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介護業界はマネジメントの難しい業界。でも、マネジメントで改善できる余地もまだ十分あります - 「賢人論。」第86回大石佳能子氏(中編)

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医療・介護業界のコンサルティングを牽引する株式会社メディヴァ。代表取締役社長である大石佳能子氏に、業界の課題や今後についてじっくりと伺う。中編では、介護のビジネス的な難しさや、マネジメントのあり方について聞いてみた。

取材・文/青山敬子 撮影/公家勇人

介護という業界の「難しさ」

みんなの介護 最近は、「老人福祉・介護事業」の倒産の増加が問題になっています。東京商工リサーチの調査によりますと、2018年は7年ぶりに前年を下回りましたが、事業者の倒産件数は過去3番目に多く、高止まりの状態が続いています。この状況を解決するためのアイデアはありますか?

大石 もともと介護ビジネスは、マネジメントが難しい業界だと思います。介護は「目の前にいる人」だけに対するサービスなので、スケールすることが難しい。また、供給するのも人ですから、サービスを均質に保つことができません。このあたりが、ものづくりと大きく異なる点です。

労働力不足も以前から指摘されていて、人材確保のために報酬を上げてしまうと経営に影響が出てしまいますね。

何より、関連法律などの改正によって、サービスの内容や経営方針を変えざるを得なくなることもあります。いわゆる「制度リスク」ですね。これまでも、改定によって介護報酬が下げられることもありました。

みんなの介護 ほかと比べてもかなり難しい業界なんですね。

大石 はい。一方で、いくつかの問題はきちんとマネジメントすることで、クリアできるものもありますよ。メディヴァも既存の介護事業者にコンサルタントとして入って、経営改善のお手伝いをしています。

現在の介護業界では、マネジメントのニーズと能力のミスマッチが発生しているのだと思います。マネジメント能力のある大手企業であれば上手く経営できる可能性もありますが、大きな利益が期待できる産業ではないですから、なかなか参入しにくい。それに、その人たちが利益追求型になってしまうと、本来の介護のあり方と離れていってしまうかもしれません。

求められるのは、ちょうど良いマネジメント能力を持ちながらも利益を追求しすぎない、「欲張りじゃない」事業者と言えます。多くの人を雇う必要のない小規模事業所か、あるいは管理・監督をきっちりするという前提で大規模に集約していくかのどちらかになるでしょう。

ICTを上手く活用すれば人手不足は解決できる

みんなの介護 マネジメントによって改善できることは、ほかにありますか?

大石 介護業界が抱える課題のうち、人手不足はテクノロジーでカバーできる部分も増えてきていますよ。ICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)やロボットを上手く使えば、人手が足りなくても現場が回るように生産性を上げることが可能なのです。

みんなの介護 ICTの活用は2018年度の改正でも大きく打ち出されましたね。どのように活用しているのか、具体的に教えてもらえますか?

大石 「人手不足に悩む介護現場の働き方改革」を掲げて2016年4月に国家戦略特区に認定された北九州市と協働して、介護の現場にさまざまなテクノロジーを試験的に導入しています。

介護の現場での見守りや移乗支援など11種類・119台のロボットを採用したのですが、職員からは「見守りの回数が減った」とか「介助が楽になった」などの声もあるそうです。

ICTを活用して作業効率を上げれば、「利用者2人:介護職員1人」ではなく「3.2人:1人」でも同じサービスの質を担保することができます。そのためには人員配置基準の規制を緩和する必要があるのですが、それが可能になれば約34万人といわれる労働力不足は解消されるんですよ。

みんなの介護 かなり画期的ですね。しかし、実際にはICTやロボットの導入が上手くいっていない現実があるようです。

大石 もちろん、やみくもな機械化は現場が混乱するので論外です。求められるのは、必要十分程度の機能を持つ「ちょうど良い」ICTやロボットでしょう。

特に見守りと記録については機械化が有効だと思いますね。労働時間のかなりの割合を占めている記録と申し送りの時間を機械化で短縮すれば、作業効率はアップしますから。

みんなの介護 夜間にセンサーで見守りをする取り組みは、国内外で始まっていますね。

大石 そうですね。たとえばオランダでは夜勤帯はセンサーを使うことによって50人の高齢者を1人の介護職員が見守っています。

日本では、夜勤帯でもだいたい15人を1人が見守っているので、生産性に3倍の差がある計算になります。

みんなの介護 北九州市やオランダのような事例が増えれば、人手不足解消に向けて大きく前進しそうです。そのために規制緩和が求められるんですね。

大石 あくまで、きちんとICTの使い所を理解してシフトを管理できる担当者がいればということですが、看護師と夜間の配置基準などは規制を緩和してもいいと思います。

このように介護業界でも機械化や規制緩和などを進めていけば、改善の余地はまだまだありますね。

既に、外国人人材の奪い合いが始まっている

みんなの介護 先ほどの機械化のお話は非常に画期的だと思いますが、現状はまだそこまで追いついていないようですね。政府は入管法を改正して、外国人人材を確保することも急務と考えているようです。

大石 インドネシアやフィリピン、ベトナムからの「外国人看護師・介護福祉士候補者」の受け入れが始まりましたが、外国人人材の確保についても課題は多いです。

実は、国際競争力から見ると日本はかなり出遅れているんです。高齢化が進んでいるのは日本だけではありませんから、世界中で介護職員の奪い合いが起きています。だから、英語を話せるフィリピンの労働者などは、英語圏であるシンガポールや報酬のいい中東に行ってしまうのです。言葉の問題もありますし、よほど日本が好きな人でないと来てくれないでしょうね。

みんなの介護 日本国内だけを見ていると、なかなか気づけない問題ですね。

大石 ええ。それに、日本中で人手不足が問題になっていますから、国内でもほかの業界と競争しなくてはりません。

来日する技能実習生は多くが農村の出身です。農業の技能実習であれば田舎に住むことになるので生活コストは安く済みますよね。ところが介護となると、ある程度の都市部での実習になり、生活コストが高くなってしまうのです。そういうこともあり、国内でも介護業界の競争力は低いんです。

みんなの介護 なんだか先が思いやられますね。メディヴァも、内閣官房健康・医療戦略室の「『アジア健康構想』実現に向けた自立支援に資する介護事業のアジア国際展開等に関する調査」を受託し、調査活動をされているようですが、外国人人材の確保について妙案はありますか?

大石 あると思いますね。日本政府は2018年7月にベトナム政府と介護人材の受け入れ拡大で合意していますが、現在はさらにほかの国にも注目しています。私も、調査のためにラオスに視察に行ってきました。

JICA(国際協力機構)や大使館にも正確な数字はないのですが、ラオスの病院は基本的には国立で、医師、看護師は公務員となります。

大学や短大、専門学校などで看護を勉強した毎年500〜800人ほどの卒業生のうち就職できるのはわずかで、かなりの人数が就職できず、次に採用されるのを待っているそうです。この人たちが日本に来てくれたらと思います。

ただ、せっかく日本に来て働いても、幸せでなければ次の人材が来ません。今は労働条件が悪いと、すぐに世界中にSNSで拡散されてしまうので、増やすだけではなく、離職しない環境の整備が大事ですね。

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