記事

トヨタが「電話番」の採用をつづけるワケ

2/2

■自動車はどんどん飛行機に近づいている

――コネクティッドされていることによって、車の走行状態、記録がつかめるから、前もって、メンテナンスする予測ができるわけですね。だから、メンテナンス時間も短くすることができる。コネクティッドの恩恵のひとつと言えます。

【友山】はい。そして、自動運転が実現すると、コネクティッド機能はますます重要になります。車にはさらに9つのカメラ、たくさんのセンサー、複雑なアクチュエーターが付きます。同時に、自動運転車は大量のデータを収集します。そのデータを解析し、ソフトをアップデートし、またインストールしなければならない。

自動運転車の場合は、そうした大量のデータを1日に1回は抜いて、入れ替えが必要になってくる。とても、エアー(無線通信)では抜けません。鮮明な画像データを含んだ大量のデータですから。

データを抜き、車体に付設したすべてのカメラをキャリブレーションするので、そうなると、1日に1回はメンテナンスを受けなくてはならない。まさしく、ジェット機と同じです。

――すみません、キャリブレーションってどういう意味ですか?

【友山】ごめんなさい。キャリブレーションとはカメラの補正です。走っているうちにカメラってだんだんずれてくるんですよ。物理的な位置のずれもそうですし、9つのカメラの同期を合わせるのもキャリブレーションって言ってます。

――自動運転になると、普通の車でも、現在よりも確実にメンテナンスの頻度が多くなるということですね。そして、常時、コネクティッドされていなくては走ることもできない。

【友山】もちろんです。自動運転とコネクティッドっていうのはもう、切っても切れない関係です。まず、車の状態をいつも監視しなきゃいけないし、データを収集しなければなりませんから。

スマホならば、つながらないとか、フリーズしても、そのうち動くだろうという気持ちがユーザーにはあります。

しかし、自動運転は機能が止まれば乗っている人は命を失うかもしれない。複雑さ、大切さは飛行機と同じですし、1ミリ単位の制御をしなければいけないので、飛行機よりも精密かつ複雑な装置になります。

――コネクティッドに取り組んだのは、トヨタは早かった?

【友山】はい。正確にいうと2000年、現社長の豊田(章男)と一緒に、ガズーメディアサービスをつくったのが始まりでした。コンビニ用のKIOSK端末を造り、スリーエフ、ファミリーマートに設置したのがスタートですね。音楽の提供や中古車の画像が見られるようにしたのが最初の仕事だった。その後、2002年に「G‐BOOK」という名前で車とつながる機能を持ちました。

社長の豊田が、とにかくメーカーと顧客との接点をつくらなければと始めたんです。僕らは「BtoC」ビジネスって呼んでいて、Cはコンシューマーでなく、コンビニのこと。その時、BtoCの厳しさ、コネクティッドの厳しさを嫌というほど味わったんです。

たとえばKIOSK端末が壊れた。すると、店長が電話してきて、「すぐ直せ」。僕らは北海道でも沖縄でも飛んでいく。行って直す。修理に時間がかかるわけです。

すると店長が「おまえたちがガチャガチャやってる間、客が入らなかった。弁償しろ」と。僕らは謝りながら、お惣菜とか、弁当、カップ麺を買って帰る。沖縄で買ってきて、北海道で買ってきて、会社の机の上がカップ麺とお惣菜で、いっぱいになっちゃったんですよ。

それで、本当にもう、これが、お客様との接点なのかと悩んでいた時、北米にいた豊田が「車へのITサービス」というプロモーションビデオを持って帰ってきた。

車がコネクティッドされれば理想的なことができるという内容のビデオでした。

ビデオを見た時、「ああ、これだ」と。コンビニに行って、つながらない機器を修理して、お惣菜やカップ麺を買ってる場合じゃないんだ、僕らは。

KIOSK端末の事業は順調だったのですが、5年やって、あるシステム会社に譲渡しました。われわれの端末は車のなかに入れるべきだ、と。それで2003年に「Will サイファ」という、冒険的な車に初めてDCM(Data Communication Module)を積みました。ですから、コネクティッドを始めたのは世界に先駆けてだと自負しています。

■オペレーターサービスを「レクサス」に標準搭載

【友山】ただし、車載機を開発したのはいいけれど、通信速度が遅かった。またまた苦労しました。それがだんだん進化していって、2005年に日本で「レクサス」をデビューさせた時に、他の高級車と差別化するために、コネクティッドの役割のひとつであるオペレーターサービスを標準搭載したのです。

――トヨタコネクティッドは車とつながっているけれども、乗ってる人ともつながっている。そして、その象徴がオペレーターサービスだとも言えますか?

【友山】そうですね。私たちはヒューマン・コネクティッド・サービスと言っています。トヨタのコネクティッド・サービスの裏には心通う人間がいます。代表的なものがオペレーターで、各オペレーターは直接、お客様と話して、お客様の要望を実現する。

そして、心が通う人間とはオペレーターだけではありません。メンテナンスをするディーラーの人々、車の状態を常にモニターしているスタッフ、事故に遭ったら、警察に連絡したり、さらには保険の適用まで手配する保険会社の人間。乗っている方の安心を見守るのは心が通じ合う人間しかできないと思っています。

――乗っている方とすれば、欲しいのは安心安全です。近頃は「あおり運転」の問題もあるし、何かあってもいいように、見守ってほしいと思っています。

■モビリティカンパニーに変革の時

【友山】私たちの目標は究極の安心を提供すること。もともと、コネクティッドにはふたつの柱があります。

ひとつはお客様の究極の安心です。しかも、それをタイムリーに提供する。安心が欲しいのは困っている時です。つながっていれば、困っていることが何かがおおよそつかめます。ジャストイン・タイム・サービスをお客様に提供する。時々刻々変わる、お客様の状態、車の状態に合わせなければいけない。限りなくリアルのサービスを強化して、お客様にお届けする。

もうひとつは車の開発から製造、販売、アフターサービスまでの一連のビジネスの戦闘能力を上げるためのコネクティッドです。

社長の豊田はカー・カンパニーからモビリティ・カンパニーに変革すると言っています。変革するための鍵がコネクティッドなんです。新しいトヨタをつくるうえでの原動力になるもの。そういう意味ではトヨタのコネクティッドは単なる車の技術ではなく、お客さまの安心につながり、さらに、モビリティの未来につながるものです。

――一般のコネクティッドの捉え方とはずいぶん違いますね。一般にはスマートスピーカーが車内にあるというイメージの方が強いのではないでしょうか。

【友山】そうかもしれません。バーチャルの車載情報サービスだと思っている方は多いでしょう。

たとえば音声認識のAIのエージェントがいます。「ハーイ」というと答えてくれる。スマホのコンテンツが車の中でも見られます。音楽が聴けますとか……。

もちろん、そういうことも大事なんですが、私たちのコネクティッドは範囲が広く、先を見据えているというと、自慢になってしまうかな。

■一度でも使ったら、もう元に戻れない

――わかりました。では、乗ってる人にとって、いちばんコネクティッドが有効というか、あってよかったと思うのは、どういう時ですか?

【友山】それはやっぱり、その人、その人によって違うのですが、知らず知らずのうちに、コネクティッドの恩恵を受けているケースがあります。つながっていることでソフトウェアがメンテナンスされていたり、地図データが更新されていたり。

もちろん、あとはリアルなオペレーターサービスです。一度でも使った人は「もう元に戻れない」と。連絡してもらうだけでなく、例えば、車の状態の異変を感じたら、お客さまが乗ったとたんに、オペレーターが連絡する。非常に人気が高くて、人数がだんだん足りなくなってきていますね。

保険もコネクティッド専用のものを用意しました。当社とあいおいニッセイ同和損保さんとて開発した新しい形の保険。「つながる保険(トヨタつながるクルマの保険プラン)」は、非常に好評です。この保険は運転のマナーがいいと、保険料が安くなる。だいたい契約した80%以上の人が、運転マナーがよくて、割引を受けています。事故率は3割も低い。事故率が下がるっていうのは、ユーザーにとっていちばんいいことだし、保険会社にとってもいい。社会にとっても、うちにとってもいいこと。

実は国内だけでなく、シンガポールのグラブもこの保険に入っています。すると、運転マナーがよくなり、事故が減りました。グラブはこの保険のおかげで、運転品質が上がり、事故が少なくなったことで喜んでいます。

■「つながらなかったら、レクサスじゃないだろ」

――最後に、コネクティッドの、今いちばんの問題点とはどういうところでしょうか。

【友山】いちばんの問題点はつながらない時間が生まれること。

先日、電波障害があって、オペレーターサービスにつながりにくくなった日があったんです。

すると、お客様から苦情が入りました。ある方はこう言われたとのこと。

「いつも車を発進させてから、オペレーターさんと話して、カーナビに目的地を設定してもらっていたんだ。それができないじゃないか」

オペレーターとはつながるのですが、カーナビのデータが車まで届かなかったんです。

「つながらなかったら、レクサスじゃないだろ。もう、いらない。この車を返したい」

その時、本当にわかりました。つながる車がつながらなくなったら、車じゃないんだなって。

(トヨタコネクティッド社長 トヨタ副社長 友山 茂樹 文=野地秩嘉 撮影=上野英和)

あわせて読みたい

「トヨタ」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    橋下氏 コロナめぐり識者に苦言

    橋下徹

  2. 2

    安全無視? 日本の危機管理に呆れ

    ESQ

  3. 3

    クルーズ船で横浜の飲食店が悲鳴

    田中龍作

  4. 4

    3日で5倍 韓国のコロナ感染急増

    木走正水(きばしりまさみず)

  5. 5

    告発した岩田医師の行動は成功

    中村ゆきつぐ

  6. 6

    横浜発の世界一周クルーズ出港へ

    WEDGE Infinity

  7. 7

    夫の性犯罪発覚で妻が味わう屈辱

    幻冬舎plus

  8. 8

    「殺してやる」辻元議員に脅迫文

    辻元清美

  9. 9

    新型コロナが芸能界に落とす影

    渡邉裕二

  10. 10

    新型コロナ感染拡大にWHOが警告

    ロイター

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。