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改めて問い直される「特許の価値」と「契約」の意味。

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昨年、ノーベル生理学・医学賞受賞が発表された直後から、祝祭ムードを吹き飛ばすような緊張した空気が流れ続けている「オプジーボ」特許問題。

そして、昨日の朝刊には、京大・本庶佑特別教授側が開いた、小野薬品を批判する記者会見の内容が掲載された。

「京都大学の本庶佑特別教授らは10日、記者会見を開き、小野薬品工業と共同で取得したがん免疫薬「オプジーボ」に関する特許の対価について、引き上げを求めた。2006年に結んだ契約について「契約時の説明内容が不正確」と改めて同社を批判した。ただ、京大の契約に関する経験や交渉力の不足が原因となった面は否めず、産学連携を進めるうえでの課題を示した形だ。」

「本庶氏は1992年にオプジーボの開発のもととなった物質「PD-1」を発表。その後、小野薬品と製品化の交渉を始め、03年にがん治療法に関する特許を出願。06年に特許のライセンス契約をした。本庶氏は18年のノーベル生理学・医学賞を受賞した。」

「この契約について本庶氏は小野薬品との再交渉を求める考え。本庶氏は取り分について、オプジーボによる小野薬品の売り上げや他社からのライセンス収入などが1%以下になっていたことを公表。代理人弁護士は「常識的なレベルではない」と批判した。」

「本庶氏は抗がん剤として使う用途を視野にいれた特許と考えていたが、小野薬品はPD-1を作る遺伝子という狭い範囲の特許とみて契約を提示したため、料率の低い契約になったとしている。」
(日本経済新聞2019年4月11日付朝刊・第3面、強調筆者)

この記事を読めば、ほとんどの読者が「小野薬品側が、本庶教授や大学側の契約交渉経験の弱さに付け込んで、教授側に不利な内容で契約を締結したことに問題の原因がある」という印象を抱くことだろう。

だが、企業側で大学の研究者との特許の共同出願にかかわった者としては、上記のようなモノの見方はあまりに一方的すぎるように思えてならない。

「産学連携」の名の下、大学との共同研究で出てきた成果を特許にしたい、という要望が研究者サイドから出てくることは今も昔も多いし、多くの場合、出願に要するコストの多くを企業側が負担して、いわば大学の研究者のために”汗をかく”ケースがほとんどなのだが、そうやって苦労して出願し、登録までこぎつけたとしても、実際にその特許を含む開発成果が「収益」に直結するようなケースは決して多くない、というか、ほとんどない・・・*1

もちろん、機械やエレクトロニクスの世界と、上記で問題になっている薬品の世界とでは、「開発」「特許」といった同じ言葉が使われていてもだいぶ様相を異にする、というのが実態で、後者は一つの特許から大きな収益を上げることも可能な分野ではあるのだが、その一方で収益を上げられるような製品を生み出すまでの開発投資も前者とは桁違い、というのは、よく言われること。

それゆえ、「当たり」の特許&開発成果の影に、多くの生かされなかった特許と試行錯誤する過程で企業側が投じた報われない投資がある、ということも容易に想像がつく。

さらに言えば、今回問題になっているような共同出願人間の対価配分を決める契約、というのは、通常、特許の出願時に費用負担等とセットで取り交わされる。
したがって、その時点で、特許査定が下りるときにその特許が単純な物質特許になるのか、用途特許、製法特許として(あるいはそれらの要素も含むものとして)認められるのかを完全に予測することは難しいし、最終化される製品の中で、確定した特許(の権利範囲)がどの程度の比重を占めるのか、ということを予測することもほぼ不可能である*2

自分は、「オプジーボ」に至るまでの本庶教授と小野薬品の間の歴史を知っているわけではないし、問題となっている特許の権利範囲を詳細に分析して製品との対比ができるほどの知見を持っているわけでもない。ただ、当事者が協議した末に締結した契約で定められた条件には、締結当時の状況に照らしてそれを正当化する何らかの理由(少なくともハンコを押す当事者をその当時納得させた理由)が必ずあるはず、というのが自分の経験則から導かれる「一般論」である。

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