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厚生労働省、病院勤務医に月155時間の残業容認(吉田啓志)


厚生労働省。(撮影/編集部)

厚生労働省の有識者検討会は、医師の働き方改革案をまとめた。一部の病院勤務医には特例で年1860時間(月155時間)と、過労死認定の目安(月80時間)の2倍近い残業を認めている。一気に規制を強化すれば地域医療が崩壊する、という現実論を踏まえた結論に落ち着いた。だが、過労で倒れる医師は後を絶たない。勤務医の長時間労働に寄りかかってきた、日本の医療体制の歪みが露わになった改革案だ。

工藤豊・保健医療福祉労働組合協議会事務局次長「明確に反対だと言いたい。医師の健康確保にほど遠く、診断や治療の的確な判断にも影響するのではないか」

岡留健一郎・日本病院会副会長「すべての医師に強いるわけではない。(労働時間短縮に向け)医療界が一丸となって努力しようという姿勢は明確だ」

3月28日の報告書取りまとめに向け、同15日の同検討会は各委員が「最終的な見解」を示す場となった。焦点となった「年1860時間」の残業容認案は、厚労省原案の「年1900~2000時間」を修正したものだったが、労働側と医療側は真っ向から対立したまま。そうした中、結局は「遵守できない基準を設定しても実効性はない」(荒木尚志・東京大学大学院教授)との指摘に沿い、報告書には残業時間の上限を年1860時間とすることが盛り込まれた。

検討会は2017年8月にスタート。今春からの一般労働者の働き方改革に遅れること5年、「特殊な仕事」との理屈で、勤務医への罰則付き残業規制は24年度から適用される。その規制を18年度内に具体化するのが検討会の役割だった。

報告書は勤務医をA~Cに3分類している。残業時間の年間上限は、A(標準)が960時間で一般労働者と同じ。一方、B(地域医療を守るための特例)とC(研修医らの技術向上のための特例)は1860時間だ。全国約8000病院のうち、Bには救急など約1500病院が該当する。B、Cには「連続勤務は28時間以内」などの条件をつけ、さらにBは35年度での廃止を目標としている。しかし、病院側からは「守れる自信はない」との声も漏れる。

【背景には深刻な医師不足が】

「われわれが労働法制を守っていたら死ぬ患者が相次ぐ」。年3000時間近く残業する神戸市の外科医はそう語る。年1860時間という基準は、勤務医の1割以上が年1900時間超の残業をしているとの厚労省の16年調査に基づく。1900時間の残業とは1日14時間、週6日働き、うち1回は当直があるイメージという。

厚労省の過労死白書によると、10~15年に過労死した医師は11人。長時間労働を追認する今回の方針に、現場の医師や過労死した医師の遺族らは強く反発しており、医療界も揺れている。それでも「やむなし」との意見が絶えないのは、深刻な医師不足に解消のメドが立っていないためだ。

厚労省は少子化により医師数は「28年ごろから余る」と見ており、医師の地域偏在の是正を重視している。人口構成の将来予測や受診率などを踏まえた「医師偏在指標」を算定、上位16都府県を「医師多数区域」、下位16県を「医師少数区域」に指定し、当該地域での勤務を一定期間義務付ける大学医学部の「地域枠」を医師少数区域へ重点的に割り当てる。

ただ、医師の勤務地選択を制限する案は医療界の反発で骨抜きとなった。医師の偏在解消は目標を36年に設定しているものの、この時点でも3分の2の地域で計約2万4000人の医師が不足するという。東北地方の病院長は「残業規制で医師数がさらに必要になれば、医師はますます大都市に集中しないか」と懸念する。

勤務医の献身的な残業が前提の仕組みは、長時間働けない医師の排除につながり、女性を差別した東京医科大学などの入試問題の温床にもなった。厚労省は医師業務の一部を看護師や介護職員に移管することも進める方針だが、両職種とも医師と並んで極端な人手不足が指摘されている。

(吉田啓志・『毎日新聞』編集委員、2019年4月5日号)

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