きょうだい自身が、ハードルを上げちゃっている?
山下 聞いていて思ったのが、恋愛に限らずですが、カミングアウトって早くした方が、人間関係が円滑にいくような気がするかなって思うんですけど、どうですか?
藤木 私は、友達段階とか自己紹介とかで、早く言っちゃった方がいいと思います。でも、付き合っている途中でカミングアウトして結婚した、っていう体験談もたくさん聞きます。
持田 私の場合は、兄に障害があることを気にし過ぎてしまっていたように思います。友達関係でも恋愛でも結婚でも、もしかしたら相手から受け入れてもらえないかもしれないとか、もしかしたら「重たい」と言われてしまうかもしれないとか、自分で悪い方悪い方に考えて過ぎてしまっていて。
でも実際に話すと、「あ、そうなんだ」とか、すごく普通に素直に受け入れてもらえたこともありました。もちろんその逆も確かにあったんですけども……。でも、いろんな場面で、自分は悪い方向に考え過ぎていた、と思いますね。
山下 確かにきょうだいって、自分たちが「特別な存在」って思ってしまっていて、相手との壁を、向こうが作っているというより、こっちが作っちゃっている、っていうところがありますよね。人間関係のハードルを、こっちが上げちゃっているんですよね。
持田 意外とハードルは低くて、ポンって飛んで向こう側に行けるのに、自分で「ハードルが高い」とか「壁が厚い」とか思い込んでいる、っていうところがありますよね。
山下 そうそう、わかります。それはありますよね。
太田 持田さんのおっしゃる通り、きょうだいはいろんな場面で悪い方に考え過ぎているんだと思います。お付き合いした方から弟について嫌なことを言われたことは、一度もないですし。
「ハードルが高い」と思っているきょうだいも多いと思うんですが、考えているほど気にしなくてもいいのかもしれません。思い切って、じつは意外と低いハードルを飛ぼうとしてもいいと思います。ただ、幼い頃に、友達にからかわれたりしたことをずっと引きずってしまって、ハードルを高くしてしまっている面はありますよね……。
藤木 きょうだいの自分を受け入れてくれる人と付き合った方がいい、結婚した方がいい、と思うようになっていたんで、私の場合は、ハードルを飛ばないでくぐった(笑)、っていう感じですかね。
結婚の決断は、自分と本気で向き合う機会
山下 結婚してから、考え方とか変わりましたか?
持田 一番は苗字が変わって、自分に対する見方が変わりました。旧姓のときには、「家族のケアをしている私」という部分がどうしてもあったんですが、結婚して「持田」という苗字になった瞬間に、「あ、ここから自分の人生が始まる!」って強く思いました。
藤木 じつは「藤木」は旧姓なんです。仕事やきょうだいとしての自分は「藤木」なんですが、私も別の苗字に変わって、新しい自分になったようでうれしかったです。
結婚するまでの「結婚したい」、「東大に入りたい」、「弁護士になりたい」って願望は、ある意味、世間から「合格って言われたい」、「認められたい」、「ブランドがほしい」って気持ちで、社会のものさしで生きていたと思います。
でも結婚してからは、自由に、自分のものさしで生きたいな、って思うようになれたんです。結婚のイベントで言うのもなんですが、皆さんにも「結婚いいよ、幸せ、ハッピーだよ」みたいなことを言いたいんじゃなくって。やっぱり、社会のものさしじゃなくて、自分のものさしで、自分が求める幸せを貪欲に追い求めていくのが、いいんじゃないかなって思います。
山下 苗字が変わって考え方が変わったっていう女性2人に対して、男性の太田さんは苗字は変わってないですよね? その場合はどうですか?
太田 そうですね、子どもが幼稚園に通うようになったとき、子どもの名札を見て、結婚したことを強く実感しました。
あと、結婚に向かうときの話になるんですが、男性がやっぱり勇気を出して、女性にアプローチというか、エスコートをしてほしいって思うんですね。私も、プロポーズするとき、ものすごく勇気が必要だったんです。福岡の繁華街の天神に婚約指輪を買いに行って、店を2周ぐらいしましたからね(笑)。買うか買わないか、フラれたら質屋に出そうか、なんて考えていたんです(笑)。
けれど、女性からなかなか「結婚しよう」とは言えないと思うんで、きょうだいっていうこともありますけど、結婚を考えている男性には、一生分の勇気を振り絞って、チャレンジしていただけたらって思います。
藤木 九州男児ですね(笑)。ちなみに、うちの場合は、私の方が積極的でした(笑)。
持田 もう1つ結婚して思ったことがあるんですけど、きょうだいには、家族のことを自分で責任を持って判断しなきゃいけない、っていう特徴があると思うんです。その中で、異性の男性のパートナーから、第三者の目線でいろんなことを言ってもらえたことで、気づかされたことが私は多かったです。
「ケアしすぎているよ」とか「気にし過ぎだよ」とか「そこまでやらなくてもいいんじゃない」とか、旦那さんから言ってもらうと、納得できたり行動が変わったりして、自分の固まっていた考え方が少しずつゆるんでいきました。なので、旦那さんは、とても心強い存在です。
太田 妻が結婚するときに、親友から「どうなの?」って心配されたみたいなんです。ただ、妻は、「障害のある弟のことも含めて、私の家族のことが好きだ、嫁いでもいい」って言ってくれたみたいです。やっぱり、相手のことを好きかどうかが、一番大事ですよね。
結婚が、人生の選択肢の1つであってほしい
2015年の国勢調査によると、男性の23%、女性の14%が、50歳までに一度も結婚したことがありません。結婚したくないと考える人や、経済的な理由などによって結婚が困難な人が増える中、結婚しないという人生も自然になりました。
ただ、本当は結婚願望があったり、結婚したい相手がいたりするのに、自分がきょうだいであるという理由だけで、無条件に、結婚しないという人生を選ぶことは避けてほしい――。それが、登壇者と司会者の4人の思いです。
ある参加者の方は、「今は健康だったとしても、いずれ年を取ると、誰でも、障害を持ったり、介護が必要になったり、病気になったりする可能性がある」と話されました。ならば、自分と相手が進みたい未来を、まずは2人で、じっくりと話し合ってみるのがいいんじゃないでしょうか。たとえその結果がどうなったとしても、新たな人生を切りひらくきっかけにはなるのですから。

きょうだいの私結婚どうする? 参加レポート~きょうだいの結婚へのハードルは、案外高くないかもしれない~(Sibkoto障害者のきょうだいのためのサイト特集記事)
https://sibkoto.org/articles/detail/7
山下のぞみ(やました・のぞみ)司会
障がい者のきょうだいの会ファーストペンギン代表、社会福祉士
障害者支援施設に勤務する傍ら、20代・30代を中心とするきょうだいが集まる場として、2015年に障がい者のきょうだいの会ファーストペンギンを設立。これまでに100人以上が参加。7歳上のアルコール依存症と精神障害の兄、4歳上の知的障害の姉を持つ。
太田信介(おおた・しんすけ)
絵届け問屋「kousuke」代表
2012年に15年間勤務した会社を退職して起業。7歳下の中度の知的障害と自閉症の弟で画家の太田宏介の作品を中心とした、絵画展企画・絵画レンタル・デザイン提供などの事業を福岡県を中心に展開。福岡きょうだい会副会長も務める。
藤木和子(ふじき・かずこ)
法律事務所シブリング 代表弁護士
2012年弁護士登録。2018年8月に独立。事務所名の「シブリング」は、英語で兄弟姉妹を意味する。聴覚障害と手話、家族関係を専門とする。本業の傍ら、全国障害者とともに歩む兄弟姉妹の会、障がい者のきょうだいの会ファーストペンギン、障害者のきょうだいのためのサイト「Sibkoto」、聴覚障害があるきょうだいをもつSODAソーダの会などの運営に携わる。大学の非常勤講師や研修・講演活動も行っている。3歳下に聴覚障害の弟を持つ。
持田恭子(もちだ・きょうこ)
ケアラーアクションネットワーク代表
1996年にダウン症児者の兄弟姉妹ネットワークを開設した、きょうだい支援のパイオニア。自分より家族のケアを優先している親やきょうだいを支える団体として、2013年にケアラーアクションネットワークを設立。これまでに500以上が参加。ヤングケアラー研究会、障害者のきょうだいのためのサイト「Sibkoto」の運営にも携わる。2018年12月にEテレの「バリバラ」で「“きょうだい”の悩み」が特集された際、きょうだい支援の専門家として出演。研修・講演活動も行っている。2歳上に中度の知的障害とダウン症の兄を持つ。
主催:
障害者のきょうだいの会ファーストペンギン
https://sibkoto.org/posts/detail/237
共催:
ケアラーアクションネットワーク
https://canjpn.jimdo.com
福岡きょうだいの会
https://www.facebook.com/fukuoka.sib
聴覚障害のきょうだいをもつSODAソーダの会
https://sibkoto.org/posts/detail/15
協力:
ぜんち共済株式会社
https://www.z-kyosai.com
全国障害者とともに歩む兄弟姉妹の会
http://www.normanet.ne.jp/~kyodai
Sibkoto障害者のきょうだいのためのサイト
https://sibkoto.org