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課題があるのに規制緩和が進まないのは、モデルケースや解決策が見えないから - 「賢人論。」第86回大石佳能子氏(後編)

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大石佳能子氏(株式会社メディヴァ・代表取締役社長)へのインタビュー後編では、介護業界の未来や「働き方」について話を伺う。世界で最も速いスピードで高齢化が進む日本だが、「まだやれることはある」と力強く語る大石氏。その「こころ」を聞いてみよう。

取材・文/青山敬子 撮影/公家勇人

介護業界が「お先真っ暗」とは考えていない

みんなの介護 介護業界のマネジメントの難しさについては、中編でお話をいただきました。国内の急速な高齢化を背景に解決すべき課題が山積していますが、状況を改善できる余地はある、というお話でした。

大石 はい。難しい業界ではありますが、変えられる余地はあるんですよ。介護現場の生産性向上には規制緩和が必須ですが、政府のほうも「何が何でも法的な規制緩和はしない」と考えているわけではありません。現に、厚労省職員も「有効性があるのなら人員配置の緩和を検討しても良い」と言っています。

みんなの介護 それは、驚きですね。

大石 政府側も課題があることはわかっているんですよ。それなのに規制緩和が進まないのは、モデルケースや具体的な解決策がないからです。これまでは海外を参考にしてきましたが、いまや日本は高齢化のフロントランナーになっている。これからの介護業界をつくるために必要なのは、現場と政策をつなぐ存在なのです。

みんなの介護 それがメディヴァですね。いまや医療や介護のスタッフと利用者の間だけでなく、政府や官庁と現場のコーディネーター的な役割も務められています。

大石 はい。メディヴァとは、「Medical Innovation and Value-Added(医療分野における「革新」と「価値創造」)」の頭文字から名付けました。「革新を。新しい創造を。」ということです。

メディヴァの設立のきっかけは、医療の現状に対する問題意識があったからですが、そのためには患者さんの視点に立つと同時に、効率の良い病院経営も不可欠です。

つまり患者さんの視点に立つというのは、「一方的に患者さんの言い分を聞く」ことではなく、「より良い医療を受けたい」という患者さんの思いと、「より良い医療を提供したい」という医療者の思いの共通の「解」を探っていくことが、メディヴァのミッションなのです。

今は範囲を少し広げて、現場と政策の間でそのミッションを果たそうとしているわけです。

みんなの介護 メディヴァの取り組みを見ていると、どれも地道なものであったことが伺えます。

大石 課題が多くても、諦めずに少しずつ進めてきました。何も、最初からホームランを打てなくても良いんです。まずは一塁に出る。その後は盗塁でもいいから二塁に進む。そうやって点を稼いでいけば良いと、私は思います。

ある程度の閾値を超えれば、急に良い方向に替わることもあります。たとえば2018年に資生堂の魚谷雅彦社長が過去最高の利益を更新したことが話題になりました。

みんなの介護 大石さんは資生堂の社外取締役も務められていますね。外部から就任した魚谷社長は「プロ経営者」として手腕を評価された方で、社内の構造改革を断行されました。

大石 そうですね。元々、魚谷社長は化粧品のビジネスに携わったことのない人です。前例にとらわれずに多様性を重視し、改革を進めたことで、就任から4年で結果を出されています。権限の委譲によるボトムアップ型の経営組織に替えたことなどが奏功したと言われています。

医療や介護の業界も、新しいモデルケースを模索して改革する余地はあると思いますよ。

医療の現場でも「働き方」の変革が求められている

みんなの介護 2018年から2019年にかけて東京医科大学など複数の大学が女性や二浪以上の受験生に対して不正な得点操作で不合格としていたことが発覚しています。この不正入試問題の背景には、女性医師の離職率の高さがあると言われていますが、大石さんはどのようにお考えでしょうか。

大石 そうですね、私はこの問題は女性だけのものではないと考えています。そもそも、医療業界全体の働き方に問題があるのです。

たしかに、女性医師の離職率を抑えるための施策は必要だと思います。医師は高給であるために保育園に受け入れてもらうことが難しい。子育てを理由に離職せざるを得ない女医もいますから、まずは子育てと仕事を両立できるように支援することが求められます。

しかし、「医療業界が必要とする場所に医師が確保できない」状況は、女性に限らず男性にも起こっています。男性も激務が原因で病院を退職して個人で開業することも多いです。こうして病院にとって必要な人材が離れてしまうんですね。

みんなの介護 勤務医のオーバーワークも問題になっていますね。

大石 そもそも、都心部でも地方でも病院が多すぎて集約されていないために、各病院の人手が足りないという構造的な問題があります。また、院内会議や書類作成などに医師たちが多くの時間を取られています。

みんなの介護 たしかに、事務的な書類の作成や検査内容の説明などは、医師でなくてもできる仕事という指摘もありますね。

大石 はい。こうした課題は、今後はテクノロジーが活用されれば改善できると思いますよ。前回申し上げた介護現場の話と同じですが、医師が医師本来の仕事を全うできる環境を整備することが第一です。

また、ICTを使えば、レントゲン写真の読影などは病院にいなくてもできます。このようにテクノロジーを駆使して通勤せずとも自宅でできることを増やせば、医師の働き方も変わるのではないでしょうか。

一方、AI(Artificial Intelligence、人工知能)が発達することで、医師に求められるスキルも変化していくと思われます。おそらく、最も重要になるのはコミュニケーション能力でしょうね。そうなったとき、現場のニーズと医師を目指す人の間でミスマッチが起きないように考えなくてはいけません。

現在、医師は理系の職業です。それが、コミュニケーション能力を重視されるようになれば、文系の職業になるかもしれませんね。

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