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「ヒトラー」「蒋介石」権力者に共通する「正統性」への欲望 - 野嶋剛

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ヒトラーが欲したものとは(C) 2018 - 3D Produzioni and Nexo Digital - All rights reserved

 美術品は、移動する。それは、美術品が一部を除いて、土地や建物のような不動産ではなく、動産であるからだ。その特性は、美術品に多国籍性と、国際マーケットで活発に取引される財産の地位を付与し、多くの国をまたいで売買されたり、贈与されたりしている。ポケットやカバンに忍ばせた小型の作品が、密輸によって遠い距離を移動することもしばしば起きる。

 だが、美術品の移動にはもう1つの形態がある。略奪である。略奪美術品(文化財)の問題は、決して目新しい話ではない。いつの時代も美術品は略奪を繰り返されながら、その価値を高めていった。英国が誇る大英博物館に置かれている中東・アフリカ・アジアの膨大で貴重なコレクションには、広い意味で略奪美術品と言えるものが多数含まれている。

 大英博物館と並んで「泥棒美術館」との悪名をいただくフランスのルーブル美術館もまた、ナポレオン・ボナパルトがヨーロッパ征服のなかで略奪した品々を飾っている。ドイツ文学者の中野京子氏は、ナポレオンは「当然のように各地の城や邸宅から膨大な数の絵画や彫刻、発掘品や工芸品を強奪した」と言う。その結果、いまのルーブルの豊富なコレクションが生まれた。

美術品略奪と「正統性」

4月19日から全国で順次公開
(C) 2018 - 3D Produzioni and Nexo Digital - All rights reserved

 まもなく日本で公開される映画『ヒトラーVS.ピカソ 奪われた名画のゆくえ』は、まさにこの略奪美術品をテーマにした野心的な作品だ。なぜ野心的かと言えば、ドキュメンタリー作品でありながら商業性を失わず、しかも、ナチスによるユダヤ人迫害というたいへん重く、同時に、手垢のついたテーマに挑んでいるからだ。

 ナチスは国内や征服した外国の富裕層ユダヤ人に目をつけ、彼らが保有する美術品や工芸品を狙った。無理やり奪ったケースもあるが、大掛かりなものはあくまでも「合法」の名の下に、自らの協力下にある美術商を通して「格安」で買い取った。ユダヤ人の国外退去を認める、という餌をちらつかせながらの半ば強制的な利益交換だった。

 その作業には、アドルフ・ヒトラーのみならず、ヒトラーの腹心中の腹心だったヘルマン・ゲーリングがのめり込み、ヒトラーと争いながら美術品を集めるようになった。

 この映画のタイトルは「ヒトラーVS.ピカソ」だが、「ヒトラーVS.ゲーリング」という角度からも楽しむことができるだろう。ほかにも、稀代の贋作家ハン・ファン・メーヘレンが、人気作家フェルメールの贋作をナチスにつかませるくだりは爽快だ。

 そんな秀逸なエピソードが満載のストーリーは映画館で楽しんでもらうとして、私がここで語りたいのは、指導者がどうして美術品を手元に置きたがるのか、という問題だ。

 それは、正統性(レジティマシー)をいかに指導者が欲するのか、という政治行為の根本に関わってくる。「正統性」はわかりやすく「権威」と言い換えてもいい。

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