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病院で感じた小さな違和感。それが当然とされていることに大きな違和感を抱いた - 「賢人論。」第86回大石佳能子氏(前編)

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在宅医療の整備が急務であることをファクト・ベースで伝える

みんなの介護 メディヴァがコンサルティングを担当された、神奈川県横浜市青葉区の地域包括ケアシステム「あおばモデル」についてお聞かせください。

大石 世界的にも日本社会の高齢化は例を見ない速さで進んでいます。これは、たとえるなら「走り幅跳びを助走なしで飛ぶようなもの」です。

高齢化に合わせて社会のインフラも人の意識も変えなくてはなりませんが、システムや介護、医療に詳しい自治体の職員は残念ながら多くはないのです。ですから、「地域包括ケアシステムを整備せよ」と言われても、どこから取りかかっていいのかわかりません。

みんなの介護 そこで、在宅医療の整備について実績のあるメディヴァが事務局として入ったのですね。

大石 そうですね。田園都市線沿線にある用賀駅や桜新町駅で在宅医療に対応したクリニックを開設している経緯もあって、メディヴァがコンサルタントとして入りました。

青葉区は、1966年の東急電鉄の東急田園都市線の開通に伴い大きく発展しており、人口は約30万人と、横浜市内で2番目に多い街です。

みんなの介護 どちらかと言うと「若い町」のイメージです。高齢化率も2017年で20.6%と、同じ年の全国平均(27.7%)をかなり下回っていますね。

大石 そうですね。ただし、問題は高齢化率の高さよりも高齢化する速度なんです。青葉区も将来的には急速に高齢化が進むと試算されています。

以前から人気都市で、人口流入が続く一方で平均寿命が長く、2005年には男性の平均寿命が81.7歳と全国1位になったこともあります。

東急電鉄は以前から沿線住宅地の高齢化を危惧しており、2012年4月に横浜市と「次世代郊外まちづくり」の取り組みを官民共同で推進する包括協定を締結しています。これは、少子高齢化が進む大都市郊外の街の課題を行政と企業、住民などで解決していこうというもので、「あおばモデル」もその取り組みのひとつです。

みんなの介護 「あおばモデル」では、具体的にはどのようなことに取り組まれたのですか?

大石 高齢者が住み慣れた地域で自立した生活が続けられるように、まずは在宅医療の充実を目指しました。

みんなの介護 政府は高齢者医療の中心を在宅医療にする方針ですが、実際には普及していないのが現状です。

大石 そうですね。青葉区は高齢化率も高くないので、わざわざ在宅医療に参入する診療所はほとんどありませんでした。

そこで、説得力のあるデータとして死亡診断書と死亡検案書を利用しました。青葉区民の死因や死亡した場所、看取りの実態を分析することで、これまで曖昧だった「看取りの実態」を客観的に把握したのです。

たとえば2011年の場合、区内で亡くなられた1,732人のうち73.2%にあたる1,267人が病院で、13.6%にあたる235人がご自宅で亡くなられています。

このうち、死亡診断書が発行されているのは53人のみ。死亡診断書の発行が認められるのは、医師が継続して診療を行っている間に死亡した場合に限られます。そうでない場合には死亡検案書が発行されます。

すなわち、自宅で亡くなった方235人のうち、継続的な在宅診療を受けていたいわゆる「自宅看取り」の例はわずか53人、全体の7.3%という計算になります。この数字は、区の行政や医師会に大きなインパクトを与えました。

みんなの介護 自宅看取りは少ないという現実を「見える化」させれば、説得力がありますね。

大石 はい。現在の段階で看取りの体制ができていないということは、これからは看取られない高齢者がさらに増えるということです。

団塊の世代が平均寿命を迎える2040年頃の日本の年間死亡者数は約167万人に上り、年間で35万から40万人の死亡者の看取り場所がなくなると試算されています。

これから「高齢化社会」が「多死社会」へと移行する中で、看取りができる医療機関の増設は急務といえます。

現在の青葉区では、看取りまで担う在宅療養支援診療所の数が圧倒的に足りません。そこで、死亡診断書のデータを示しながら、在宅療養を支援する環境づくりの必要性を指摘したのです。

そうして危機感を共有したうえで、関係機関の連携を図れるようにしていきました。「自宅に近くて通いやすくても緊急の受け入れ態勢のない中小の病院」と、「夜間や休日の受け入れ体制があっても長期入院の可能性のある高齢者は受け入れづらい大病院」を組み合わせる形で、在宅医のバックベッド(後方支援)を確保したのです。

みんなの介護 なるほど。夜間や休日に容態が悪化したら、受け入れ態勢のある大病院にいったん入院できるんですね。

大石 そうです。それで容態が安定したら中小病院へ転院してもらい、さらに復調したら自宅へ戻っていただくのです。

みんなの介護 「あおばモデル」の今後の展望をお聞かせいただけますか?

大石 メディヴァとしては、大きく1期から3期までに分けて「あおばモデル」の構築に取り組んでいます。

1期は2012年から2016年で、各関係機関の連携と意識づけを行う期間。2期は2017年から2018年で、在宅医療の実務的な整備にあたる期間として取り組んできました。2019年からの3期は、地域の交流を促進したり、生きがいや健康づくりへの啓蒙活動、安心して暮らせる住まいの整備を、と考えております。

1期から2期にかけてインフラの整備として在宅医療の仕組みを整えたうえで、住環境の整備や生きがいの充実なども含めたプロジェクトを推進されています。

みんなの介護 実現するには多くの機関の連携が必要ですね。

大石 はい。地域包括ケアシステムは、在宅医療と介護施設だけでは成り立たちません。地域の介護予防や生活支援のサービスも必要なのです。

メディヴァはこうした医療や介護、行政の関係者に「通訳」して伝える役割も担っています。たとえば介護の予防を担う保健師さんと、現場で介護をする介護士さんでは、まるで外国のように言葉や考え方が違うのです。

みんなの介護 なるほど。立場が違えば用語も考え方も違いますね。

大石 ええ。ですから、いろいろな立場の方が連携してプロジェクトを進めるために私たちが間に入って「通訳」するんです。

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