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社会に対する企業の影響力は、今や政治や行政より大きい - 「賢人論。」第87回亀井善太郎氏(後編)

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政治家からシンクタンク研究者へと転身した亀井善太郎氏は、同時に立教大学大学院で地方自治やNPOなどの市民活動を研究し、人材育成を担う特任教授でもある。また、多くの自治体や企業から求められてアドバイザーとしても活動する。グローバル企業による国際競争が激化し、日本国内の産業地図も変わろうとする中、亀井氏は「CSR(Corporate Social Responsibility)=企業の社会的責任」をどう捉えているのか。わかりやすく解説していただきつつ、これからの企業の在り方について伺った。

取材・文/盛田栄一 撮影/公家勇人

既にいくつかの地方自治体でも、コレクティブ・インパクトが起きている

みんなの介護 前編では「行政=行政サービス」ではないというお話を伺いました。では、これからの行政はどうあるべきでしょうか。特に地方行政について、ご意見をいただければと思います。

亀井 先日、北海道ニセコ町の片山健也町長とお話しする機会がありました。片山町長によれば、地方自治体の首長のもっとも大切な仕事は、地域の困りごとを地域全体で共有することにあるとおっしゃっていました。まさにそのとおりだと思います。

いま、その地域で起きている課題や困りごとをみんなで発見し、共有することできれば、「そういう問題なら、ウチが解決策を提供できます」という企業や個人が必ず現れるのです。特に、困りごとを行政の内部だけで解決しようとしないことが重要ですね。

みんなの介護 なぜ、困りごとを行政内部で解決しようとしてはいけないのでしょうか?

亀井 問題解決能力は、一般的にいって、企業や個人など市民の方たちのほうがはるかに高いからです。

前編の政治不信の話ともつながってくるのですが、21世紀の現代において、社会に対する影響力は「政治」より「企業」のほうが明らかに大きくなっています。

組織力ばかりではなく、技術力を有し、また、国境を越えて活動することができる企業の社会に対する影響力はますます大きくなっています。政府部門には財政の制約もあり、また、多様なニーズに応えることも不得手ですからね。

みんなの介護 行政が独力で何とかしようとするより、企業と課題を共有したうえで、企業の力を借りたほうが課題は解決しやすいということですね。

亀井 そうです。企業の社会における存在意義は、社会課題の解決そのものです。CSR(corporate social responsibility)、すなわち企業の社会的責任は今まで以上に大きくなっていると言えます。

ひとつの実例をお話ししましょう。愛知県中部、名古屋市の東隣に位置する人口約7万人の豊明市では、高齢者のモビリティー(移動手段)がひとつの課題になっていました。市でコミュニティバスを運行しているものの、市内すべてのエリアはカバーできず、運転免許を持っていない人、持っていても自主返納した人は、買い物や病院に出かけるのが大変だったのです。

あるとき、豊明市役所の職員が偶然、市内で温泉施設の送迎バスを目撃します。それは、名古屋市緑区にある天然温泉「みどり楽の湯」の無料送迎バスでした。以前から市内を平日の1日3回、巡回していたのですが、市民にはほとんど認知されておらず、利用客も少なかったようです。

「市内を無料で走っているバスがあるのにもったいない」と気づいた職員は、温泉施設の運営会社に早速相談を持ちかけます。すると運営会社も、自社のメリットになるならと、市との連携を快諾。住民用チラシや販促用割引きチケットを共同で製作することになり、会社側は運行ルートの変更やバスへの手すり設置を約束。市側はイベントごとにチラシを配布し、温泉とバスの周知徹底に努めました。それが2015年のことです。

みんなの介護 それで、結果はどうなりましたか?

亀井 送迎バス利用者数は1年後には2倍に、2年後には3倍に増え、温泉施設の店長さんは会社から表彰されました。高齢者の利用料金が割引になるシルバーデイには、600〜700人が訪れる日もあるとか。

高齢者には温泉好きが多いし、たとえ温泉好きでなくても、知り合いに誘われて常連になるパターンも多いみたいですね。豊明市側からしても、移動難民だった人に移動手段を提供できたし、外出機会を増やすことで高齢者の健康寿命延伸も期待できる。お互いの強みを活かすことでwin-winの関係を築くことができました。

これぞまさにCSRの成功例であり、コレクティブ・インパクトの実践例でもあると思います。

「企業は社会の公器」。この松下幸之助の言葉にCSRの思想が結実している

みんなの介護 亀井さんはCSR(企業の社会的責任)研究の第一人者でもあります。読者の皆さんに、CSRについてわかりやすくレクチャーしていただけますか?

亀井 わかりました。簡潔に言えば、「企業は本来、営利目的で経済活動を行う組織体ではあるものの、人々とともに社会に存在している以上、何らかの形で社会に貢献する、社会課題の解決を担う責任がある」ということです。

「企業は社会の公器である」。これは現パナソニックの創業者の松下幸之助さんの言葉ですが、CSRの思想をより端的に表していると思います。

公器とは「特定の人や機関に奉仕するのではなく、広く公共の役に立つもの」。パナソニックが創業された1918(大正7)年当時、多くの企業経営者は、「企業を経営すること」を「社会に参加する手段」と捉えていたようです。

もちろん、松下さんも例外ではありません。そして、企業に必要な人材・土地・資源といったものは、いわば社会からの借りもの、預かりものなのだから、それらを使って企業が利益を上げる以上、企業にはそれなりに社会的責任があり、借りたものを社会に還元していく使命があると考えました。

土地や資源を使った分は税金として返す、預かった人材はきちんと育てて返す、そういう考え方です。 そういった思想が、「企業は社会の公器」という言葉に結実しています。松下さんがこの発言をしたのは戦前であり、CSRについてかなり先進的に捉えていたことがわかります。

みんなの介護 CSRと聞くと、一般的には、企業として町の清掃活動に参加するとか、地域のお祭りに模擬店を出店するとか、といったイメージですが。

亀井 そうですね。皆さんどちらかといえば、町の清掃とかイベントの模擬店とか、本業以外の特別なアクションをイメージしがちですね。あるいは、社会に迷惑をかけないよう、コンプライアンス(法令遵守)を徹底する、とか。

しかし、本来のCSRは、そういった表面的、副次的な活動のことではありません。その企業ならではの組織力や技術力を活用して、その時点で明らかになっている社会課題を解決に導くこと。これが本来のCSRです。

しかし、CSR=社会貢献と考える企業も多いので、最近では、僕は「CSR経営」と唱えるようにしています。そうなれば、社会の公器とつながってきます。

たとえば、その企業がメーカーであれば、社会課題を解決するために新製品を開発する企業活動そのものはCSR経営となりますよね。

みんなの介護 CSRは企業の副業ではなく、本業にも深くかかわっているんですね。

亀井 そもそも、会社の中にある仕事を、本業、非本業と分けることができるのでしょうか。いずれも会社そのものにとっては必要なことのはずです。むしろ、社会貢献を本業から離れて考えることこそ、無理があるのかもしれません。

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