- 2019年04月12日 15:50
若者は旅をせよ! 私が学生に「異郷研修」を勧めるワケ - 上昌広
2/2東大合格者が少ない大阪
では、逆に東大合格者が少ない地域はどこだろう。図4をご覧頂きたい。低い順に沖縄、島根、青森、大阪、滋賀、福島、佐賀、山形となる。
注目すべきは、教育先進県とされる大阪からの進学者が少ないことだ。兵庫や奈良の進学校に通う生徒もいるのだろうが、それを考慮しても少ない。近畿の約4割の人口を抱える大阪の東大進学率が低いため、近畿全体の比率も上がらない。
大阪人の東京への対抗意識が「東大嫌い」を招いているのだろうか。少なくとも、大阪に限っては「優秀な生徒が東大に行く」ということにはなっていない。
この現象は、この地の活性化に少なからぬ影響を与えているのではないかと思う。優秀な高校生が地元の大阪大学や京都大学に進むためか、この地域からノーベル賞に代表される様々な成果が出ている。
図5は、大学病院の臨床研究のアクティビティを比較したものだ。2009年1月から2012年1月までの間に、大学病院に所属する医師100人当たりが発表した臨床論文の数を示している。この調査は、当時東大医学部5年生であった伊藤祐樹君が行った。
米国立医学図書館のデータベースを用いて、「Core Clinical Journal」(医学分野で重要性の高い雑誌)に掲載された論文数を調べた。
上位陣には京都大、名古屋大、大阪大など西日本の大学が名を連ねる。もっとも多額の税金を投入されている東京大学の順位は5位だ。このような西日本の大学に多くの学生を送り出しているのが、他ならぬ大阪だ。
「東北大」「東大」ともに少ない福島
東大進学者の少ない地域を示した図4についてもう1つ注目すべきは、東北からの進学者が少ないことだ。特に福島からの進学者が少ない。
ちなみに福島は東北大学への進学者も少ない。18歳人口1万人当たりの東北大学合格者数は、東北で最低だ。多い順に宮城152名、岩手88名、青森71名、秋田62名、山形45名、福島18名となる。
福島は教育後進県と言っていい。明治維新以来、教育面で差別を受けてきたからだ。いまも影響は残る。
例えば、医学部を擁する国立大学がないのは、全国で和歌山、奈良、神奈川、埼玉、栃木、福島、岩手の7県である。いずれも徳川家と縁がある地域で、戊辰戦争では佐幕派だったところが多い。
幕末、蘭学の中心は医学だった。多くの藩が藩校を設け、蘭学を取り入れた。戊辰戦争で勝利した西日本では藩校が母体となって、現在の高等教育機関ができあがった。一方で敗れた幕府側は藩校が取り壊され、専門家は雲散霧消した。このような地域で医学部ができるのは、高度成長期の「一県一医大政策」まで待たねばならない。
東京電力福島第1原子力発電所の事故で、福島は甚大な被害を蒙った。この地を復興させるには、公共事業だけでなく、長期的な視点に立った教育が必要だが、このような意見はほとんど出てこない。
「京大」「阪大」「名古屋大」に「早慶」も
話を戻そう。
村山君に東大の次に調べて貰ったのは、京都大学と大阪大学だった。その結果を図6、図7に示す。京都大学の学生の出身地は京都を中心に同心円状に広がり、大阪大学は近畿と北陸、中国地方からの進学率が高いことがわかる。
入学者に占める近畿出身者の割合は、京都大学が50%、大阪大学が62%である。京都大学がやや低いのは中部地方からの入学者が多いためで、近畿と中部をあわせると67%となる。東大と同じく6割程度の学生が地元出身という「ローカル色が強い大学」ということになる。
東大との違いは、東大にとっての兵庫、奈良、富山のような、遠く離れていながら京大や阪大を目指す地方がないことだ。
名古屋大、九州大も状況は変わらない。18歳人口1万人当たりの名古屋大学と九州大学の合格者数を図8と図9に示す。名古屋大学の中部地方出身者は49%、九州大学の九州出身者は69%である。名古屋大の地元出身者率が比較的低いのは近畿からの入学者が多いためで、近畿と中部を足すと90%となる。同じく、九大も中国地方と四国をあわせると86%となる。
では、私学の雄である早慶はどうだろう。それぞれの合格者の分布を図10、図11に示す。いずれも関東から九州にかけて合格者が分布し、東北からの合格者が少ない。合格者に占める関東の割合は早慶ともに78%だ。次いで中部地方が多く、早大は9%、慶大は8%だ。近畿以西の西日本出身者は、早大が11%、慶大が12%に過ぎない。
早慶とも野球部やラグビー部などで西日本の高校出身者が活躍しているため、「全国区」のイメージがあるが、実態は関東のローカル色が強い。
このように、東京の名門大学である東京大学や早慶の入学者には圧倒的に関東出身者が多いというのは、皆さんの予想と大きく異なるのではないだろうか。村山君も「自分の予想と全く違いました」と言う。
東大や早慶がこの状況だから、他の私立大学も推して知るべしと言える。少なくとも、今回集計したデータを分析した限りにおいてはそう解釈できるのではないか。
結局、東京の大学と言えども、地方の大学同様、その地域の人間が多い「関東のローカル大学」なのである。同じ地域に生まれ、同じような仲間に囲まれて育つ、極めて同質的な集団になりやすい環境下にあるのだ。
定員制限より「異文化」交流を
様々な統計データによれば、2040年には、国民1人当たりのGDP(国内総生産)で、中国と日本がほぼ並ぶと見られている。GDPを見れば、中国は日本の10倍だ。その頃の日本と中国の関係は、現在の青森と東京に似てくるのではないかと私は危惧している。
その頃には、少なくとも経済的な面での日本の中心は、中国の影響を受けて、西日本にシフトしているのではないか。実際、那覇や福岡、さらに京都、大阪を訪問すれば、いまでもそれを実感できる。たとえば地価の上がり具合を見ても、すでに東京よりも沖縄などの方が上昇率は高くなっている。西日本各地での上がり具合は、それだけ期待値の高さの表れとも見てとれる。
冒頭にご紹介した、東京23区の大学定員を制限するなど時代錯誤の規制をするのではなく、関東の高校生に積極的に西日本の大学に進学してもらえばいい。1000年以上大陸と付き合ってきた九州をはじめとした西日本には、関東にはない文化がある。若者は異文化と交流すべきだ。我々の世代は、如何にして若者の交流を加速させるか知惠を絞るべきだ。
では、全国から学生が来ている大学とは、どこだろうか。それは、村山君が通う東北大学と北海道大学だ。いずれも地元出身者の占める割合は40%以下である。実は、両大学の置かれた状況は大きく異なる。互いの歴史を反映しているのだ。
次回は、このあたりについてご紹介したい。



