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特集:「令和」新時代の日米通商協議

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今週4月15-16日、ワシントンで久々の日米通商協議が行われました。いつかは来るはずのことでしたから、今さら嫌だとは言えないところ。ところがこの日米協議、平成の30有余年に行われてきた日米交渉を思えば、いろんな意味で「前代未聞」です。一言でいうと、こんな「雑な仕事」の通商協議は見たことがない

考えてみれば米国にとって、最重要課題は中国との交渉であって日本ではありません。その対中交渉の間隙を縫うようにして、対日交渉が始まっている。他方、日本側は意外と抜け目なく行動していて、これまでの通商交渉の経験値が生かされている。平成から令和になると、日米交渉のスタイルも変わってしまうのでしょうか?

●日米協議は米中交渉の「箸休め」か?

昨年9月、茂木敏充経済財政再生相とライトハイザー米通商代表部(USTR)代表の間で、貿易協議の枠組みができたときには、「FFR」(自由free、公正fair、互恵的reciprocal)と命名されたものである。ところが今回はほとんど使われない。麻生副総理とペンス副大統領の間の「日米経済対話」と同様に、まことに「去る者は日日に疎し」である。

米政府は新しい通商交渉を始める際には、議会に対して事前通告する必要がある。それから90日後に交渉を開始するのだが、今年1月14日に既にその期限を迎えていた。ところが実際に交渉が始まったのはそれから3か月も後になってからである。

開始が遅れた理由は簡単で、「それどころではなかったから」。米国にとっての最優先課題は中国との通商協議である。何しろ貿易額(対中赤字)も膨大なら、互いに巨額の制裁関税を実施している。しかもファーウエイなどの先端技術の厄介な問題も絡む。

その対中交渉は、本来は3月が山場になるはずであり、関税引き上げという締め切りもあったはずなのだが、遅れに遅れて今日に至っている。しかも中国は、4月25-27日に「第2回一帯一路フォーラム」を控えているので、これが終わらないことには下手に対米交渉などできなくなっている。だったらその間にできた空き時間に、「せっかくだから対日交渉も始めておくか」という運びになったのではないだろうか。

〇当面の政治外交日程
日米通商交渉(ワシントン、4/15-16)
・インドネシア総選挙(4/17)
・統一地方選挙第2陣・衆参統一補選(4/21)
・安倍首相が訪欧、訪米へ(4/22~29)
・第2回「一帯一路」フォーラム(北京、4/25-27)
日米首脳会談①(ワシントン、4/26-27)
・改元10連休スタート(4/27~5/6)
・退位の礼(4/30)→即位の礼(5/1)
・インド総選挙の日程終了(5/19)
・欧州議会選挙(5/23-26)
トランプ大統領が国賓待遇で訪日②(5/26-28)
・天安門事件から30周年(6/4)
・通常国会会期末(6/26)
G20首脳会議③(大阪、6/28-29)

対日交渉を始める動機として、「3か月連続の日米首脳会談」という前代未聞の日程が控えているから、という理由もありそうだ。これは、①来週行われる安倍首相の訪米、②新天皇即位に伴うトランプ大統領の訪日、③大阪G20サミットに伴う訪日、とイベントが続くからである。日米首脳がこれだけの頻度で会って、ゴルフと大相撲見物だけが話題になるようでは問題であろう。だったら以前からの懸案も着手しておきたい。

つまり、「米中交渉に空き時間ができたから、日米協議が始まった」ようにみえてしまう。言葉は悪いけれども、今や対日交渉は「箸休め」的な存在なのではないだろうか。

●「TAG」を急がなければならない理由

交渉を間近に控えた4月12日、茂木経済再生担当大臣は内閣府の記者会見で次のように答えている1

テタテの交渉になると思いますので、本当にやってみないと分からない、これが率直なところでありますが、まずは昨年9月の共同声明に沿って交渉を進める方針でありまして、まずはスコーピングを決めていくと。物品貿易を中心に対象分野を決めるということから始めるんじゃないかと思います。(中略)1回目でありますから、まずライトハイザー通商代表と胸襟を開いて話し合い、お互いの意見を率直に交換することで双方の理解を深めたいと思います。

普通、通商協議と言えば「神は細部に宿る」と言われるように広範に及ぶので、大勢のスタッフが参加するものである。それを「テタテ」(通訳のみを加えた一対一の会談)にするというから、少々驚いた。

つまり事務方による事前協議が全くないのに、いきなり閣僚レベルの交渉をやろうという申し入れがあったということである。深読みすれば、米国側にいかに対日交渉の準備が乏しいか(もしくは局長クラスのポストが埋まっていないのか)、ということになる。

その後の報道の映像を見ると、さすがにテタテではなく、日米双方の事務方も加わった会議になっているので安心したが、かつての日米通商摩擦の深刻さを知るものとしては隔世の感がある。ひょっとすると通商交渉も平成と令和では大違いであって、往時に比べれば「お手軽モード」になるのかもしれない。

今回の日米協議においては、日本側はこれをTAG(日米物品協定)と呼び、米国側はFTA(自由貿易協定)だとする「食い違い」がある。これは互いの立場を反映したものだが、うまく戦略を持っているのは日本側であろう。

日本側としては、7月に参議院選挙を控えていることもあり、「米国とFTA交渉をする」などとは言いたくない。しかるに自動車や農産物をめぐる交渉は、なるべく早く落着させてしまいたい。そこでTAG(モノの貿易に限る)という言い方をする。それ以外のテーマにはあまり関心がない。

ところが米国側は、通商交渉に「二国間主義」を掲げている。その場合、日本とのFTAがないというのは不自然なので、モノの貿易のみならず、投資やサービス貿易でも合意を得たいと考えている。米国はTPPから降りてしまったので、デジタル貿易などの新しい通商問題に対して「出遅れ感」があることも一因であろう。

ところが米国内には、農産物問題を急ぐ理由がある。事実、パーデュー農務長官はライトハイザー代表に対し、「農業分野の暫定合意を早期に」と横やりを入れている。これはもっともな話であって、日本は既にTPP、日欧EPAという2つの経済協定が発効しており、肉類の輸入に米国産離れの動きが始まっているのである。

この4月には、両協定が早くも2年目に入って輸入関税が下がっている。特に牛肉関税はそれまでの38.5%から26.6%になる。この間に牛肉、豚肉の米国産シェアが低下し、代わりにカナダ産やニュージーランド産の販売が拡大している。米国の畜産団体から見れば気が気ではないはずで、仮に米国がTPPから離脱していなければ、今頃は同じ関税率を享受でき、競争力を維持できたのである。

トランプ大統領の再選戦略には、農産物州の支持が欠かせない。ということは、対日交渉を急がねばならない。日本側としてはそれが狙い目で、「TPP水準が超えられない一線」であることを強調しつつ、TAGの一体交渉を主張すればよい。すなわち、自動車も一緒でないと合意しません、と粘ることができる。いわば「農産物が自動車を救う」形となり、これまた日本の通商交渉の歴史上、めずらしい局面が成立することになる。

●自動車問題をどうやって解決するか

実際問題として2018年(暦年)の貿易統計を見ると、対米輸出は15.5兆円、輸入は9.0兆円で、あいもかわらず巨額の対米黒字がある。このうち肉類の輸入は4220億円にすぎず、逆に自動車輸出は4.5兆円(175万台)もある。「米国産牛肉を輸出拡大して、日本製自動車輸入の赤字を埋める」ことなどまったく不可能である。ちなみに、日本の対米自動車輸入はわずか1005億円(2万台)であり、トランプ大統領がこの数字を見ればおそらくは激怒するであろう。

それではまじめな話、どうやってこの不均衡を解決するのか。実は落としどころは昨年9月の日米共同声明の中にもう書いてある。該当部分は下記のとおりである2

5.上記協定は、双方の利益となることを目的とし、米国と日本は、交渉を行なう際、相手国政府の立場を尊重する。

米国としては、自動車分野における市場アクセスの結果は、米国自動車産業の製造および雇用の増加につながることを目指すものとする。

日本としては、農林水産品について、日本の過去の経済連携協定に反映されている市場アクセスの譲許内容を最大限とする。

後段は、日本が「TPPで認めた以上の妥協はしません」と言っているわけで、そうでないと国内向けにも、他のTPP11参加国に対しても申し訳が立たないことになる。

不思議なのは米国側の部分である。市場アクセスの結果は、「米国産自動車の日本での販売拡大」や「日本製自動車の対米輸出を制限」などを目指してはいない。あくまで「米国自動車産業の製造及び雇用の増加」がゴールなのである。

ここをどう読み解くのか。日本の自動車会社が現地生産を増やし、その分だけ対米輸出を減らせば、交渉結果は「製造および雇用の増加につながる」ことになる。すなわち、対米投資を増やせばいいということになる。

ここで思い出すのは、トヨタ自動車が今年3月、「対米投資を30億ドル上乗せする」と発表したことである。トランプ政権が発足した2017年1月、同社は2021年末までの5年間に、米国内で100億ドルを投資すると発表した。これが130億ドルになるのなら、現地生産が増える分だけ輸出は減る理屈である。

結局、自動車をめぐる日米の不均衡は大きすぎるので、こういうやり方以外には解決策が見当たらない。おそらく日本側としては、USMCAで行われたような数量制限を加えられてもいいから、とにかく自動車に対する追加関税だけは回避したい、と腹をくくっているように見える。

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