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トヨタが“虎の子”のハイブリッド技術を外部に無償提供する理由

トヨタ自動車はハイブリッド車(HV)開発で培った車両電動化関連技術を外部に無償で提供することを決めた。具体的には、トヨタが20年以上にわたり、HV開発で蓄積してきたモーターや電力制御装置などの技術について、約2万3,740件の特許実施権を2030年末まで無償供与するというもの。他のメーカーがトヨタの技術を使って電動車両を開発・製造する際には、技術サポートも実施する。

「プリウス」でHVの一時代を築いたトヨタにとって、モーター、バッテリー、PCU(パワー・コントロール・ユニット)、システム制御などの技術は“虎の子”ともいうべき財産だ。それらを外部に開放する理由とは何か。

トヨタは車両電動化技術に関する特許約2万3,740件の実施権を外部に無償提供する

なぜ、トヨタはHV技術の特許を無償提供するのか

トヨタが圧倒的な強みを持つHVの特許実施権を無償で解放するのは、地空温暖化への対応として、世界的に自動車への環境規制が強まり、ゼロエミッション車(排気ガスを出さないクルマ)への移行が迫られているからだ。

HVの実用化で先行したトヨタも、HVからPHV(プラグインハイブリッド車)、ピュアEV(電気自動車)、さらにはFCV(燃料電池車)へと、多様な電動車の開発に取組んでいる。そんな中で、個社の技術開発だけでなく、「電動車が世界に普及してこそ、地球環境への貢献につながるとの強い思い」(寺師茂樹副社長)があり、このオープンな戦略に踏み出したのだという。

トヨタが培ってきたコア技術はさまざまな電動車両に適応可能だ

一方でトヨタは、電動化技術の特許解放と同時に、システムサプライヤーとしてのビジネスにも乗り出すことになる。具体的には、技術支援のためのエンジニア派遣や電動化システムの外販を始めるのだ。トヨタにとっては、新たなビジネスモデルへのチャレンジでもある。

新しい移動サービスの創出に向けて、ソフトバンクと組んだMaaS事業への取組みとともに、新世代技術に対応すべくトヨタが進める「大きな仲間づくり」の戦略が進んでいる。今回の特許開放も、この文脈で捉えるべきだろう。これは「オープン&クローズ戦略」であり、当面の特許解放で仲間をつくり、中長期的には自社を有利な状況に導くものといえよう。

HVでは覇権を握ったが…世界の環境規制は待ったなし

トヨタは1997年、当時の奥田碩(おくだ・ひろし)社長が「赤字を覚悟で市場投入する」と決断し、世界初の量産HV「プリウス」を発売した。以来、HVはトヨタの各車種に広がり、燃費面はもとより、価格面でもガソリン車などに対する競争力を獲得するまでに育ってきた。プリウスにはPHVも用意するまでになった。

日本の自動車市場では、2010年代半ばにHVが大きな存在感を示すようになった。近年では欧州や中国でもHVの販売が伸びている。トヨタは2018年に世界で163万台のHVを販売。1997年以来の電動車の累計販売台数は1,300万台を超えている。

トヨタはこれまでに1,300万台以上の電動車を販売している

この間、ライバルの日産自動車が、トヨタから技術供与を受けてHVを発売したこともあったが、その後の日産は自前でHV技術を開発し、小型車「ノート」などに搭載している電動パワートレイン「e-POWER」に結びつけている。

すでにトヨタグループであるスバルとマツダは、トヨタからPHVを含むシステムの供給を受けている。最近では、2019年3月20日に、トヨタとスズキがHVの展開などで業務提携の拡大を発表。スズキはトヨタからHVシステムの供給を受ける。

世界で強まる燃費規制、自動車メーカーは対応必須

今回、トヨタはグループの枠を外してHVの電動化技術を無償解放すると決めたわけだが、その背景には、深刻な地球環境問題を受け、世界各国で厳しさを増す燃費(CO2)規制がある。

自動車各社は「CAFE」(corporate average fuel efficiency、企業平均燃費)と呼ばれる燃費規制に直面している。メーカーごとに、販売する全てのクルマの平均燃費に規制を受けるもので、米国や欧州、中国に続き、日本でも2020年から適応される見通しだ。

世界的に自動車に対する環境規制が強まっている

米国では、カリフォルニア州の「ZEV(ゼロ・エミッション・ヴィークル)規制」が有名だが、この規制を実施するのは同州だけではなく、そのほか9つの州で導入が決まっている。欧州の状況を見ると、欧州委員会は2025年以降のCAFE規制に「ZLEV」(Zero Level Emission vehicle、1キロ走行する際のCO2排出量が50グラム以下の車両)の恩典を付加する。つまり、よりCO2を排出しないクルマを作ったメーカーに対しては、何らかの形で報いようという考え方だ。

中国では「NEV(ニュー・エネルギー・ヴィークル)政策」が2019年から始まっている。自動車メーカーに対し、電動車を一定以上の割合で販売するよう促す政策だが、この政策ではHVが電動車から除外されている。メーカーはPHV、EV、FCVの販売台数を増やす必要があるが、達成すべき電動車の販売比率は2019年で10%、2020年で12%と強化されていく見通し。達成できなければ罰金を支払うか、達成した他のメーカーから「クレジット」を購入しなければならない。

アジアでもインド、インドネシア、タイなどがEV、PHVの普及を後押しする政策の強化を検討中。つまり、世界的に国策としての電動車への移行が進んでいるのだ。

トヨタは20年以上のHV開発を通じ、電動車全般の高性能化、コンパクト化、低コスト化に役立つ特許を蓄えてきた。それらの技術はHVだけでなく、EVやFCVにも応用できるものだ。他の自動車メーカーにとってトヨタの技術は、各国の規制に対応していく上で助けになるだろう。

トヨタにシステムサプライヤーという新たな顔

電動車関連特許を無償解放するトヨタの本音は、モーターやシステム制御などでトヨタがシステムサプライヤーとなり、「仲間を増やす」ことで、電動車競争を優位に進めていきたいということだろう。あえて虎の子の技術を解放することで、電動車の普及を促進することにしたのだ。

「2030年頃を考えると、自動運転、コネクテッド、シェアリングなどにより、いろいろな面で自動車のビジネスが変わっていく。その時、ソフトウェアのバーチャルな世界から(自動車業界に)来た人たちは、自分でクルマを作って(技術的な)擦り合わせをするのではなく、トヨタのクルマを使う方向に行くと見ている。そのためにもトヨタは、モビリティプラットフォームなど、いろいろな準備を進めておく必要がある」と寺師副社長は語る。

トヨタ自身もHVからEVへと向かう準備に余念がない。同社がデンソーおよびマツダと設立したEVの基盤技術開発会社「EV C.A. Spirit」には、ダイハツ工業、日野自動車、スバル、スズキ、いすゞ自動車、ヤマハ発動機らが参画し、いまや“日本連合”の様相を呈している。また、電子化の中核工場だった広瀬工場をデンソーに売却し、主要な電子部品事業をデンソーに集約したという新たな流れもある。

今回の特許無償解放からも、「オープン&クローズ戦略」の一環として電動車の普及促進を図りつつ、仲間づくりを進め、電動化する自動車業界で世界をリードする優位な立場に立とうとするトヨタの狙いが見てとれる。

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