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“危ない超加工食品”を鵜呑みにしてはいけない からくりを国立衛研安全情報部長・畝山智香子さんに聞く

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「メディア受けを狙う研究がある」と語る畝山さん

なぜ、一流誌にひどい論文が出る?

松永:どうしてこんなひどい論文が出てしまうのでしょうか。しかも、論文を掲載したBMJやJAMA Internal Medicineは、一流医学誌と言われています。一流誌に掲載されていれば、科学者でも信じ込んでしまいます。

畝山:こういうメディア受けを狙う研究ってあるんですよ。実は、BMJも論説コーナーで「そのまま信用してはいけない」とはっきり書いています。今どきのインターネットを用いた調査の可能性を探った論文、という程度の受け止め方がよいのでは。BMJは臨床医学誌で、栄養や食品に関する論文は専門ではないのでレベルの低いものが載ることもあるようです。これほどポイントを外した論文が掲載されるということは、論文掲載を審査した査読者は専門家ではなかったのだろうと思います。

英国では政府機関が論文批判

松永:海外では、一般紙などが大きく「超加工食品は危ない」と報道しました。一方で、そんな報道に対する批判も行われています。

畝山:英国の政府機関である国営保健サービス(NHS)は、論文を批判的に解説した記事を出しました。論文が言う超加工食品を多く食べる人たちは、喫煙や運動不足、食べ過ぎなどになりがちであり、リスクに大きく関わるかもしれない交絡要因を研究解析で取り除けていないのでは、と指摘しています。また、超加工食品が多岐にわたっていて特徴づけができないこと、調査方法が妥当であるかどうか判断できないことなども説明しています。「加工食品が悪く、リスクを上げている」というふうには結論できそうにもない、とはっきり書いていますよ。

松永:でも、そういう情報は少ないし、人目を引かない。結局、「危ない」という情報の拡散力は強いです。

畝山:今回のBMJの論文は、フランス人を対象とした研究結果です。こういうのがフランス人に人気がある、というのはよくわかります。いつものことなんです。「昔ながらの、手作りのものを食べましょう」というのが支持される。

論文では、NOVA食品分類、というやり方で加工食品を4つに分けています。グループ1は、Unprocessed or minimally processed foodsで、生鮮品や乾燥、粉砕、冷凍や冷蔵、低温殺菌、発酵などの加工による果物や野菜、豆類、パスタ、肉や魚、ミルクなど。グループ2はProcessed culinary ingredientsで、塩や植物油、バター、砂糖など、要するに一般家庭に昔からあるような加工品のようです。グループ3は、Processed foodsで、塩分を加えられた野菜の缶詰や砂糖でコーティングしたドライフルーツ、食塩のみで保存性を高めた肉製品、チーズ、包装されていない新鮮なパンなどだそうです。そして、グループ4のultra Processed foodsです。

松永:分類が、なんとも恣意的でうさんくさい。たとえば、伝統的な製法のハムやソーセージは、岩塩に自然に含まれる亜硝酸塩の力を上手に利用して加工されています。伝統製法のハムやソーセージは良い食品で、工場で亜硝酸塩、つまり発色剤を添加して作るハムソーセージは悪い、だなんて、とんでもない言いがかりです。

「加工が悪くて生鮮がよい」という考え方に異を唱える畝山さん

フランス人は自然がお好き?

畝山:加工が少なければ少ないほど良い、という考え方だと、「食品は生で食べるのが一番良い」ということになってしまう。加熱だって加工ですから。でも、食品は生で食べるのがもっともリスクが高い。食中毒の危険性は非常に高いです。

フランスなどヨーロッパでは、未殺菌ミルクが人気ですが、ハイリスクで事故が起きるので、政府機関は「飲まないように」と注意喚起しています。

松永:フランス人研究者って、自然っぽいのが好きですよね。アメリカへの対抗意識がものすごく強くて、遺伝子組換えとか農薬とか、さまざまなものを批判している。科学を歪めている科学者が目立つような印象があります。

畝山:加工が悪くて生鮮がよい、という考え方にはいろいろな意味で賛成できません。生鮮食品をふんだんに食べられる、季節に関係なく新鮮な野菜や果物を食べられる、というのはお金持ちの国なんです。実はそれはとても不自然な状態。寒い国で冬、生鮮野菜なんて自然にはあり得ません。でも、先進国は輸入して食べられるようになり、塩に頼らない保存方法なども発達して、人は健康になり長生きできるようになった。それが人類の歴史です。

松永:結論としては、この超加工食品論文は参考にしなくてよい、ということですね。

畝山:筆者は、社会運動をしているのではないでしょうか。

消費者の罪悪感につけ込む日本のメディア

松永:そんな論文なのに、「超加工食品は悪い」という結果だけをとってきて、日本の医師や評論家などが日本の加工食品批判を展開しています。いくつかの週刊誌が、パンやインスタントラーメン、冷凍食品、レトルト食品やお菓子など、社名や製品名を挙げて批判しました。医学系ウェブメディアなどでも、もっともらしく医師が解説しています。日本の食品の良し悪しなんて、だれも調べていないのに。

畝山:週刊誌を作っている人たちや読者には、便利なことはいけない、という気持ちがあるのでしょうね。消費者にも、手間をかけていないことに対する罪悪感がある。とくに子どもを持っているお母さんたちは罪悪感を覚えやすくて、そこにつけ込む記事になっている、と思います。

松永:週刊誌を一番読んでいる層は、高齢の男性です。若い人たちに「それみろ、ちゃんとしなきゃダメじゃないか」と中高年が言える根拠となる記事は、ターゲットの読者層に歓迎されよく読まれる。だからこそ、週刊誌はこのような記事を掲載し、販売部数を伸ばそうとします。そうやって、情報に大きなバイアスがかけられていることをもうそろそろ、みんなわかった方がいい。

日本の科学者や医師の倫理は?

松永:日本語でネット検索すると、日本の有名医師がこの論文を基に「超加工食品の脅威」とか「体を密かに蝕む」とかバンバン書いていて、怒りを覚えます。論文を読まずに、安直にエッセイを書いているのでしょうね。英国のNHSのような科学的な批判は、日本語ではほとんどありません。日本の医師や科学者の倫理ってどうなっているのだろう、と思います。

畝山:一部の人が悪目立ちしているだけだと思いますが。まともな人はメディアにでたがらないし、科学に誠実であろうとするとキャッチーで断定的な記事を書くことはできないので。ほんとうは科学者も税金を使って研究している以上、一般向けに正確な情報を提供する必要があるのですが、多くの場合余裕がないのだと思います。

松永:もちろん、そんな医師らを起用してしまうメディア側の問題は非常に大きい。でも、畝山先生は、こうやって明快に説明してくださるからいいのですが、日本の科学者の多くは、あまり詳しく解説してくれないし、論文批判などもしないですよ。

畝山:いえいえ。取材を受けたら、きちんと説明しています。私が所属する国立医薬品食品衛生研究所の研究者も、週刊誌の取材など受けているんです。でも、記事ではその内容は無視されて、「添加物が危ない」というおなじみの評論家や医師が登場、となってしまう。取材して書く側も、これはウソなんだ、とわかっていても記事にしているのでしょうね。

松永:添加物の安全性は十分評価されているとか、加工食品も上手に利用してバランスのよい食事を、とか、インパクトがなくて、読者の食いつきが悪い。

畝山:一番かわいそうなのは、そんな記事を読まされる読者です。だから、私は常にきちんと説明してゆきたい、と思っています。今の日本では、加工食品の添加物を気にするより、栄養に気をつけてバランスよく食べる方がうんと大事。それに、減塩がとても重要ですよ。

松永:畝山先生は食品安全情報blogというサイトで、海外の情報を迅速に伝える活動をしておられますし、国立医薬品食品衛生研究所も、情報発信しています。このBMJの論文や英国のNHSの動きなども、紹介してくださっています。読者側も、いいかげんな週刊誌やウェブメディアに振り回されず、たしかな情報をつかむ努力が必要ですね。今日はどうもありがとうございました。

BMJ・Consumption of ultra-processed foods and cancer risk: results from NutriNet-Santé prospective cohort
https://www.bmj.com/content/360/bmj.k322

BMJ editorials・Ultra-processed foods and cancer
https://www.bmj.com/content/360/bmj.k599

JAMA Internal Medicine・Association Between Ultraprocessed Food Consumption and Risk of Mortality Among Middle-aged Adults in France
https://jamanetwork.com/journals/jamainternalmedicine/article-abstract/2723626

英国National health service・Do 'heavily processed' foods increase the risk of an early death?
https://www.nhs.uk/news/food-and-diet/do-heavily-processed-foods-increase-risk-early-death/

英国National health service ・Ultra-processed foods linked to cancer
https://www.nhs.uk/news/cancer/ultra-processed-foods-linked-cancer/

Food Manufacture・Scepticism over ‘ultra-processed’ food study
https://www.foodmanufacture.co.uk/Article/2019/03/12/Food-study-called-into-question

食品安全委員会・欧州食品安全機関(EFSA)、食品添加物としての二酸化チタン(E 171)の再評価に関する科学的意見書を公表
https://www.fsc.go.jp/fsciis/foodSafetyMaterial/show/syu04560130149

農水省・食品中のアクリルアミドに関する情報
http://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/acryl_amide/index.html

食品安全情報blog2
https://uneyama.hatenablog.com

国立医薬品食品衛生研究所安全情報部
http://www.nihs.go.jp/DCBI/dcbi-j.html

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