
人気のヒット曲にあわせたリップシンク(口パク)動画や、キレのよいダンス動画など、若者の間で高い人気を誇るTikTok。わずか15秒とせわしなく、ヒップホップダンスを義務教育で習った若年層が主役のSNSだと思われがちだが、最近は若者を超えて広い世代に人気を獲得している。SNSの最新事情に詳しいITジャーナリストの高橋暁子さんが、40代ユーザーが6人に1人となっている最新のTikTok利用実態について解説する。
【写真】リーゼントにライダースでキメたクールすぎるひょっこりはん
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◆若者世代にアピールする場として拡大
TikTokは特に10代の若者に人気のアプリとして知られている。そこで、若者世代に認知されたい様々な著名人やブランドなどのアカウントが増加している。
たとえばPerfume、きゃりーぱみゅぱみゅ、DA PUMP、ゴールデンボンバー、りゅうちぇる、ひょっこりはんなど、様々なタレントやミュージシャンが動画を投稿中している。同じ動画共有サービスということで親和性が高いYouTuberも増えており、HIKAKIN、怪盗ピンキー、ヒカルなどが動画を投稿している。
特に10代向け雑誌を見ても、「ViVi」「Popteen」「nicola」などがアカウントを運用中。最近はファッション誌がプロモーション用にTikTokやYouTube、Instagramなどを活用する例が目立っており、視聴者側からは、撮影の裏側やモデルの素顔に触れられると評判だ。YouTuberでTikTokerとしても人気の“ねお”は、Popteen専属モデルに抜擢されて活躍中だ。
その他、人気ホラー映画キャラクターの貞子による『貞子Official』、ドラマ出演者のオフショットが楽しめる『スキャンダル専門弁護士QUEEN』、番組内の企画と連動した『7.2 新しい別の窓』など、ドラマや番組などがPR用アカウントを作成する例も目立つ。他にもサッカー「Jリーグ」や、13年ぶりの日本公式戦開催が決まった「NBA Japan」などの公式アカウント、カラー紙面レイアウトの様子を動画で見せる「スポニチ」公式アカウントなどもあり、若者たちにアピールする場として活用されている。
◆家族動画増加、おじさん動画も
しかし最近、TikTokは若者だけの場ではなくなりつつあることをご存知だろうか。2018年5月のアプリ分析プラットフォーム「App Ape」分析結果によると、ユーザーのうち10代が約4割を占めており、確かに10代に人気のアプリであることは間違いない。ところが、10代、20代に続いて多いのは40代であり、全体の16.8%と少なくない。TikTokユーザーは広い年代に渡って普及しつつあるのだ。
若くて可愛い女性が多い、子ども世代が多く使っているなど理由は様々だが、おじさんユーザーは目立って増加中だ。視聴するだけでなく投稿する例も増えており、「#おじさん」(1470万再生)など、中年男性による投稿は少なくない。TikTokでは可愛い女性の動画が人気なのは間違いないが、自宅と思われる部屋で、頭髪がちょっと薄めなメガネの中年男性が一人で音楽に合わせて踊るおじさん動画でも「かわいい」「ウケる」と高評価を得ている。
その他、孫世代がカメラに向かってポーズをとるようお願いして祖父母と撮った「#祖父母とtikる」(1010万再生)、寝返りやハイハイする赤ちゃんを撮影しただけの「#赤ちゃんのいる生活」(1920万再生)、夫婦の日常や結婚式の様子などを撮影した「#夫婦」(1億2670万再生)など、家族で撮影する例は増えているのだ。
◆バズりたいユーザーがメイン
アプリ全体としては有名になりたい、バズりたいという欲求が強いユーザーが多く、「#おすすめのりたい」(880億再生)、「#広告で有名になりたい」(40億再生)などのハッシュタグが特に人気が高い。
TikTokでは「フォロー中」と「おすすめ」しかタイムラインがないため、おすすめに載ると非常にバズりやすくなる。「広告で有名になりたい」は、選ばれると広告に採用されるというキャンペーンの名前だったが、ユーザーの願望でもあったためとても人気が高かった。同様の理由で、公式に出されたハッシュタグを付けた動画は再生数につながるため、人気が高い傾向にある。
ある女子中学生ユーザーはハッシュタグ「#おすすめのりたい」を付けて動画を投稿したところ、おすすめ欄に載った。その結果「いいね」が1万以上付き、「かわいい」というコメントが多数寄せられて大喜びしたという。
◆インスタストーリーズに載せて楽しむ層も
しかし一方で、バズることを期待してTikTokに動画を投稿するのは中学生くらいがメインであり、高校生、大学生と年齢が上がるに従って視聴中心の使い方になるという。
ある女子大生に話を聞いたところ、「TikTokはもっと若い子の場。友だちはみんな身内だけで楽しむためにInstagramのストーリーズに投稿している」そうだ。TikTokの加工機能は使いたいが、撮影した動画はあくまで仲間内で楽しむために利用しているというわけだ。
「#tiktok教室」など新しいタイプの動画も投稿されてきている。たとえば、ある動画は日常でありそうな場面を想定した英会話動画となっており、シリーズで見れば英会話が学べるようになっていた。
YouTubeなどの広告でよく見かけたリップシンク(口パク)動画はたった15秒のはず。そんな短い動画で「会話」を学ぶのは無理だと思うかもしれない。実は、選ばれた一部ユーザーは60秒までの動画を撮影、投稿できるようになっている。それによって、投稿される動画に多様性が生まれているのだ。
広い年代に普及した一方で、多くの人に見てもらいたいバズりたいユーザーだけでなく、仲間内だけで楽しみたいユーザーも増えている。今、TikTokは大きな変化の時を迎えている。