記事

【読書感想】大統領とハリウッド-アメリカ政治と映画の百年

2/2
実はケネディはそれほど映画好きではなく、よほど面白い作品でもなければ、上映から20~30分で席を立つのが常であったという。彼はさしてセレブに関心はなかったのである。彼自身が一番のセレブだったのだから。

ケネディのお気に入りの映画は、ワイラー監督による洗練された『ローマの休日』(1953年)であったという。夫の在職中に、ジャクリーンは約70本の映画をホワイトハウスで鑑賞しており、その中には、アラン・レネ監督『去年マリエンバードで』(1961年)のように抽象的な作品も含まれていた。もちろん、夫は観ていない。
さて、『市民ケーン』である。「ザナドゥ―」という豪邸で、稀代の新聞王ケーンが孤独のうちに死ぬ。『バラのつぼみ』という言葉を残して。この言葉の謎を解くために、ある記者がケーンの人生をたどる。

偶然に巨万の富を手にしたケーンは、自己顕示欲を膨らませながら、妻を失い愛人を失い友人を失っていく。この間、彼はキューバでの危機を利用して、自らの新聞の発行部数を増やそうとした。自社の特派員が戦争など起こりそうにないと報告すると、この新聞王は傲然と答えた。

「君が退屈な散文を提供するように、私は戦争を提供するのだ!」。まさにフェイク・ニュースである。同様に、ケーンはその新聞を利用して世論を左右し、知事選挙に立候補さえした。だが、不倫が発覚して、彼は落選する。

彼の新聞は二種類の見出しを予め用意していた。「ケーン当選」と「不正投票」である。結局、件の記者は「バラのつぼみ」の謎を解明できずに終わる。母とともにあってまだ幸せだった子供時代に、ケーンが愛用した雪ぞりの模様が「バラのつぼみ」だったのである。

 孤独なデマゴーグによる大衆扇動の危険が、ここでも描かれている。しかも、そのデマゴーグが主人公なのである。実は、『市民ケーン』はトランプ大統領のお気に入りだという。

自らが「フェイクニュース」の震源地であるトランプ大統領は、どんな気持ちで、この映画を観ているのでしょうか。

ケーンに共感しているのか、自分はこんな失敗はしないぞ、と反面教師にしているのか。
いずれにしても、いまの時代は「一昔前のハリウッド映画よりも、映画的な世界」になっている、ということなのでしょう。

fujipon.hatenadiary.com

レーガン - いかにして「アメリカの偶像」となったか (中公新書)
作者: 村田晃嗣
出版社/メーカー: 中央公論新社
発売日: 2011/11/24
メディア: 新書
クリック: 7回
この商品を含むブログ (18件) を見る

ローマの休日 (字幕版)
発売日: 2013/11/26
メディア: Prime Video
この商品を含むブログを見る



市民ケーン(日本語吹替版)
発売日: 2018/03/25
メディア: Prime Video
この商品を含むブログを見る

あわせて読みたい

「大統領」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    BLOGOSサービス終了のお知らせ

    BLOGOS編集部

    03月31日 16:00

  2. 2

    なぜ日本からは韓国の姿が理解しにくいのか 識者が語る日韓関係の行方

    島村優

    03月31日 15:41

  3. 3

    「いまの正義」だけが語られるネット社会とウェブ言論の未来

    御田寺圭

    03月31日 10:09

  4. 4

    カーオーディオの文化史 〜ドライブミュージックを支えた、技術の結晶たち〜

    速水健朗

    03月30日 16:30

  5. 5

    BLOGOS執筆を通じて垣間見たリーマンショック後10年の企業経営

    大関暁夫

    03月31日 08:27

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。