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東大入学式の祝辞から考える「誰が弱者なのか」ということ

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また、去年の年末にはこんな記事もありました。

『彼女は頭が悪いから』ブックトークに参加して見えた「東大」という記号の根深さ
https://note.mu/hamamari/n/nbbd358cc6cc4

上野千鶴子さんの祝辞の中でも取り上げられた、姫野カオルコさんの小説『彼女は頭が悪いから』。実際にあった東大生らによる集団強制わいせつ事件をもとに描かれた本作を題材に、昨年、東大でブックトークが開かれました。上の記事はそのイベントの様子を綴ったレポートですが、登壇者の一人であり、東大でジェンダー論を教えているという男性教授が、作中で描かれている東大生に挫折感がないこと、屈折のないことについて違和感を感じる、と語ったことが紹介されています。冒頭から異様にピリピリとした様子で作中のディテールの誤りを一つ一つ指摘したり、リアリティのなさを批判したことなどが紹介されています。

本記事中では教授の名前は伏せられていますが、他で公開されている登壇者情報を見ると、この教授自身も東大の卒業生でいらっしゃるようです。

東大に合格した経験のない私からみれば、東大合格という経験はそりゃあもう圧倒的な成功体験で、あらゆる努力や苦悩が一気に報われ、自己を強烈に肯定してくれるものであるようにも思えます。そして、そんな体験をした子どもたちだからこそ、上野千鶴子さんの祝辞も、“選ばれた自分たちに必要な言葉だ”と、素直に受け入れてくれそうな気がします。ところが、上記2つの記事を通して見えてくる男子東大生の姿というのは、どうもそんな私達の思い描く強者の像からは、少なからずズレがあります。

男性は弱者になり得ないのか

上野さんはスピーチの終盤でこのようにお話されています。

“あなたたちのがんばりを、どうぞ自分が勝ち抜くためだけに使わないでください。恵まれた環境と恵まれた能力とを、恵まれないひとびとを貶めるためにではなく、そういうひとびとを助けるために使ってください。そして強がらず、自分の弱さを認め、支え合って生きてください。女性学を生んだのはフェミニズムという女性運動ですが、フェミニズムはけっして女も男のようにふるまいたいとか、弱者が強者になりたいという思想ではありません。フェミニズムは弱者が弱者のままで尊重されることを求める思想です。”

「フェミニズムは弱者が弱者のままで尊重される思想」
勇気づけられる言葉だと感じた一方で、この祝辞の中では、男子東大生自身が弱者である可能性、また弱者になり得る可能性については、一切触れられませんでした。

たしかにスピーチの中でもあったように、女性が女性ということを理由に活躍を阻まれたり、優秀であることを疎まれたりと、不当な待遇を受けることはあります。けれども男性にも当然、自分が男性というだけで無条件に押し付けられる社会的役割が根強くあり、そのために苦しんだり、悩んだりすることもあるでしょう。もちろん上野さんはそんなこと百も千も万も承知でお話されているのでしょうが、であればこそ、ここにわずかでも歩み寄る一言があれば……と偉大な先生に大変恐れ多くも、そんなことを思わずにはいられません。

なぜなら、もしその場に私達の思うような成功体験ではなく、恨みや、憎しみといった苦しみを抱えた男子がいたとして、自分が男性で、東大生であるというだけで、自分の弱さは認められず、尊重もされないのだ、と思ってしまえば、それ以外のメッセージは、おそらく全て遮断され、受け入れられなくなってしまうからです。

男の子はなぜ「男らしく」育つのか

先日、共同通信で『ボーイズ 男の子はなぜ「男らしく」育つのか』という本の書評を書きました。この本は、女性同士のカップルで養子の男の子を育てているカナダ人の著者が、男の子の「男らしさ」が形成されていくプロセスや、それに付随しておこる、男の子の生きづらさにフォーカスした内容です。この中で作者は次のように語っています。

“女の子は生来的に数学が苦手だとか、月経周期のせいで優れたリーダーにはなれないという意見に対しては、批判と、豊富な証拠に根差した反論が向けられる。 しかし男の子と男性に関しては、私たちはいまだに、彼らの問題点も短所も、そして長所も、生物学的な結果なのだという考えにしがみついている。女らしさはつくられたものだが、男らしさは生まれつき、というわけだ。”

インターネットによって、長い間ないことにされてきた女性の生きづらさが次々と可視化されはじめた今、次に必要なのは、男性もまた、男らしさに縛られることなく、自分の生きづらさや弱さを、正直に打ち明けられるようになること、なのかもしれません。

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