記事

「蜘蛛の巣に絡め取られた蝶。その糸が弘中弁護士の"カミソリ"で切れるかどうかだ」ゴーン容疑者のビデオを元特捜検事が分析


去年11月19日に逮捕されて以来、カルロス・ゴーン容疑者本人が初めて自身の思いを世界に訴えた。

弁護側がきのう公開した7分38秒の映像でゴーン容疑者は「全ての嫌疑について無実」「日本と日産を愛している」「今起きていることは陰謀だ」「公正な裁判を強く望む」と主張している。


この動画は逮捕の前日に録画されたものだとされており、日産の新体制を踏まえ、人名を話す部分をカット、収録時から1分20秒分ほど短くなっているという。この点について弘中惇一郎弁護士は「弁護団の意見によってカットという形で編集したものは1点だけ。“陰謀”を行った主要な方々の実名部分についてのみだ。ビデオの中で実名を列挙することは色々な法律的なリスクが伴う」と説明している。


また、動画には日本語の字幕があるものとないものの2パターンが存在するが、例えば「I’ve been the fiercest defender」(私こそがこれまでの日産の独立性を最も強力に守ってきた)というような強いニュアンスが日本語字幕版では柔らかい表現にされていた。また、リーダーシップについて“「They don’t know what leadership is about」(リーダーシップの何たるかがまるで分かっていない)という表現は字幕が無いため、英語が分かる人とそうでない人では、映像で受ける印象がかなり違うというのだ。


ゴーン容疑者を取材したこともある経済ジャーナリストの井上久男氏は「検察と組んで私を捕まえたのも西川現社長の陰謀だということ、そして"業績が低下していることを心配している"と問題への対処の仕方について言及しているのも、それこそ西川現社長の指揮に問題があることを言いたかったのだろう。しかし西川氏側から逆襲される可能性もあるので弁護団が切ったのではと考える。字幕についても西川氏への批判だろうが、反感を買わないために配慮し、日本人の一部を味方につけたいと考えたのではないか」と話す。


また、元東京地検特捜部検事の高井康行弁護士は「弘中弁護士がおっしゃっていたが、名誉棄損で逆に訴えられたり、さらに言い方によっては裁判で証人になる可能性のある人に圧力をかけることになるとして、検察官の方から"逆ねじ"を食らわされたりする可能性もある。そうした法的リスクがあることは確かだ」と指摘。

「ただ、"前フリ"のように"出すぞ、出すぞ"という雰囲気を出していたので皆さんも期待していたかもしれないが、肩透かしといという感じだ。全体の内容がちぐはぐしている感じを受ける。具体的な事実が何もないのに、なぜこの時期にこの動画を公表したのか全く理解できない。すでに起訴されている事件の裁判および現在進行中の捜査には何の影響も与えないと思う」と話す。


「"日産を愛している"という発言は、"日産に損害を与えるようなことをするわけないじゃないか。特別背任の動機がない"と、事件の中身について婉曲的に触れているともいえるし、"公正な裁判を受けたい"というのも、自分に有利にしようという思惑があると思う。ただ、日本を愛しているというのはおそらく本心で、異邦人だから差別されているんじゃないかという思いがあるのだろうし、日本の裁判は公正なのかと不安を抱いているのも本心だろう。その気持ちは分かる気がする」。

また、動画の冒頭、ゴーン容疑者は「もし、皆さんがこの動画を通じて私の話をお聞きいただいているとすれば、それは私が4月11日に予定していた記者会見を開くことができなかったということになる。この場で4月11日にお伝えしたかった私のメッセージのエッセンスを皆さんにお伝えするとともに、皆さんが抱いている多くの質問にお答えしたいと思う」と語っている。


ゴーン容疑者の再逮捕が会見実施を表明した直後のことだったことから、検察に"会見阻止"の意図があったのではないかとの見方もある。

しかし高井弁護士はこれを強く否定する。「一部マスコミが"立件へ"と打った日の午後2時に"会見をします"とTweetしているので、自分が逮捕されることを分かった上で4月11日という"遠い"日程を設定している。これは"会見潰しだ"という批判が出ることを予想した検察が逮捕を控えてくれるかもしれないという希望的観測によるものだろう。

もしそれがうまくいかなくても、逮捕の不当性を主張することができる。やや姑息ではあるが、そういう材料として使えることを踏まえて決めたのだろう。ただ、あれだけはっきりマスコミに報じられてしまうと検察としても動かざるを得なくなるし、弁護人としても"来る"と予測するはずだ。だから寝込みを襲われるかもしれないという可能性も踏まえ、様々な手を打っておかなければならなかった。ところが強制捜査を受けたときの様子を見ると、まるで想定していないような様子だった。例えば奥さんに関しては弁護人がホテルに泊まることを勧めるなどしているはずで、捜索の現場に居合わせるというようなことは起きない」。


その上で「仮に記者会見ができたとしても、動画に出てきた程度の話しかしなかっただろう。やはりゴーン氏は特捜部の"蜘蛛の巣"にひっかかった蝶々のような状態で、もがけばもがくほど糸が絡みついてきてどうしようもなくなる。こういうときはじっとして、法廷で糸を絶つ一撃を放つか、きれいに解きほぐすことをしなければ逃れられない。その意味で、今はちょっともがきすぎという感じがする。弘中弁護士の"カミソリ"で蜘蛛の糸が切れるかどうかだ。当然検察側証人、特に日産側から出てくる証人の反対尋問でその証言の信用性を崩せるかどうかというところが勝負の分かれ目になる。

弁護団にも、ゴーン氏側にも周到な準備が必要となる。ただ、考えなくてはならないのは、金融商品取引法違反であることを日産は認めているが、グレッグ・ケリー氏、ゴーン氏は否認しているということ。今後の裁判の進め方によっては、ゴーン氏側から見れば有罪ありきの審理、判決だったのではないかと言われる可能性がある。日産の方の裁判はあっという間に有罪判決が出るだろうが、その判決を出した裁判官がゴーン氏とケリー氏の審理を担当し、有罪判決を出したとするとどうなるか。プロの裁判官は心証を引き継いではいけないことになっているし、法廷に出てくる証拠が違うんだから、同じ裁判官でも本来は違う判断になるはずだ。

それでも被告人や海外の人からすれば、"日産を有罪にした裁判官なんだから、無罪にするわけないだろう。だからこんなものは有罪ありきだったんだ"と考える可能性もある。だからその様に思われないような手続きを考えなければならない。そういう意味では、弁護団が裁判体を分離してくれという要望を出したことには一理も二理もある」と話した。


ゴーン容疑者の再逮捕に居合わせた妻のキャロル・ゴーン夫人はフランス出国後、ラジオ番組で「夫は戦う人だ。最後まで自分を守るだろう。なぜなら彼は無罪だからだ。彼は辛い状況にある。だから日本に帰る」と話し、夫の無罪を訴えた。今後、事件はどんな展開を見せるのだろうか。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)

▶放送済み『AbemaPrime』は期間限定で無料配信中

あわせて読みたい

「カルロス・ゴーン」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    アダルト分野で素顔を晒す是非

    工藤まおり

  2. 2

    吉本芸人は謝罪文をこう書くべき

    永江一石

  3. 3

    彼女の生理日を知りたい男性9割

    工藤まおり

  4. 4

    よしのり氏「小室家は被害者」

    小林よしのり

  5. 5

    徴用工問題避けたい文政権の本音

    文春オンライン

  6. 6

    闇営業横行を断罪できぬ芸人たち

    たかまつなな

  7. 7

    銀行員のジーパン勤務OKに大賛成

    川北英隆

  8. 8

    殺人恐れひきこもり 男性の復活

    不登校新聞

  9. 9

    宗男氏 枝野氏の趣旨弁明に苦言

    鈴木宗男

  10. 10

    よしのり氏「安保破棄してくれ」

    小林よしのり

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。