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なぜメディアは常に"健康不安"をあおるか

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食品安全や健康情報をメディアが取り上げるとき、たいていは「安全といわれても、安心できない」という素人の不安を煽る論調になりがちだ。「食生活ジャーナリストの会」代表の小島正美氏は「『安心できない』という素朴な声は無視できない。科学的な『安全』だけでなく、感情的な『安心』を意識していく必要がある」と説く――。

※本稿は小島正美『メディア・バイアスの正体を明かす』(エネルギーフォーラム新書)の一部を抜粋・再編集したものです。

「感情で動く市民」が主役の今の社会では、市民の不安に寄り添うニュースが良しとされる(写真はイメージです/写真=PIXTA)

世の中は主観的な「安心」感情で動く

世の中を動かす力の源は何だろうかと、私はいつも考えてきた。記者たちが記事を書くときのスタンスに、それは現れる。

まず、つくづく感じるのは、世の中は科学者が考えるような概念での「安全かどうか」という機軸では動かず、市民がその安全をどう思うかで動くということだ。それを象徴的に表すのが、もはや定着した「安全・安心」という言葉である。これは裏から見ると、市民の感情が世の中を動かすというコンセプトである。

では、安全と安心のどちらを、メディアの記者たちは重視するのだろうか。いうまでもなくその両方を満足させることが理想だが、現実にはなかなか難しい。政府がどんな問題を解決するにせよ、また科学的なリスクコミュニケーションを行うにせよ、この「安全・安心」問題は避けて通れない。そういう中で、最近、私は「安心」をもっと意識してコミュニケーションを行うほうがよいのではと思うようになってきた。なぜか。

安全と安心は全く別物であると言われるが、本当にそうだろうか。どの程度まで「安全」かは、動物実験やヒトの疫学調査などで科学的に説明できる。これに対し、人の感情に左右される主観的な「安心」は人それぞれであり、客観的な指標を得意とする科学の概念にはなじまない。科学が解き明かせるのは安全のほうである――。これがおおかたの専門家の見解だろう。

しかし、よくよく考えてみると、それは科学者たちが一定のきまりに従って同意した概念に過ぎない。その科学者たちが決めた結果に対して、多数の市民があまねく同意したものではない。

いまの社会は「感情で動く市民」が主役である。圧倒的多数の専門家がいくら安全だと主張しても、多数の市民が「不安だ」「安心できない」と叫べば、行政機関や民間企業はそれなりの対応を取らざるを得なくなる。「無添加」をうたった商品が後を絶たないのは、民間の食品企業が安全よりも安心を重視している表れのひとつだろう。

一方、メディアは安全と安心のどちらを重視しているのだろうか。予想される通り、市民の感情や弱者の気持ちを大切にするメディアは、「安全といわれても、安心できない」という市民の素朴な声をニュースに取り上げやすい。

築地市場の豊洲移転問題でベンゼンやヒ素が少しでも検出されるだけで、記者たちが大きな見出しの記事を書くのは、市民の安心志向に応えるものだ。「ヒ素が環境基準を少し超えて検出されたくらいで食の安全への影響は全くありません。市民のみなさんの不安は根拠のないものです。安心してください」といったニュースを書く記者は一人もいない。これからもいないだろう。

市民の感情を逆なでするようなニュースは、市民を怒らせるだけである。市民の不安に寄り添うニュースが良いニュースなのである。市民感情に逆らって、「科学的には安全です。心配は無用です」という記事を書くことは私の経験から言って、相当な勇気を要する。

ニュースになる構図は決まっている

では、安全と安心の関係はどうなっているのか。安全と安心の関係を表す構図は4つの次元で表せる。

「安全なので安心だ」
「安全だけど、安心できない」
「安全ではないけれど、安心だ」
「安全ではないので、安心できない」

の4つだ。

ニュースの観点から見ると、「安全だから安心できる」と「安全ではないので(危険なので)、安心できない」は当たり前過ぎて、ニュース価値は低い。「科学者が安全だといっているので、私は安心できます」と叫ぶ市民がいても、その声をひろって、ニュースにする記者はいないだろう。

ニュースがもっとも着目するのは「安全だけど、安心できない」という状況である。福島原発事故後の放射線リスク、子宮頸がんなどを予防するHPVワクチン、遺伝子組み換え作物、食品添加物などの問題は、すべてこの「いくら科学者が説明しても分かってもらえない」という構図に入る問題である。国会で野党の議員はたいてい、この「国や科学者は安全だというが、安心できない市民たちがいる」という視点で追及している。安全よりも安心を重視した質問ばかりである。

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