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特集:2020年台湾総統選挙への予備知識

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本誌が以前から取り上げてきたテーマに「台湾政治」があります。総統選挙が行われるたびに、現地を視察してきたのも楽しい思い出です。次回はもう9か月後の2020年1月11日に迫っていて、そろそろ候補者が絞り込まれる時期になっている。

そこで台湾政治の現況について調べてみると、まことに興味深い現象が起きていました。

「SNSで流動化する民意」「イデオロギーよりも経済」「直接民主主義の危うさ」「ポピュリストの登場」「強くわかりやすい指導者への待望論」など、他の民主主義国でも起きているような今日的課題が勢揃いしている感があります。来年の総統選に備えて、この辺で一度、台湾政治の予習をしておきたいと思います。よろしくお付き合いのほどを。

●米大統領選挙を予測する秘法

「2020年の米大統領選挙におけるトランプ大統領の再選確率はどれくらいか?」――この定番の質問に対しては、以下のように考えるのが最善であると思う。

現職候補の再選確率は高い。それはもう日本の県知事選挙と似たようなものである。

② 大統領が何をするかではなく、民主党が誰を候補者にするかが問題である。例えばハワード・シュルツ氏(スターバックス創業者)のような大物が、第3政党の候補者として出馬した瞬間に、再選確率は一気に上昇するはずである。

③ とはいえ、最後は必ず接戦になる。近年で最も差が開いた2008年選挙でさえ、一般投票(Popular Vote)はオバマ53%対マッケイン46%でわずか7p差であった。

結論として、トランプ大統領の再選確率は最低でも5割、最高でも6割、と見るのが妥当だと思う。もっともそこはトランプ氏のことであるから、「勝手に選挙を降りてしまう」という可能性も無視できず、その辺がこの予想の難しいところである。

現職大統領が2期目を迎える場合、普通なら「ああ、やっとこれで気兼ねなく自分のやりたい政策ができる」と考えるはずである。だから米大統領の権力は、2期目の序盤に最高潮に達すると言われる。しかしトランプ氏の場合、もともと大統領になって何かやりたいことがあったわけではない。今は「負けたくない」という本能に支えられて、次の選挙に向けて走り出しているが、再選後は目的を失ってしまうのではないだろうか。

さて、米大統領選挙を予測する秘法をご紹介しよう。といっても、本誌では過去に何度も取り上げている。台湾総統選挙が格好の先行指標になるのである1。以下に挙げる通り、「台湾が国民党なら米国は民主党、台湾が民進党なら米国は共和党」というジンクスは、過去6回、すべて当たっている。


なぜ先行指標になるかといえば、2つの選挙が非常によく似た仕組みになっているからである。おそらくは台湾民主化を推進した李登輝総統が、米国を意識して制度設計したからであろう。「4年に1度」「正副をコンビで選ぶ」「最長2期8年まで」「議会選挙も同日に実施(これは台湾では2012年以降)」「ポリティカル・アポインティ(政治任用制度)があり、政権交代があれば官僚も大幅に入れ替わる」などの共通点がある。

となればトランプ氏の再選確率も、2020年1月11日に予定されている台湾総統選挙が参考指標となるはずである。現在、蔡英文総統は支持率が低下し、再選に向けて出馬できるかどうかも怪しい状況である。その経緯については、本号P7のThe Economist誌記事を参照願いたいが、この異常事態、トランプ氏にとっては「縁起でもない」先行指標といえるかもしれない。

●いまや再選出馬も危うい蔡英文総統

2016年総統選挙では、筆者は投票日前後(1/15-17)に台北で選挙を視察していた。そして「6回目の選挙で3度目の政権交代」が起きるのを目撃したのだが、蔡英文と民進党の勝利はあまりにも水際立っていて、3年3か月後の現状が今ひとつピンと来ないでいる。

なにしろ前回の選挙では、蔡英文は有効投票数の56.1%を得票し、国民党の朱立倫、独立系の宋楚瑜という2候補の票を足しても届かなかった。そして同日の立法院選挙においては、民進党は113議席中68議席の単純過半数を獲得した。台湾政治ではこれを「完全執政」と呼ぶが、要は「ねじれ」がなく、法案は与党が何でも通せる状況が整った。

ところが蔡英文政権と民進党議会は、その後の「成果評価」で厳しい現実を突き付けられる。昨年秋に行われた統一地方選挙において、ほとんど壊滅的な敗北を喫したのである。2016年には全島が民進党のグリーンに染まったのに、2018年には国民党のブルーに転じている。特に長年の金城湯池であった高雄市を落としたのは、日本で言えば「(保守的な)山口県を自民党が失う」ような番狂わせといっても過言ではないだろう。

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台湾の統一地方選挙は、次の総統選まで1年と少し前に行われるので、「中間選挙」というよりは、ほとんど「前哨戦」という位置付けである。となれば、与党・民進党内が騒然となるのは当然のことであろう。蔡英文氏は敗戦の責任を取って党主席を辞任し、まるでドイツのメルケル首相と同じような立場に立たされている。

そこで党内で、「ポスト蔡英文」と目されていた頼清徳前行政院長(首相職)が、予備選挙に名乗りを上げている。頼氏は独立志向の強い「党内左派」の位置づけであり、蔡政権の中道路線では「生ぬるい」ということなのであろう。民進党の次期総統候補者は、世論調査などを実施したうえで4月17日に正式決定することになっている。

●公民投票が示した微妙な「民意」

この統一地方選挙については、東京外語大学の小笠原欣幸先生による非常に詳しい分析が公開されている2。簡単に言ってしまうと、この選挙は国民党の勝利というよりは蔡政権の自滅であった。以下のような指摘は、なるほどと納得させられるところで、要は左派政党が政権を取ったときにありがちなエラーが続いたということであろう。

1. 選挙戦略の失敗=中道派を敵に回してしまった

2. 蔡政権の問題=公約を地道に実行したことが、かえって有権者の反発を買う

3. 民進党の問題=エスタブリッシュメント化して、かつてのような庶民性を失う

小笠原レポートを読んでひとつ、疑問が氷解したことがある。台湾では、以前から「公民投票」と呼ばれる直接投票(レファレンダム)が大きな政治課題となってきたが、これが民進党政権下で比較的、容易に実施できるように法改正が行われた。

その結果、2018年秋には過去最高の10項目の直接投票が実施された。その中には、「民法で同性の婚姻を保証すべきか」(否決)、「台湾の名称で2020年東京五輪に参加すべきか」(否決)など、なかなかに微妙な民意が示されている。

さらにその中には、
「日本の福島県をはじめとする東日本大震災の放射能汚染地域、つまり福島県及びその周辺4県(茨城県、栃木県、群馬県、千葉県)からの農産品や食品の輸入禁止を続けることに同意するか否か」
という項目が入っていた。日本から見れば、これが賛成多数となり、輸入禁止措置の継続となったのはまことに遺憾なことである。これは民意に問うべきではなく、専門家の知見に委ねるべき案件であろう。ただし「親日」たる蔡英文政権も、公民投票が成立してしまうと手の打ちようがなかったようである。

ところが同じ公民投票では、
「『電業法(日本の「電気事業法」に相当)』の第95条第1項『台湾にある原子力発電所は2025年までにすべての運転を停止しなければならない』の条文を削除することに同意するか否か」
という項目もあって、こちらは賛成多数で成立している。つまり、蔡英文政権の脱・原発政策は頓挫を余儀なくされた。さあ、台湾の民意はどうなっているのか。原発推進なのか、反原発なのか。投票しているのは同じ有権者なのに、なぜこんな相反する結果が出るのだろう?

その答えは、台中市の市長選挙の分析結果の中にあった。台中市では、大気汚染が選挙の争点となった。「蔡政権の脱原発政策のために、中部の火力発電所がフル稼働しているため、台中市の大気汚染が悪化した」という図式がSNSなどを通じて広がった。もちろん蔡政権は風力や太陽光発電の普及を急いでいるが、電力不足を補うには力不足である。

現職の林佳龍市長は「やり手」と言われ、けっして市民の満足度が低かったわけではない。逆に挑戦者の盧秀燕候補が、特に人気があったわけでもない。ただし「市長を換えて空気を換えよう」というメッセージは、うまく有権者の心に刺さったようである。いかにも、民主主義社会における今日的な現象といえないだろうか。

台湾政治では、フェイスブックやユーチューブなどを使った情報発信が日本以上に活用されている。結果として、今回のように「微妙な民意」が示されることになる。英国ではBrexitをめぐる作業が大詰めを迎えているが、つくづく「直接民主主義」は危ういものを孕んでいる。まして今日の選挙においては、中国大陸発のフェイクニュースが飛んできて、選挙結果を左右するかもしれないのである(ちなみに小笠原氏は、2018年地方選挙における中国の介入は限定的であったという評価である)。

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