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日本の良妻賢母神話はどこから生まれたか

2019年4月に「働き方改革関連法」が施行されましたが、日本の女性の労働環境は、女性たちにとっては理想的とはいえません。いったいなぜ女性たちは、こんなに働きにくいのでしょうか。過去から振り返って分析してみましょう。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/kazoka30)

■昔は、女性が働くのは当たり前

少子高齢化が進む昨今、日本の労働力不足は深刻です。そこで安倍内閣が推進する「働き方改革」でも期待を寄せているのが、「女性の労働力」です。

そもそも過去の歴史を見ても、女性が働いていなかった時代なんてありません。たとえば江戸時代の日本は、共働きが当然でした。農家や職人の妻が「家業を手伝う」のは基本で、そのほかにも接客・物売り・産婆・髪結い・手習いの師匠・機織りなど、女性はさまざまな職業で活躍していました。また中世のヨーロッパを見ても、毛織物や染色、行商に加え、教会建築や鉱山労働、岩塩の採掘などの肉体労働まで、女性の働く場は至るところにありました。

しかし、その後、あるものの登場により、人々の働き方は一変します。そのあるものとは? 答えは「企業」です。かつて世界に、企業は存在しませんでした。企業は大規模化した資本主義経済のなかで発展してきた組織体で、それ以前は農家や商人、職人など「家業」中心の世界でした。両者の違い、わかりますか? 決定的な違いは「組織的に働くか否か」です。

■“企業”の誕生によって働き方が一変

企業における組織的な労働――ここから人々の働き方は、劇的に変わります。日本に企業が根づき始めたのは、大正時代あたりですが、その頃からまず「サラリーマン」という新しい“職業”が生まれ、個人の意思とは無関係な「組織の論理」で働くことが求められ始めます。そのせいで労働形態と労働時間からフレキシブルさがなくなり、家業よりも安定した高収入が得られる反面、全員が家から「遠く離れた職場」に出向き、全員一律の「長時間労働」が求められました。

遠くて長時間だと、今までみたいに「仕事の合間に家事をこなす」ことはできません。この頃から「家事と仕事は分業」という意識が生まれます。加えて明治30年の高等女学校令より「良妻賢母(優秀な次世代を育てるのは母の役割)」教育が積極的に行われ、その結果、生まれてきたのが「専業主婦」という“職業”です。

この流れは、戦後の高度経済成長期に拍車がかかり「男はモーレツ社員として休日返上でバリバリ稼ぎ、女は専業主婦である対価として3号被保険者の年金をもらえる」形が定着しました。それと同時にこの頃から、社会は「女性の社会進出に対するハラスメント」に満ちた環境になっていくのです。

■現代はハラスメントの渋滞が起きている時代

今もなお、社会にも職場にもハラスメントが満ち満ちています。女性からすれば、ただ男女差別のないフェアな競争環境がほしいだけなのに、それがない。企業の職場環境は、いつの間にか歴史の中で「女性を受け入れないことが前提」になっている。だから女性が世に出ようとすると、セクハラやパワハラ、マタハラ、モラハラ……、各種ハラスメントが同時多発的に襲いかかってくるのです。

これは女性が活躍するうえで、大きな障害になります。実際、このハラスメントと闘うことに疲れてしまうと上昇志向がなくなってしまい、負けまいと踏ん張ると、“肩に力が入った女”扱いされてしまいます。

だからといって「男社会に媚びながら、上手に自分の現在位置をアップデートしていく」方式がいいかというと、全然よくない。男社会に意図的に甘えてしなだれかかり、男性に引き上げてもらうやり方は、確かに有効です。過去の歴史を見ても、中国の西太后に江青、ロシアのエカテリーナ2世、フィリピンのイメルダ・マルコス、ルーマニアのエレナ・チャウシェスクなど、みんなそうやって居場所を与えられ、そこから徐々に自分の立ち位置を広げてきました。

でも、彼女たちの多くは「悪女」として知られ、それは社内で媚びる女も同じです。こういう女性の生き方は「会社員としての処世術」であって、「職業人としての生き方」ではありません。それによる成功は、「職業人としての誇りを捨てること」でしか得られません。あなたが仕事に誇りを持ち、本当にナチュラルに自立して生きたいのならば、そんな生き方は選択すべきではありません。

■労働とは「人間本来の喜び」であるもの

マルクスも言うように、労働とは本来、創造的な活動であり、自己実現の場であり、人間本来の喜びでなければなりません。ならば、男社会との関係性を気にすることでなく、しっかりと稼ぎ、なりたい自分になり、そこに喜びとやりがいを感じ、自尊心を満たす働き方をしたいものです。そうすることで初めて、女性自身も働きやすさを感じることができるのではないでしょうか。

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蔭山 克秀(かげやま・かつひで)

代々木ゼミナール公民科講師。「現代社会」「政治・経済」「倫理」を指導。3科目のすべての授業が「代ゼミサテライン(衛星放送授業)として全国に配信。日常生活にまで落とし込んだ解説のおもしろさで人気。経済史や経済学説に関する著書はベストセラーに。

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(代々木ゼミナール公民科講師 蔭山 克秀 写真=iStock.com)

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