記事

【読書感想】原節子の真実

1/2

原節子の真実 (新潮文庫)
作者: 石井妙子
出版社/メーカー: 新潮社
発売日: 2019/01/27
メディア: 文庫
この商品を含むブログを見る

Kindle版もあります。

原節子の真実(新潮文庫)
作者: 石井妙子
出版社/メーカー: 新潮社
発売日: 2019/07/31
メディア: Kindle版
この商品を含むブログを見る

内容紹介
14歳で女優になった。戦前、戦後の激動の時代に112本の作品に出演、日本映画界に君臨する。しかし42歳で静かに銀幕を去り、半世紀にわたり沈黙を貫いた。数々の神話に彩られた原節子とは何者だ ったのか。たったひとつの恋、空白の一年、小津との関係、そして引退の真相──。丹念な取材により、伝説を生きたひとりの勁い女性の姿を鮮やかに描き出す決定版評伝! 新潮ドキュメント賞受賞。

僕自身は、原節子さんの映画での活躍をリアルタイムで観ていた世代ではありません。
DVDで小津安二郎監督作品での原さんの佇まいに圧倒されたのですが、引退後は人前に姿を見せることなく、「引退」どころか「隠棲」を貫いた、という伝説の存在だと認識しています。

「引退」といっても、すぐに復帰してくる人が多い芸能界のなかで、原節子さんほど、その後の人生で、徹底的に姿を消して伝説であり続けたのは、僕の記憶では、山口百恵さんくらいしかいません。

それでも、山口百恵さんの場合は、夫が三浦友和さんということもあって、本人が取材に応じたりテレビに出たりすることはなくても、芸能界を縁が切れた、とも言い難いところはあるのです。

著者は、この「伝説の女優」原節子さんの生い立ちから、なぜ映画女優になったのか、どのような人柄だったのか、そして、なぜ引退し、人前に姿を見せなくなったのかについて、関係者の取材や多くの資料をもとに書いています。

原さんは、自ら望んで映画女優の道を歩んだわけではなく、実家の家運が傾いたことと、身内に映画関係者がいたことで、女学校を中退して映画界に入ることになりました。
本人は、家のためだから仕方がない、と思いつつも、映画女優という仕事に、誇りを持つことがなかなかできなかったのです。

映画女優となった節子はロケを除けば、東京・世田谷区上北沢三丁目にあった義兄の家と、日活の多摩川撮影所をほぼ毎日、往復した。当時は所属女優も毎日のように出社したのである。たまに休みがあると保土ヶ谷の実家に顔を見せた。

保土ヶ谷尋常小学校の同級生は、そんな彼女と東海道線の中で一度だけ一緒になったことがあったという。同級生は両親に連れられて歌舞伎見物に行くところだった。一方の節子は、これから撮影所に行くのだと告げ同級生に小さな声で、こう漏らしたという。

「いいわね、朝からご両親とお芝居に行けるだなんて……」

また戦後のことになるが、ある同級生が撮影所に見学に行き、セットの中にいる節子と明らかに眼があった。ところが次の瞬間、節子は目をそらし、二度と同級生がいるほうを見ようとはしなかったという。見られたくないところを見られた……、どちらの逸話からも、そんな節子の気持ちが伝わってくる。

当時の女優、それも映画女優がどう見られていたか。

節子よりも11歳年長の田中絹代は幼くして父を亡くし、琵琶に合わせて踊る琵琶少女歌劇団に入って舞台に立ち、日銭を稼いで家族を支えていた。だが、そんな境遇にあった彼女でも「映画女優になりたい」と母に告白すると、「お前はそんな賤しいものになりたいのか」と激怒され、家の外に放り出されたという。

節子より3歳年長の山田五十鈴は、やはり家庭が困窮し、元芸者の母に勧められ芸者になろうとしていた。そこへ、日活から女優にならないかと誘いを受け映画界入りするのだが、やはり、母は、「映画女優になぞなったら嫁に行けなくなる」と言って激しく反対したという。

当時の雑誌を読んでも、いかに映画女優が見下されていたかが、よくわかる。

映画界は堕落しきった社会として描かれており、特に女優は会社幹部、監督、男優と関係しないものはなく、性病にかかったり望まぬ妊娠をしたりする。しっかりとした紹介者もなく映画界に入れば、監督の腕に頼らなくては売り出せず、つまりは身を任すことになる。

それなりの給金をもらっても衣装や宝飾につぎ込み、やりくりができなくなってパトロンを求める、そんな記事ばかりが目につく。

その後、原さんは、若くして歴史に翻弄されることになります。

日本とドイツが同盟を結ぶことになり、日本でのドイツのイメージを良くするための国策映画『新しき土』に、ドイツ人のファンク監督に見初められて主演し、この映画を引っ提げてドイツに行っています。当時、外国に行くというのは、特別なことだったのです。

そして、若い時期に外国を体験することによって、日本での映画女優の地位や、貞淑な「耐える女性」の役ばかりがまわってくることに、疑問を抱くようになっていきました。

昭和15年に記録係として東宝に入社した杉本セツ子さんは、当時の原さんについて、こんな証言をしています。

節子は演技をしている時以外は、自分の存在を周囲から、できる限り消そうとしているように杉本には見えた。演技でも普段の振る舞いでも、節子からは自己顕示欲がまったく感じられなかったという。

ある時、人気のないロケバスの中で杉本が弁当を食べようとしたところ、先客がいた。後部座席で節子が、ひとり本を読んでいたのだ。

「いいのよ、気にしないで」
その眼は活字を追っている。杉本は思い切って前から聞きたいと思っていたことを口にした。

「あの、原さんはどうして、そんなに本がお好きなんですか」
すると節子は本から顔をあげて、静かにこう答えた。

「私はね、女学校をやめて14歳からこういう仕事をしているでしょう。だから勉強しなくてはいけないのよ」

杉本より3歳しか年上ではなかったが、そう語る節子はとても大人びて見えた。杉本はいう。

「原さんは女優さんらしくない女優だった。同時に、すばらしい女優さんだった」

あわせて読みたい

「芸能界」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    徴用工問題 韓国批判しない朝日

    木走正水(きばしりまさみず)

  2. 2

    田口容疑者 小嶺に誘われ大麻か

    渡邉裕二

  3. 3

    電子決済に逆行 現金化する日本

    木村正人

  4. 4

    堀江氏が村上世彰氏を痛烈に批判

    女性自身

  5. 5

    西内まりやを巻き込んだ巨額詐欺

    NEWSポストセブン

  6. 6

    早朝4時に吉野家 離れられぬ東京

    内藤忍

  7. 7

    小嶺麗奈「少し浮いてた」の声も

    女性自身

  8. 8

    慰安婦映画への陳腐な批判に呆れ

    古谷経衡

  9. 9

    おじさんが女の子の匂いを再現

    Dain

  10. 10

    HUAWEI排除 米が韓国に再三要請

    ロイター

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。