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消えゆく昭和「百景」がトレンド化する功罪とは フリート横田×都築響一×渡辺豪 特別鼎談

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続々と消えゆく“昭和の風景”を記録し、また関係者から聞き取りした昔話も収めた一冊、『昭和トワイライト百景』が刊行された。まもなく平成も終わるこの時期に、〝昭和〟の風景や街並みに惹かれる人たちが後を絶たないのはなぜか?著者・フリート横田氏と、編集者・写真家・ジャーナリストとして"昭和のカルチャー"に関する多数の著書を持つ都築響一氏、そして遊廓専門書店「カストリ書房」の店主・渡辺豪氏が集まり、昭和や、街の魅力を語り明かした。【聞き手/川口有紀 撮影/武蔵俊介(世界文化社写真部)】

左から渡辺豪氏、フリート横田氏、都築響一氏

“面白い”街は、“個人の顔が見えている”街

都築響一(以下、都築):「歌舞伎町クラブハイツ」や、昨年閉店した「ハリウッド」とか、前に取材したキャバレーの記事をまとめて自分のサイトにアップしたんだけど、若い子でそういう昔ながらのグランドキャバレーに行きたがる人ってすごく多かったんだよね。みんな閉店しちゃったんだけど。じゃあなんで若い子はそういうキャバレーに行きたがったのかというと、そういう場所が“もうない”から。大箱で、生バンドがいて、ショーを見ながらお酒が飲めて、ホステスさんがつくけど別におさわりがあるわけじゃない、そういう店が今はない。

新しく作ろうと思えば作れるかもしれないけど、お金を持ってる人がそういう方向にはいかない。渋谷の再開発とか、「町ににぎわいを」みたいな感じで高層ビル街の一帯を屋台っぽくするという話があるけど、でも結局入るのは肉バルとかそういうのじゃない?そういうことじゃないんだよ、と。

フリート横田(以下、横田):そういえば私、いまのお話を聞いて、都築さんが渋谷のハロウィン騒ぎについてコメントされてたのを思い出しました。そこにつながるお話ですよね。渋谷って開発が進みすぎて、若い人にとって“自分の街”っていう感覚が全然ないから、好き勝手やって、そのまま捨てて自分の街に戻ればいい、という意味のお話でした。

都築:そう。実は、根っこは最近多い「バカインスタグラム」騒動とも似てるんだよね。騒動起こしてるのは全部バイトじゃない?食べ物を出す厨房で、夜中にバイトだけで回してる方がそもそもおかしいし、しかもブラックでしょ?それで店に愛着を持てという方がおかしいし、ハロウィン騒ぎもそうじゃないのかなと。

横田:今回書いた『昭和トワイライト百景』は、高度成長期に建てられたビルとか、戦後からの歴史を持つ飲み屋街とかを紹介してるんですけど、やっぱり再開発された街とは対極のものだし、取材していても本当に面白いんですよ。

『昭和トワイライト百景』著者のフリート横田氏

都築:面白いというのは、個人の顔が出てるということだよね。

渡辺豪(以下、渡辺):再現が難しいものですよね。なくなってしまったらこれは再現ができない。

都築:でも形としては再現できなくても、今のやり方でアップデートできないわけじゃないと思うんだけどなあ……。

渡辺:僕も最近、それが地方の中規模都市ではできてるんじゃないかって思うんですよ。県庁所在地だと東京と同じような本屋、同じような喫茶店を目指してしまって、“東京の劣化版”になってしまう場所が多いんですけど、もう少し小さい地方の都市……例えば尾道だったら、古い銭湯を居抜きにしてカフェとお土産物を売ってたり、“昔のものと今のものを共存させる”店ができています。そうことに意義があるって若者たちは気づき始めてるんじゃないか、と。

都築:逆にそういうのって地方じゃないとできないんだよね。東京だと賃料が高すぎるから。同じことを下北沢でやろうとするとまず無理。地方のそういうアドバンテージを今の若い人はよくわかってるよね。

横田:今この鼎談をやっているのは渡辺さんのお店「カストリ書房」ですけど、ここも吉原ですもんね。東京でいうと、駅前中心の街づくりに組み込まれていない場所です。

渡辺:安いですよ、賃料。このへんでお店やりたいという人、今すごく増えてると思います。

鼎談が行われた遊郭専門書店「カストリ書房」。立地は吉原公園のすぐそば。

都築:人と違うことをやりたい人たちは、安い場所をなんとか探してやるスタイルになるわけじゃない?それが大きなお金の単位になれば、街はもっと面白くなると思う。例えばこの『昭和トワイライト百景』でも紹介されてるけど、新橋駅前ビルって再開発で立て直しの話が出てるでしょう?

横田:そうですね、西側のニュー新橋ビルも同様に、再開発計画にかかっていますね。

都築:ああいうビルを壊してデベロッパーが作るものは、ぜったいにああはならないし、つまらなくなる。古いものを壊すのは、新しく建てて儲けるためだけど、本当に開発業者たちが儲かるのかは、今はもうわからない時代なんだよね。だから大きいお金を動かせる人たちのメンタリティも変わったほうがいいと思う。

横田:でも一方で、私たちが面白いと感じるそういう古い場所というのは、〝誰かが残した〟わけじゃなくて、地権の関係などで結果的に再開発できず残っちゃった場所なんですよね。「面白い街づくりをしよう」なんて目的で作られた場所じゃない。

都築:人と違う場所を作るのが収益に結びつく、っていう発想が今は減ってるのかもしれないね。面白いものを作ろうとするモチベーションに巨額のお金が結びつくダイナミムズってあるじゃない?それがあると、もっとこの先も面白くなるんだろうけど。

渡辺:投資してもなんとかなるだろう、という気持ちがわかないですよね。個人の喫茶店にしても居酒屋にしても、今は土地を買って、何十年もローン払いながらやっていこうとはなかなか思えない。だからこそ面白いものがなかなかできないんでしょうね。

SNSで情報共有されることの功罪

都築:ただインターネットやSNSがあることで、僕らが取材しているようなことがちょっとしたことでトレンド化しちゃう可能性があって、そこは怖いな、という気がする。最近、ラブホテルの本を作ってる人たちに聞いたのが、古いラブホに行って、入らないで入り口の造作の写真だけ撮って帰ってくる人達がいる。でも利用者としては、場所が場所だけに、その場所の写真は撮られたくない。

横田:ああ分かります、そういうシーンは昭和ラブホに限らず、「映える」古い酒場通りなどでも起きていますね。でも私も本を出すことで、そういったトレンド化の片棒を担いでるなぁというジレンマをいつも感じています。

都築:まあそれは、僕もそうだから(笑)。

横田:古くて狭いスナックで、ママさんと煮物をつっつきながらカラオケ歌ったり話したりするのが好きですけど、SNSで「ここは惹かれる」というのを上げてると、外観の写真を撮りに来る人が増えるのは分かりますが、怖いから中には入らないんですよね。なにか怪しい、淫靡な感じ、そういう匂いだけが欲しいと。気持ちはよく分かりますけど。

都築:情報を発信する側としては難しいところだよね。昭和のすごくいい感じの居酒屋で〝オヤジ天国〟だったのがいきなり女の子がワッと増えてインスタに撮られて、オヤジは行く場所なし……というのもよく聞く話だし。

編集者の都築響一氏。写真家、編集者、ジャーナリストとさまざまな顔を持つ。

渡辺:でも実はお店側がそれで本当に困ってるかというと、僕は疑問なんです。お店側は常に新規の顧客を欲しがってるし、そこで今までだったら「場違い」だった若い女性が来たからって、どうこうというのはない。来たお客さんがどれだけお金を使ってくれるか、ですから。「雰囲気が変わった」って騒いでるのは第三者でしかないんじゃないか、と思うんですよ。

都築:あと面倒くさいことをいう“常連”ほど、実は大してお金使ってなかったりするしね(笑)。でも雰囲気が変わることはありえるから、そのあたりは紹介する側のさじ加減が難しい。

渡辺:コミュニティになってる部分は確かにあるだろうから、そこは大事にしないといけないなとは思うんですけど。でもそれって見方を変えれば停滞してる状態でもあると思うんですよね。昭和が面白かったのは、「変化がたくさんあった」からこそ面白かったんだと思います。だから女性がたくさん来るようになったというのも変化だし、そういうのがあったほうがポジティブなんじゃないかなと思うんですよ。

横田:古い飲み屋街のスナックというのは、窓のないドアが一つあるだけで、メニュー表も外に出ていないし、どんな雰囲気かもわからないし、ぼったくられるかもしれない、そう思って新しいお客はそうそう入りません。渡辺さんのいう「停滞してる」状態ですよね。

でも昔は、会社の上司や先輩が部下や後輩を誘って、そういう隠れた店を教えて、酒の飲み方も指南しました。だからこの店は「第一営業部の人が飲みに来る店」とか部署ごとに行くところが決まっていて、申し送り事項のように、代々受け継がれてきた。常に新しい人が流入した。こういうことがパワハラ忌避の今の風潮や、会社で使える経費もなくなってしまったこともあって、ほとんど消えた文化になっちゃった。

渡辺:「飲みニケーション」は悪い点もあったでしょうけど、それだけではなかったわけですよね。前に横田さんと行った酒場の女将が嘆いてましたけど、「上司がさんざん若手を説教して、そのくせ最後は割り勘だったの。これじゃ見てるこっちが気の毒になったわ」という話がありましたね。確かにこんなことなら、会社飲みを避ける人が出るのは当然ですよね。

カストリ書房店主・渡辺豪氏。IT企業を退職し、遊郭専門書店を立ち上げた異色の経歴を持つ。

横田:飲む文化自体の変化、娯楽がいろいろ増えた、とか理由はいろいろありますけど、古いスナック街などに若い人がいないのは、やっぱり社会にお金がない、っていうのは大きいと思います。大衆酒場とか安い居酒屋には人が今も山ほどいます。横浜の野毛なんて金曜は凄いです。若者たくさん。でも大岡川を渡ったすぐ先の福富町は人が少ないです。こっち側はホステスさんのいる飲み屋街ですね。

渡辺:でも、そういう酒場の文化、楽しみ方みたいなことに、若い人も興味がないわけじゃないと思うんですよね。

横田:ええ、そう思います。マッチングがうまくいってないだけで、たとえば今度の『昭和トワイライト百景』を読んで、飲み屋街の背景を知って、怖さを取り除ければ、ドアをあけてみる人は増えてくれるんじゃないかな、とも思っています。知ることで「怪しさ」は解消できますが、ちゃんと「妖しさ」は残りますし。

都築:スナックの本を作った時にわかったのは、「ネットは大して教えてくれない」ってこと。スナックの情報は、グルメサイトなんかにはぜんぜんないんですよ。何万軒も日本にあるのにもかかわらず。そういうSNSとかネットとは違う世界に生きてる店がたくさんあるんだよね。しかも良さは外からはわからない、古けりゃいいってもんでもないし。

横田:いいスナックの良さって、言葉で言いづらいですよね。

渡辺:グルメサイトみたいに「この店は、有名な銘柄の酒がこれだけあって、新鮮な魚介が何十種類から選べて」、みたいな定量的な表現で、店の良さを伝えることができないですから。

都築:玉袋筋太郎さんとよく話すんだけど、我々って「いいスナックってどう見分けるの?」とよく聞かれるんだけど。「見分けらんねえよ!」って。だから実は、そういう分野においては、ネットはそんなに多くのことを教えてくれないの。

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