように年がら年中、繁忙期ではなく、閑散期というものも有る時代なので、むしろ、適度に休日を取る方が労働生産性が上がるような会社も増えているのでないかと思う。
 ただ、使用者側から観れば、休んでも休まなくても給料を支払わなければいけないので、それなら休まない方がプラスになると思い込まれているだけだと思われる。

 「武士道」精神が邪魔をして労働生産性が下がるのであれば、明らかにバランスを欠いていると思われるので、時にはストレス解消のために、やせ我慢し過ぎる精神を解放する柔軟性も必要だろうと思う。

 そういった柔軟さが失われた日本では、国が有給休暇を取得するように強制しなければ、いつまで経っても考えを変えることはできない。既に遅きに失した感は否めないが、政府が有給休暇取得の音頭を取るのは、お国柄的に、止むを得ないと思う。

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