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「5.4.3.2.1…加速!」最大推力試験当日に奇跡は起きた - 国産戦闘機用エンジン「XF9-1」開発者インタビュー【後編】

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戦後長らくの間にわたって、一線級の戦闘機用ジェットエンジンを国産化してこなかった日本。それは日本のウィークポイントであり、もはや実現不可能とすら思われてきた。

しかし、前編でもお伝えした通り、昨年重工メーカー・IHIから防衛装備庁へ納入された国産戦闘機用ジェットエンジン「XF9-1」は、アフターバーナなしで推力11t以上、アフターバーナありで15t以上を叩き出し、アメリカのステルス戦闘機「F-22」やロシアの「Su-57」に搭載されているエンジンと肩を並べる性能を誇る。

特に、燃焼ガスの温度を表す“タービン入口温度”は1800℃以上とされ、これは間違いなく世界トップクラス。戦闘機のステルス化に対応すべく、スリムなサイズに抑えながらも大出力を実現している。日本が得意とする耐熱材料技術などが駆使された結果と言えるだろう。

そんなXF9-1の開発舞台裏や今後の発展の見通し、戦闘機用ジェットエンジンを国産で作る意味について、防衛装備庁 航空装備研究所に勤務し、エンジン技術研究部長として開発に携わってきた髙原雄児氏に伺った。 【文/しげる 編集/木下拓海】

前編はこちら→ついに完成した世界最高水準の国産戦闘機用エンジン「XF9-1」- 日本のミリタリーテクノロジー 開発者インタビュー【前編】


アフターバーナ推力15tを達成したXF9-1の最大推力確認試験映像

【お話を伺った人】防衛装備庁 航空装備研究所 エンジン技術研究部長 髙原雄児さん(現 防衛装備庁長官官房装備官)

防衛技官、工学博士。ジェットエンジンの専門家。防衛省に入省後、エンジンの研究室に勤務。防衛省の研究職は予算取りなど、研究以外にゼネラルマネージャー的な仕事も多く、途中FSX(次期支援戦闘機、現在のF-2)の開発室に3年在籍。その後BMD(弾道ミサイル防衛)の開発室長も務める。XF9-1開発の佳境であった2年前に航空装備研究所に戻り、現職に就任。XF9-1のプロジェクトマネジメントと、技術検討会議を担当。

国内全体の開発能力が上がった

——さて、今回のXF9-1は平成22年から計画がスタートして、今年で9年目になります。どのように開発を進めていったのでしょうか?

まずはエンジンの核となる難しいところから先に作っていきます。高温高圧になる“コア”の部分です。コアは高圧圧縮機、燃焼器、高圧タービンの3つのコンポーネントからなります。ですので、まずは高圧圧縮機だけ作って試験、燃焼器だけで試験、高圧タービンだけで試験という形で進めます。

いろんな材料を試したり、空気がうまく流れるかを実験しながら、3つのコンポーネントがそれぞれうまく動くかを確かめるわけです。それがうまくいったら、今度は3つをくっつけてひとつのコアにして、またそれがうまく稼働するか確かめるんです。

XF9-1の1/5模型のコア部分写真。青色の6列の羽根が高圧圧縮機、銀色上方にあるつぶれた“C”の字が燃焼器、そして赤色左列の羽根が高圧タービン。これら3つでコアを構成する。写真左側からエンジンに取り込まれた空気は、高圧圧縮機によって狭い隙間に押し込まれて燃焼器へ。燃やされたガスは膨張し、勢いよく高圧タービンに当たって羽根車のように回す。なお、高圧タービンと低圧タービン(赤色右列)の間には、回らない羽根である「ステータ」が見える。小型化、軽量化、効率化を追求するために、将来的にはこれをなくしたいと考えているそうだ。

——難関から攻めていくんですね。

そしてコア全体がちゃんと動くことがわかったら、コアの前後の部分を成長させるような形で開発を進めます。高圧圧縮機の外側にファン、もう片方は、高圧タービンの外側に低圧タービン、さらにその外側にアフターバーナ、という具合に徐々にコンポーネントをくっつけていくんです。

XF9-1の1/5模型の全体写真。中央部のコアから、ファン(青色前から3列分)や低圧タービン(赤色後列)など、両サイドを拡張していく形で開発は進められる。高圧圧縮機と高圧タービン、そしてファンと低圧タービンはそれぞれ同じ軸でつながっており、それぞれのタービンが回るとそれぞれの圧縮機とファンも連動して回転する。

——それですべてが出揃ったところで、製造メーカーであるIHIから受け取るんですね。

はい。XF9-1は去年の6月末に完成して受領しました。ただ、その段階では15tの推力が「設計上は出るだろう」という状態なんですね。本当にそれが出るかどうかまだわかりません。15t出るかどうかは防衛省のほうで責任を持ってテストするわけです。

——納品してもらったものの、カタログスペック通りの性能が出ないこともありうると?

でも技術は年々進歩してますし、例えば今から40年前のF3-1エンジンのときは「回転数が70%程度まで回れば、その先はうちで責任持ちます」、20年前のXF5-1エンジンのときは「回転数を90%以上回すことができればOK、推力はちょっと弱くても、後はこちらで面倒見ます」という感じで納品してもらっていたんです。

ところが今回はもっと高いレベルを要求しています。IHIさんの技術力も上がったし、国内全体の能力が上がったということですね。我々も設計段階でおかしいところを見破る能力が上がってきています。

防衛産業はどこもそうだと思うんですけど、車を買うときみたいに「トヨタがダメなら日産でいこう」とはいかないんです。常にメーカーとの二人三脚でお互い向上していかないといけません。

航空装備研究所で開発してきた歴代の試作エンジン。右からXF3-1、XF3-20、XF3-30、XF3-400、XF5-1(すべて実物)。いずれもIHIとともに作り上げてきた。XF3-30の量産型F3-30はT-4中等練習機(航空自衛隊のアクロバットチーム「ブルーインパルス」の飛行機)に搭載されている。

最大推力試験当日に訪れた奇跡

——そしていよいよXF9-1をテストしたわけですが、いかがでしたか?

納品されて1週間くらい経った7月9日にドライ推力(アフターバーナなし)で設計通りの11tを出したんですよ。正直、我々も驚くくらい順調でした。私の誕生日だったんで日にちもよく覚えてます(笑)。

——普通はそんなになかなかうまくいかないものなのでしょうか?

例えば、X5-1は本格的なアフターバーナ搭載エンジンとしては最初に作ったものということもあって、なかなか予定通りの推力が出なかったんですよ。

ジェットエンジンをフルパワーで回そうとすると、ものすごい回転数なのでどこかに共振点があって余計な振動が出たりするんです。その時点で一回エンジンをバラバラにして、原因を調べないといけないんですね。

——それは大変な手間ですね。

で、試験が止まる。下ろしてバラバラにするだけでも時間がかかります。そして何が違っているのかデータと比較して、原因を解決する対策を打って、それでパッと直ればいいんだけど、推力9tが10tになったけどまだ予定通りの11tにならないとか、そういうプロセスを経るわけです。

だからXF9-1もなんらかのトラブルがあるかと思ってたんです。しかし、意外とあっさりと設計値通りの推力が出ました。

IHIの瑞穂工場で試験中のXF9-1。エンジン入口のラッパ状の部品は「ベルマウス」と呼ばれるもので、試験中のエンジンに吸い込まれる空気の抵抗をできる限りなくし、エンジンそのものの能力を見極めるために取り付けられている。ちなみに現在XF9-1の実物は瑞穂工場で分解検査中。

——その後、アフターバーナありの最大推力試験をするわけですが。こちらもスムーズにいったのでしょうか?

それは8月にやりました。でもジェットエンジンって気温が高いと推力が出ないんですよ。暑いと空気の密度が低くなってしまい、推力が出にくくなるんです。

それに外気温が高いと、燃料もたくさん入れられなくなってしまうんですね。燃料を多く燃やしたら推力は上がるんですが、そもそもの空気の温度が高いとエンジンが耐えられる上限温度にすぐに達してしまう。したがって燃料を減らすしかなくなるんです。

——暑い日は設計値より推力が出せなくなってしまうんですね。

一般的にジェットエンジンとはそういうものでして、基本的には気温が15℃のときにどれだけ推力が出るかで計測します。つまり最大推力15tと言うと、“気温15℃のときに15t出せる”ということを意味します。

気温が40℃だと、例えばこれが13t程度しか出せません。しかし15℃だったら何t出ていたかで計算するので、13t程度でも「実質15t出ていました」と言えるんです。

とはいえ我々としては「本当に15t出ました!」と言いたかった。やはりインパクトが違います。……でも去年の夏って酷暑でしたよね。

——とても暑かったです。

ところが試験の予定日がちょうど台風が近づいていた日で、その日は朝だと20℃くらいまで下がったんですよ。ドンピシャのタイミングで綺麗に温度が下がってくれたおかげで、念願だった“生で15t”が達成できたんです。

これは本当にラッキーだったし嬉しかった。本当に推力って気温によって変わりますので、まさに奇跡の日でした(笑)。

アフターバーナを使って最大推力15t以上を達成したXF9-1。音速を超える速度でジェットが噴出しているため、炎の中に「ショック・ダイアモンド」と呼ばれる模様が現れている。

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