記事

焦点:韓国現代自の「低賃金」工場、じり貧の企業城下町救うか


Hyunjoo Jin

[光州(韓国) 16日 ロイター] - かつて韓国光州市で起亜自動車<000270.KS>労働組合のトップだったパク・ビュンキュ氏(53)は、急速な工業化時代に経済を牛耳っていた同族支配の強大な「チェボル(財閥)」を相手に、労働者の保護を求めて戦った。

だが約20年前、別企業の非正規労働者の権利を求める運動に参加したパク氏は、その後、鉄パイプを振るう組合労働者たちに襲撃され、右半身不随となった。

この襲撃を機に同氏は、韓国労組による強硬で、大半が好戦的な手法に愛想を尽かした。こうした手法に対しては、自分たちの権利を守るために他の労働者を犠牲にしているという批判が高まっている。

パク氏はいま、光州市が計画する現代(ヒュンダイ)自動車<005380.KS>との合弁事業のために働いている。低賃金の自動車工場を新たに建てるプロジェクトで、現代自が国内に新工場を建設するのは25年ぶりだ。

総工費6億1600万ドル(約690億円)の工場は1000人の雇用を生み出すが、現代自の組合労働者に比べれば賃金は半分以下で、彼らが現在享受している福利厚生の多くも利用できない。

「既得権を持つ労組は変わらなければならない。そうでなければ、彼らの利益も奪われるだろう」とパク氏は言う。「組合労働者は現実を直視するべきだ」

合計生産台数で世界第5位となる現代自及びその系列の起亜自の労組は、新工場建設に反対してストライキや抗議集会を行ってきた。

労組の主張は、新工場によって「質の低い雇用」が生まれ、既存の工場から生産と雇用が奪われる、というものだ。

だが、製造業の雇用が切れ目なく低賃金国へと流出していった経験を持つ光州市では、多くの失業者が、新工場で働きたいと即答する。

中国経済の減速、米国の保護主義、最低賃金の上昇といった状況の下で、アジア第4位の経済である韓国は雇用創出に苦しんでおり、文在寅(ムン・ジェイン)政権にとって雇用は重要な関心事となっている。

文政権は光州市の新工場に対して財政的な支援を行う予定であり、6月までに他の2つの都市でも同様の官民プロジェクトを導入する計画だ。

当局者は、こうしたプロジェクトによって、それでなければ海外に工場を建設するであろう韓国企業が国内回帰することを期待している

政府の出資を受ける韓国労働研究所の上級研究員パク・ミュンジョン氏は、「これは労使関係の問題を解決しようという、大胆な実験だ」と話す。同氏は、光州市のプロジェクトが2014年にスタートしたときから関与している。

官民共同のプロジェクトとして自動車製造工場が建設されるのは韓国では初めてであり、伝統的な労組に加入している自動車労働者にとっては、これまでで最大の脅威に直面する。パク氏によれば、若年層の失業率が過去最高に迫り、経済が低迷する中であっても、こうした労働者は大半が高い賃金・諸手当を維持しているという。

「高コストの労組系雇用は徐々に消滅していくだろう」

<貧困都市>

現代自の新工場では、年間3500万ウォン(約345万円)の給与が支払われる計画だ。これは現代自の現職労働者が稼いでいる9200万ウォンの3分の1強にすぎないが、光州市のサラリーマンの平均3300万ウォンを上回っている。

光州は、起亜の国内最大の生産拠点を抱え、南東部の蔚山に次ぐ国内第2位の自動車生産都市として、製造業生産高の40%以上を自動車セクターによって生み出している。

現代自による生産拠点の移転に伴い衰退してきた蔚山と同様に、起亜の生産台数が昨年、過去8年で最低水準に落ち込んだことにより、光州の先行きも暗くなってきた。

現在、韓国大都市圏の中で光州は2番目に貧しい都市となっており、韓国労働省のデータによれば、2017年の光州市における平均月給は全国平均よりも約13%低かった。

大学で経営管理を学んだキム・ジェスンさん(32)は、予定されている新工場でのブルーカラー職に応募するつもりだと話す。

「新工場の給与は、それでも平均的な労働者の賃金より高い。その意味では悪い仕事ではない。いい仕事だ」。先日市役所で開始された就職フェアの会場で、キムさんはこう話した。

光州でロイターが取材した他の求職者も、同市における若年労働者の失業率が高いことを考えれば、新工場での仕事はやはり気になるという。

法律を専攻したゴー・チャンフンさん(27)は、「市内には質の高い雇用があまり多くない。最近の不景気を考えれば、3500万ウォンの給料がもらえるなら御の字だ」と話す。

<ドイツの前例はすでに閉鎖>

元労組リーダーのパク氏は、2014年に低賃金工場を最初に提案。その後は起亜を休職して市役所でフルタイムの仕事に就いている。

パク氏によれば、このアイデアは、現在では閉鎖されている独自動車大手フォルクスワーゲンの低コスト部門「オート5000」から借用したものだという。これはドイツからの雇用流出を防ごうと2001年に設立されたものだ。フォルクスワーゲンが自社の強力かつ高賃金の組合労働者から賃金面での妥協を勝ち取ったことにより、同プロジェクトは2009年に終了した。

光州の新工場では、2021年以降、ガソリンエンジン搭載の小型スポーツ多目的車(SUV)を年間10万台生産する予定だ。

光州市では、将来的にはこの工場で電気自動車(EV)を生産したいと希望しているが、現代自の賛同はまだ得られていない。

ソウルの西江大のジェームス・P・ルーニー教授(国際財政論)は、新工場が成功を収めるにはEVを製造すべきだ、と述べる。

「この合弁事業を、労組や高い人件費から逃れるための場所として考えるべきではない。過去の製品ではなく、未来の製品に基礎を置くべきだ」

現代自は、このプロジェクトへの参加を決断した理由として、光州市と現地のコミュニティ、事業担当者が「建設的な労使関係を築き、適切な賃金水準を維持する」と約束したからだと話している。

「こうした条件ならば、新たに設立される企業に小型自動車の生産を委託しても競争力を確保できると考えた」と現代自はロイターに宛てた声明で述べた。

光州の起亜向けサプライヤーである現代ハイテックのキム・ヨング最高経営責任者(CEO)は、現代自の新工場が、起亜の減産分を補ってくれることを期待している。

起亜の光州工場は昨年45万5252台を生産したが、これは62万台という同工場の生産能力をはるかに下回る。

「現在の人件費では起亜が自動車を作るのは難しい」とキム氏は言う。

光州市との合弁事業により、賃金の抑制に加えて、毎年の賃金交渉の際にほぼ毎回ストを打つという労組の慣習との決別が実現する。

韓国は戦闘的な労組と硬直した労働慣行で有名であり、これらは人件費の高騰と、韓国企業に対する慢性的な評価引き下げの原因として以前から指摘されてきた。

光州の新工場では低い賃金に対する埋め合わせとして、中央政府の支援を得て、1100戸の従業員住宅の建設と、工場敷地内のデイケア施設、スポーツ関連施設の整備を予定している。

<無用の長物か>

この計画に対しては批判もある。国内需要が伸び悩み、米国への輸出は減少、中国向けの販売も不調となる中で、自動車メーカーが過剰生産能力の解消に取り組んでいるのに、新工場を建設するのは得策なのか、という疑問だ。

自動車メーカーの労組によれば、韓国における今年の自動車生産台数は365万台まで減少すると予想されている。これは合計生産能力466万台の4分の3に過ぎない。

労組側は、合弁プロジェクトは政治的な動機によるものだと主張する。光州は以前から、リベラル派の文政権の地盤だったからだ。

大統領府の鄭泰浩(チョン・テホ)雇用首席秘書官は最近の記者会見で、「低成長・低雇用が構造的な問題となる中で、われわれはどうすれば雇用を創出できるか頭を悩ませてきた」と説明し、「このプロジェクトは、苦悩する国内経済を再活性化させる鍵になるだろう」と述べた。

地元当局者は、この計画は韓国製造業が直面するすべての課題に対する特効薬になるものではないと認めつつも、1歩前進になることを示せるだろうという。

「これは単に光州での雇用創出に留まる話ではない。低成長・低雇用・高コストという韓国企業社会の構造的問題への対応策なのだ」

光州のイ・ヨンソプ市長はロイターにこう語り、「韓国の企業社会はブレイクスルーを必要としている」と強調した。

(翻訳:エァクレーレン)

あわせて読みたい

「韓国経済」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    よしのり氏「山本太郎氏は終了」

    小林よしのり

  2. 2

    「処理水飲め」応じても解決せず

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

  3. 3

    不評クドカン大河は本当に酷いか

    新井克弥

  4. 4

    中国人記者 天皇陛下に深い敬意

    PRESIDENT Online

  5. 5

    河野太郎氏が振り返る自身の外交

    河野太郎

  6. 6

    ブログ収入9割激減 移転で復活か

    Hayato Ikeda

  7. 7

    韓国経済が窮地 通貨危機再来か

    NEWSポストセブン

  8. 8

    血税1兆円イージス購入 亡国の道

    文春オンライン

  9. 9

    加害者の実名さらし 収入目的も

    文春オンライン

  10. 10

    立民に入党「代表から強い要請」

    黒岩宇洋

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。