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あらゆる分断を越えて、誰も路頭に迷わせない東京をつくる! / 稲葉剛氏インタビュー

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――稲葉さんは現在、クラウドファンディング(https://camp-fire.jp/projects/view/127236)に挑戦中です。最初に現状について教えてください。いま貧困の「かたち」が変化し、多様化しているとのことですが、どのような状況なのでしょうか?

私は1994年から東京都内で路上生活者の支援活動に関わり、今は一般社団法人つくろい東京ファンドという団体で、空き家を活用した生活困窮者への住宅支援に力を入れています。

日本のホームレス問題は、1990年代半ばから2000年代初頭にかけて深刻化しましたが、近年は生活保護を申請して、路上から抜け出す人が増えたため、狭い意味でのホームレス状態にある人の数は減り続けています。

以前はホームレスの人が役所の窓口で相談に行っても、生活保護の申請をさせてもらえずに追い返される、という違法な「水際作戦」が横行していたのですが、2000年代に入り、支援者が法的な知識を身につけて申請に同行するという活動が広がりました。その結果、生活保護の運用が改善され、法律通り、住まいがなくても生活保護を受けられるようになったわけです。私自身もこれまで3000人以上の路上生活者の生活保護申請をサポートしてきました。

――「狭い意味」でのホームレス問題には改善がみられるわけですね。

はい。東京都が毎年2回実施している概数調査では、昨年8月の都内の路上生活者数は1184人となっており、ピーク時の1999年の5798人と比べると、5分の1近くまで減っています。

ただ、この数は日中の目視調査によるものなので、数字が少なめに出る傾向があります。また、路上生活をしている人の中には、仕事をしてお金がある時はネットカフェや24時間営業の飲食店などに泊まっている人も多いため、「ある一日」だけの調査では正確に実態を把握できません。

東京工業大学の学生を中心とする「ARCH」という市民団体では、深夜の独自調査により、都内の路上生活者数を約2250人と推計しています。また、海外での調査結果も踏まえた上で、都内で1年間に1日でも路上生活を経験する人が約24000人、そのうち初めて路上生活を経験する人が年間16000人もいると見積もっています。

――かなりの数ですね。

そうです。東京の街を歩いていて、ダンボールやブルーシートでできた家を見かける機会は少なくなってきましたが、実は人生の中で「今夜、雨露をしのぐ場所を確保できない」という「緊急事態」を経験している人は見かけよりずっと多い、というわけです。

路上生活に陥ったことのある人に話を聞くと、多くの人が「一度は死ぬことを考えた」と言います。そうした緊急時の支援のために、私たちホームレス支援団体が存在しているのですが、各地の支援団体が実施している炊き出しや相談会に集まる人は、ほとんどが中高年の男性なので、女性や若者は行きづらいという声をよく聞きます。また、外国人がホームレスになってしまった場合、言葉の問題もあるので、支援に関する情報にアクセスできないという問題もあります。

――なるほど、ホームレスの人たちのあいだにも、格差があるんですね。女性や若者、外国人はどこに相談に行っているのでしょうか。

それぞれの人たちの専門相談を実施している民間団体に話を聞いてみると、相談現場において「今夜、行き場がない」という状態の人が出会う機会がたびたびあり、団体によっては独自に物件を確保してシェルターを提供したり、ネットカフェやホテル等に泊まるための宿泊費を自腹で出している例が少なくないことがわかってきました。

「ホームレス支援」と銘打っていなくても、実質的にホームレス状態にある人たちを支援している団体がたくさんあるということが見えてきたのです。

その中でも、私にとってショックだったのは、認定NPO法人の難民支援協会(JAR)が数年前から「越冬支援」のための寄付キャンペーンを始めたことでした。

JARは戦乱や迫害などから日本国内に逃れてきた難民を支援している団体ですが、日本では難民申請中の外国人が充分な公的支援を受けられず、頼れる家族や友人もいないため、路上生活となってしまうケースが少なくないと言います。

そこで、JARでは他団体と連携して緊急の宿泊場所を提供したり、ホステル等での宿泊費用を支給するといった緊急支援を実施しているのですが、そのための資金を集めるため、冬の時期に毎年、「越冬支援」のためのキャンペーンを実施するようになりました。

難民の中には、年間通して暖かい国から来た人も多いため、厳しい日本の冬を乗り切るための衣類や宿泊などの緊急支援へのカンパを呼びかける、という内容です。

実は「越冬支援」という言葉は、ホームレス支援業界の専門用語です。その言葉を国内の難民を支援しているNPOが使わざるをえないという現状に、私は大きなショックを受けました。

――日本では難民認定がとても厳しく、数が少ないのに、そんな体たらくなんですね。

もう一つ、ショックだったのは、昨年6月に新宿・歌舞伎町のコインロッカーで乳幼児の遺体が発見された事件でした。

この事件では、ネットカフェで生活をしていた25歳の女性が殺人・死体遺棄容疑で逮捕されましたが、逮捕後、彼女は「ネットカフェの中で出産し、赤ちゃんが声をあげたので殺してしまった」と供述したと報じられています。

この事件が起こった時、私は、居場所のない若者たちの相談支援に取り組む一般社団法人Colabo代表の仁藤夢乃さんに事件をどう考えるか、聞いてみました。

仁藤さんは逮捕された女性について、「彼女には頼れる人や安心して生活できる場所がなかったのではないか、たった一人でどれだけ不安だっただろうかと思いました。妊娠までも孤立困窮していたのかもしれませんし、妊娠後も誰にも相談できずに追い詰められていたのではないか」と語った上で、「彼女に気づいて、声をかけた人はいなかったのだろうか。私も含めた支援者や、誰かが早い段階で彼女に出会い、支援につながれていたら」と、やるせない思いを語ってくれました。

Colaboは、昨年秋から新宿や渋谷の繁華街にマイクロバスを停車させ、そこで食事提供や相談をおこなう「バスカフェ」の活動を開始しました。ネットカフェなどで孤立している彼女のような若者に早い段階で出会い、支援につなげるための活動です。

今年になって「バスカフェ」での相談の様子について仁藤さんに聞くと、「バスカフェ」での相談を通して、行き場のない若者を緊急の宿泊支援につなぐケースが徐々に出てきている、という話でした。

Colaboは独自のシェルターも持っていますが、深夜の相談でシェルターへの移動が困難な場合は、近隣のホテルの部屋を確保して泊まってもらっているそうです。

ただ近年、東京に来る外国人観光客が増えたため、都内のホテルの宿泊費が高騰しています。その結果、宿泊費が団体財政を圧迫する現状になっているとのことでした。

――ホームレス問題のすそ野は思っていた以上に広がってるんですね。

はい。JARやColaboのように、「ホームレス支援」とは縁遠い分野で活動をしていると思われていた団体が、実質的にホームレス状態にある人を支えているという現状を知り、貧困の「かたち」の多様化を痛感しました。

そして、それらの団体が共通して抱えている「緊急宿泊支援のための費用確保」という困りごとを解決する仕組みを作りたいと思ったのが、「東京アンブレラ基金」を設立するきっかけです。

――ほかにも、LGBT、人身取引被害者、原発事故避難者などのあいだにも、ホームレス化がみられるとのことです。

つくろい東京ファンドは、東京の中野区で空き家を活用した個室シェルターを運営しているのですが、そこでLGBTの生活困窮者を受け入れることがあります。

その活動を通して、LGBTの当事者団体の方々とも連携をする機会が増えてきたのですが、お話をうかがってみると、LGBTの若者が家族の偏見や無理解のため、実家から追い出されたり、家出をして、最終的にホームレスになってしまうケースが少なくないことがわかってきました。

生活に困窮した場合には生活保護を申請することができますが、都内の福祉事務所の中は「他に選択肢がないから」という理由で、「相部屋の民間施設に入らないと、生活保護を受けさせない」という対応を取っている自治体もあります。

しかし、集団生活の施設では、LGBTの人に対する他の入所者からのいじめやハラスメントが頻発しています。また、トランスジェンダーの人については、受け入れそのものを断られるケースもあり、結果的に制度から排除されてしまう、という問題があることがわかってきました。

そこで、昨年、当事者団体の関係者が集まって、「LGBTハウジングファーストを考える会・東京」という団体を新たに作り、中野区内でアパートを1室借り上げて専用のシェルターとして運用することにしました。私も相談役として、この事業に協力しています。

今年の1月からシェルターでの受け入れを始め、これまで延べ3名を受け入れてきました。ただ、現段階で部屋は1室のみなので、部屋が埋まっていると受け入れできないケースもあり、対応に苦慮しています。

「東京アンブレラ基金」では、事前に登録をしていただいた協働団体が相談者に宿泊用のネットカフェ代やホテル代などを支給する際、1人1泊あたり3000円を補助する仕組みを作ります。このプログラムが始まれば、シェルターが空いていない時でも、当面の宿泊費を支援することができるようになります。

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