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ほんとうの孤独~虐待サバイバーとアフターケア

■アフターケア

大阪市で唯一の公的なアフターケアの「居場所」であるサロンドソワレという施設(サロン・ド・ソワレ)が、来年度以降の存続が危機的状況になっており、その存続を願うささやかなイベントが昨夜行なわれた。

僕もその動きを応援しており、ソワレ職員の竹内さんとともにミニトークイベントに参加した。

それは「サロンドソワレBAR」」という名称ではあるが、そもそも職員の竹内さんがゲコであるから、サロンドソワレ・カフェでもよかった。けれども、BARという言葉が醸し出す濃密感を、竹内さんは望んでいたのだろう。

参加者は10名ほど。それほど広くはないソワレの居間に人々はのんびりと座り、竹内さんと僕の話を聞いていた。ソワレの危機、児童虐待被害→児童養護施設→18才→就労と自立援助ホーム→アフターケアという流れのなか、援助ホームに入る機会がなかった若者たちは、18才以降自分の力で生きる。大学進学する人も同じように「一人で」社会に入っていく。

僕は、大阪大学大学院の「臨床哲学」というところで、PTSD(心的外傷後ストレス障害)について、哲学的に学んだ。記憶は常に反復し、かたちを変え、一生本人を襲う。反復する前に頭のどこかに沈殿し、暗く不気味なものになっている。そのようなフロイトの100年前の議論はまだまだ有効だと思う。

また、PTSDの古典である『心的外傷と回復』(ジュディス・L・ハーマン/中井久夫訳/みすず書房)をあらためて読み直すまでもなく、「悪い記憶」は回復したと思っていてもいつまでも当事者を悩まし、年老いてもある日突然現れたりする。

そしてそのフラッシュバックは混沌としていることから、法的な場所や人(裁判所や裁判官)にとっては何が真実かわからないこともある。いっときハーマンの主張がフェイク的に批判されたことがあったが、それは、PTSD患者が不可避に描いてしまう(記憶を少し変えたり隠すことで現在の自分を安定させる)記憶へのアプローチに起因している。

■その笑顔はやさしい

これまでも僕はそれほど数は多くないにしろ、「虐待サバイバー」と言われる児童虐待からの生存者と出会ってきた。性的虐待も含む被害当事者にはやはり女性が多く潜在化しており、その事実に直面すること自体が激しいフラッシュバックや解離を呼んでしまうことから、たいていの当事者たちは静かに、静かに生活し、静かにコミュニケーションする。

虐待を語ること、見つめること、表明すること、そのこと自体が現在の自分を激しく揺さぶる。だから、どうしても「静かな生活」を志向し、アフターケアの数少ない支援者たちとは交流するもののそれほどコミュニケーションの幅は広げない。

LINEの静かなつながり、ハムスターや小鳥といった小動物とのささやかなコミュニケーション、それらが当事者たち虐待サバイバーたちの静かな生活を支える。

彼女たちの笑顔はやさしい。自信がなさそうなその笑顔は、少し微笑むことで何かを許している。その許しの笑顔にはどことなく影があり、沈黙も引きずる。暗い沈黙の中、少し笑う。言葉は少ないが、ユーモアもある。そして、不安も容赦なく表象する。

その笑顔は、虐待サバイバーの彼女たちを支える弁護士や臨床心理士たちが自然に浮かべる自信に溢れた笑顔とは対極にあり、その不安ではあるがなぜかやさしさが溢れ出ている当事者たちの雰囲気に、実は僕はすごく癒される。

勝ち組の弁護士や臨床心理士たち(もちろん好人物ばかりではあるものの)からは決して得られない独特の静けさとやさしさを、サバイバーの彼女ら彼らは僕に伝えてくれる。

■圧倒的な孤独

そのやさしさと比例するように、そこには絶対的な暗黒というか、暗さというか、闇というか、どう表現しても物足りない、独特の静かなあるものを抱えている。

その静かなあるものを陳腐な日常語に還元すると、

孤独、

ということになる。それも、ふだん華やかでエネルギッシュな生活をしている中流階層の人々からはまったく想像もできないであろう、

絶対的な孤独、

圧倒的な孤独、

ほんとうの孤独、

を僕はそこに感じてしまう。彼女ら彼らが浮かべるものすごくやさしいけれどもまったく自信のないその笑顔の奥に、そうした圧倒的なアイソレーションを感じてしまうのだ。

そのアイソレーションを暗黒にさせないために、まずは我々のような支援者が存在する。そしてやがては、支援者を離れ、不器用ではあるもののそのアイソレーションの闇を埋めてくれる人との出会いがある。幸運な人であればその出会いが虐待の連鎖を呼ぶことはなく、静かではあるものの長らく願っていた「幸福」が訪れる。

※Yahoo!ニュースからの転載

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