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“危ない超加工食品”を鵜呑みにしてはいけない からくりを国立衛研安全情報部長・畝山智香子さんに聞く

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(ShutterOK/iStock/Getty Images Plus)

「超加工食品ってそんなに悪いのですか?」 そう尋ねられる機会が増えました。週刊誌やウェブメディアでは「がんリスクを10%も上げる」「死亡率も上昇」「食べてはいけない」と報じられています。標的になっているのはインスタント麺やスナック菓子、炭酸飲料などです。

“超加工食品”が悪いという記事は、大規模なフランス人調査の結果をまとめた学術論文に基づいたもので、科学的根拠、すなわちエビデンスがあるように見えます。日経メディカルや毎日新聞医療メディカルなど、医学系メディアも追随して報道し、医師もコラムなどで紹介しています。

ところがこの論文、いろいろおかしな点があり、海外ではほかの科学者から論文に対して批判が上がっています。そこで、食品のリスクの問題に詳しい国立医薬品食品衛生研究所安全情報部長の畝山智香子さんに、論文の内容と日本の食品の課題についてじっくり話を聞きました。

先に結論を書きましょう。“超加工食品”説を鵜呑みにしてはいけない。そのからくりを解説します。

一見「エビデンスあり」なのだが……

超加工食品がリスクを上げるという結果を発表した2つの論文

松永:論文は、昨年2月と今年2月、計2本発表されており、フランスで10万人を超える成人を対象に行われた調査が基になっています。2009年に食事調査を行い、その後、2017年まで追跡調査をして、超加工食品(ultra-processed food)を多く食べていた人たちはがんリスクが12%上がっていたと解析したのが昨年2月の論文。今年2月の論文では、45歳以上の参加者のデータを解析し、超加工食品を多く食べていた人たちでは死亡リスクも14%上がっていた、と報告しました。海外で大々的に報道され、日本でもこのところ、紹介記事が目立ちます。

畝山:論文には次のように、相当に大きな問題がいくつもあります。

1.超加工食品の分類が科学的ではなく恣意的 2.調査がインターネットで参加者自体にバイアスがかかっている可能性が大きい 3.食事が自己申告 4.超加工食品の摂取を重量で比較している 5.参加者が真実を申告しているかどうか確認していない 6.教育レベルや経済力などほかの要因をどの程度調整しているかわからない

調査や研究の設計が、かなりおかしいと思います。

国立医薬品食品衛生研究所安全情報部長・畝山智香子さん(撮影:編集部)

松永:普通の人はどうしても、超加工食品だとリスクが上がる、という結果だけを聞いて、「加工度の高い食品はやっぱりダメなんだ。添加物のせいだろう」などと思います。でも、調査や研究が科学的でなければ、結果も信用するに値しない。だから、まずは調査研究方法を吟味しなさい、ということですね。

同じレシピで工場製は×、手作りは○?

畝山:まず、超加工食品の定義が問題です。論文で、超加工食品として分類されているのは、大量生産され包装されたパン/甘かったり塩味をつけられた包装スナック/工業的に製造された菓子やデザート/甘い炭酸飲料やドリンク類/ミートボールやチキン・フィッシュのナゲット、他の肉加工品など、塩以外の保存効果を持つ物質(たとえば亜硝酸塩など)が添加されたもの/インスタント麺やスープ/冷凍か常温保存できる調理済み食品/砂糖や油、台所で通常用いられない水素添加油脂や遺伝子組換えスターチ、たんぱく質などで作られた食品などです。

そして、これらを食べる量により、調査参加者を4グループに分け、その後のがんのリスクや死亡リスクを比較しています。論文を見ると、たしかに食べる量に応じてリスクが上がっています。

松永:普通の人が体に悪そう、となんとなく思っている食品がずらりと並んでいる。だから、悪いと聞かされると腑に落ちる。

畝山:でもね、同じレシピのパンであっても、工場製で包装されたものは超加工食品で、職人さんが作った包装されていないものは違うなんて、おかしいでしょう。分類が恣意的です。それに、4の「超加工食品の摂取を重量で比較している」というのも大きなポイント。結局、重量の大きい炭酸飲料やジュースなどをたくさん飲んでいる人たちがみんな、「超加工食品大量摂取群」になってしまうのです。

松永:なるほど。水と糖分だけで他の栄養素が入っていない炭酸飲料などをたくさん摂っていれば、体に悪いに決まっている。そういうからくりか。なのに論文は、「超加工食品は香料や着色料、乳化剤、人工甘味料などの食品添加物で人の知覚をごまかしている」などと解説しています。結局、添加物は悪い、という先入観で論文を書いている。

畝山さんに疑問を投げかける筆者

調査参加者は、意識高い女性?

畝山:そもそも、調査がインターネットで行われており、調査に関心を持ち参加申込みしてきた人が対象です。その結果、参加者の8割が女性。こういう調査に集まってきて協力する人って、いわゆる“意識高い人”が多いかもしれませんよね。しかも、参加者が好きな日を選んで、24時間に何を食べたか申告するやり方です。これを、まともな調査と見るかどうか、という話です。

松永:それに、食事の自己申告は当てにならない、という話は、科学的にはかなり明白な事実です。日本人の食事摂取基準2015年版に詳しく書かれていますが、BMI高めの人は食事を過少申告するし、低めの人は過大申告する。自己申告と実際の摂取量は1、2割は違うというのが、世界の栄養学における常識です。

畝山:論文を読むと、BMI24ぐらいの人の摂取エネルギーが1800kcalしかありません。これは明らかに、参加者が過少申告していますよ。ただし過少申告の程度は、この手の研究では小さいほうです。アンケートによる食事研究はもともと精度の高いものではないです。

松永:試しに計算してみました。1800kcalの摂取というと、日本人ならまあ妥当かなあ、なんて思ってしまう数字ですが、フランス人は体格が大きいから、もっと多く食べないと体を維持できない。体重1kgあたり必要なエネルギーは一般に、30〜40kcalぐらいとされています。論文に記載されている身長とBMIから計算すると、参加者の平均体重は66kg。つまり、2000〜2600kcal程度、本当は食べているはずです。なのに、申告結果は1800kcalで少なくて、1〜2割ずれている。この段階で2割もずれていて、真実ではないデータを基に解析して、「リスクが12%上がりました」と言われても、「元が2割も違うのに信用していいの?」と思ってしまいます。結構いいかげんな調査かも、と考えるヒントになりますね。

悪い仮説は、的外れ

畝山:もっとダメなのが、論文の後半で書かれているディスカッションです。どうして超加工食品をたくさん食べているとリスクが上がるのか、ということで4つの仮説が提示されているのですが、毒性学、栄養学を多少ともかじっていれば、こんなディスカッションにはなり得ません。

松永:論文に書かれているのは (1) 超加工食品を多く食べているとエネルギーや塩分、脂質、糖質などが多くなりがちで、食物繊維や微量栄養素が不足する (2)食品添加物 (3) 加工によりできる、発がん物質アクリルアミドのような汚染物質 (4)プラスチックから溶出するビスフェノールAのような内分泌攪乱化学物質……という4つの仮説です。(1)は、炭酸飲料やジュースを多く飲むような食生活なら、まあそうなりますよね、という話ですね。

畝山:(2)の食品添加物にかんする考察で例として挙げられているのは、二酸化チタン(TiO2)です。この添加物について、国際がん研究機関(IARC)はグループ2Bの「ヒトに対して発がん性がある可能性がある(possibly carcinogenic to humans)」に分類していると記述しています。でも、この発がん性は吸入曝露によるものです。

松永:つまり、吸い込んだときに発がん性があるかもしれない、ということですね。

畝山:食品添加物を含む食品は、鼻から吸い込みませんよ。口からの摂取の安全性はきちんと確認したうえで、食品に用いられているんです。

発がん物質は、家庭調理でもできる

松永: (3)のアクリルアミドは私でもおかしさはわかります。だって、アクリルアミドは家庭調理でもガンガンできていますから。工業製品だから含まれ、家庭や職人さんの手作りだからできない、なんて話ではありません。日本人は、もやし炒めやカレーを作る時に使う炒め玉葱、家で揚げるフライドポテト、それに黒糖やコーヒーなど、いろいろな食品からアクリルアミドを摂取しています。フランスでは、家庭調理の研究があまり行われていないのかなあ。

畝山:(4)の内分泌攪乱化学物質の話も、おかしいです。論文では、「プラスチックから溶出するビスフェノールAのような内分泌攪乱物質」と記述されていますが、ビスフェノールAが溶出している可能性がある食品の代表は缶詰です。トマトの缶詰をたくさん食べていれば、ビスフェノールAの摂取量は増えるでしょう。でも、トマト缶は、この論文では超加工食品には分類されていないのです。プラスチックの包装材から溶出する可能性があるのは、フタル酸エステル類です。どうも、話をごっちゃにして論文に記述しています。

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