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押収処分に関する特別抗告

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東京地検特捜部は4月4日カルロス・ゴーン氏を逮捕すると同時に、彼の保釈制限住居である渋谷のアパートを捜索場所とする捜索差押許可状に基づいて、そこに居合わせた妻キャロルさんの携帯電話3台とノートPC1台をカルロス・ゴーン氏の所有物であるとして、押収しました。私どもは、この押収処分は令状が許可した範囲外のものであって違憲・違法であるとして準抗告を申し立てましたが、東京地裁刑事6部はこれを棄却しました。この決定に対して、本日、最高裁に特別抗告を申し立てました。

押収処分に対する準抗告棄却決定に対する特別抗告申立書

 2019年4月4日に東京地検特捜部検察官がした押収処分に対し弁護人らは準抗告を申し立てた。これに対し、同裁判所刑事6部は、押収品と本件との関連性も差押の必要性も認められるとだけ判断して、準抗告を棄却した。この決定は最高裁判所の判例及び憲法に違反する。原決定を取り消した上、押収処分を取り消し、押収品の全部を申立人に還付するよう求める。

申立ての理由

I 事実
 2019年4月4日の早朝午前5時50分頃、東京地検特捜部は、カルゴス・ゴーン氏の保釈制限住居である50平米足らずのアパートの1室に20名近くの捜査官を伴って押しかけ、彼を逮捕した。残された妻キャロルさんのパソコンとスマートフォン3台を奪い、押収した。日本語を理解しない異国の地で、捜査官に囲まれて一人残されたキャロルさんにとって、スマートフォンは家族や弁護士と連絡を取るための唯一の、そして文字通りの命綱だった。彼女は、お願いだから携帯電話1台は持っていかないでほしい、少なくとも1台は今日中に返してほしいと切願した。それは、彼女が日本滞在中に、日本の弁護士らと連絡をとるために、友人から借りて用意したものだった。しかし、検察官はそれも無視して、携帯電話を押収した。彼女が来日時に持参していたパソコンも押収した。ゴーン氏が逮捕勾留されている間に、愛する夫への思いを書き留めた日記、さらには彼女の旅券までも奪った。

 妻キャロルさんは、捜索差押許可状の名宛人ではない。彼女は「被疑者」ではない。ゴーン氏に会うために短期滞在ビザ(90日)によって日本を訪ね、捜索差押当時アパートに居合わせたに過ぎない。ところが、東京地検特捜部は、ゴーン氏の制限住居を捜索場所とする捜索差押許可状に基づき、彼女のスマートフォンやパソコンまでも押収したのである(押収品目録交付番号17及び19ないし21)。

 本捜索差押えでは、キャロルさんの旅券や日記、家政婦の日誌までが差し押さえられた。これらについても重大な違法があるが、本抗告では、パソコン1台(17番)及びスマートフォン3台(19ないし21番)に限定して、憲法35条違反を主張する。

II 憲法35条違反①―検察官は、「差し押さえるべき物」に記載されていないキャロルさんのパソコンやスマートフォンを差し押さえた
 原決定は、キャロルさんのパソコン1台(押収品目録交付書番号17)及びスマートフォン3台(同19ないし21)の差押えについて、これらの押収物が本件捜索差押許可条記載の「差し押さえるべき物」掲記の物件類に該当すると判断した(2頁)。

 後述(IV)するとおり、原裁判所は、弁護人が捜索差押許可状及び捜索差押調書の閲覧謄写を請求した(添付資料1)のに対し、これを拒否した。したがって、私たち弁護人は、捜索差押許可状記載の「差し押さえるべき物」を確認することができない。原裁判の説示が正しいのかどうか、具体的に検討し反駁することすらできない。

 しかし、それを待たなくても原決定の判断が誤っていることは明らかである。押収品目録の記載自体が虚偽だからである。押収品目録22の「旅券」がその最たる例である。22番「旅券」は、右欄にゴーン氏の所有物と記載されている。しかし、実際には妻のキャロルさんの物である。このことは、旅券の説明として「NAHAS CAROLE NABIL名義」と付記されていることから一見して明白である。

 同目録17及び19ないし21のパソコン1台及びスマートフォン3台も、押収品目録にはゴーン氏の所有物と記載されているが、ゴーン氏のものではなく、キャロルさんのものである。ゴーン氏は、保釈許可条件により、弁護人に貸与されたパソコンや携帯電話以外の使用を許されていなかった。彼は厳格にその条件を遵守していた。実際に、検察官も、マンション室内にあったパソコン1台とスマートフォン3台が、ゴーン氏のものではなく、キャロルさんのものであることを熟知していた。だからこそ、彼らは、捜索差押えに際して、ゴーン氏ではなくキャロルさんに対して、これらのパスワードを執拗に尋ねた。これらのパソコンやスマートフォンがゴーン氏の使用するものでなかったことは、現時点まで指定条件違反(指定された以外のパソコンやスマートフォンの使用)を理由とした保釈取消請求がされていないことによっても、裏付けられている。

 にもかかわらず、検察官は、パソコンとスマートフォンが、ゴーン氏の所有物であると押収品目録に記載した。なぜか。捜索差押許可状に記載された「差し押さえるべき物」のみを差し押さえたと、裁判所に虚偽の報告をするためである。この記載は、捜索差押許可状を発付した裁判官、さらには裁判所全体を欺こうとするものである(1)

 そして、検察官が意図した通り、原裁判所は、押収処分の違法性の判断において、押収品目録の記載を文字通りに捉え、「被疑者ゴーン氏所有の旅券」、「被疑者ゴーン氏所有のパソコン1台」、「被疑者ゴーン氏所有のスマートフォン3台」が、いずれも「捜索差押許可状記載の『差し押さえるべき物』掲記の物件類に該当する」などと誤って判断したのである。

 キャロルさんのパソコンやスマートフォンは、捜索差押許可状記載の「差し押さえるべき物」に該当する余地はない。彼女は令状の名宛人ではない。被疑者ではない。たまたまそこに居合わせたにすぎない。キャロルさんのパソコン1台とスマートフォン3台は、捜索差押許可状に記載された「差し押さえるべき物」には該当しない。本件捜索差押許可状の効力は及ばない。検察官は、無令状で彼女のパソコンとスマートフォンを差し押さえたのである。

 以上の通り、押収品目録が適法な記載を欠いたために、原裁判は、本件押収品が令状記載の「差し押さえるべき物」に該当すると誤って判断した。本件差押は憲法35条に反する。

III 憲法35条違反②―捜索場所に存在した「もの」として第三者のスマートフォンやパソコンを差し押さえることは許されない
 令状の名宛人でも被疑者でもない第三者のパソコンやスマートフォンを差し押さえることは、捜索場所に現在した人の「もの」を「捜索」することとは全く意味が異なり、本件捜索差押許可状によりキャロルさんのパソコンやスマートフォンを差し押さえることは許されない。

 スマートフォンやパソコンは、単にその場所に存在する「もの」ではない。その機能や蓄積された情報量に着目すれば、スマートフォンやパソコンは、バッグ (2)やポーチ、衣服のポケットの中(3) とは全く性質が異なる。被疑者以外の者が所有し所持するパソコンやスマートフォンの差押えをするためには、その者を名宛人とする別の令状が必要であったというべきである。

 したがって、キャロルさんのパソコンやスマートフォンに対する差押えは、無令状による差押えに当たり、この点においても憲法35条に反する。

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