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英国「アマゾン」で働いてわかった、人間否定の懲罰ポイント

イギリスのアマゾン配送センター(写真:SWNS/アフロ)

 アマゾンの広大な倉庫は、町を流れる運河と発電所のあいだの空き地に建設されていた。道のさきには、死んだ畜牛を売り買いする会社があった。

 私たちが働く建物は大規模な靴箱の形で、外壁は水泳プールのような淡い青色に塗られている。煙を吐き出す煙突と水浸しの手つかずの野原が広がる工業地域には、どう見ても似つかわしくない建物だった。

 倉庫は4つのフロアに分かれ、従業員も同じように4つの大きなグループに分かれて働いていた。運ばれてきた商品を受け取って確認し、開封するグループ。商品を棚に補充するグループ。注文された商品をピックアップするグループ。そして、商品を箱に詰めて発送するグループ。

 私が担当したピッカーのおもな仕事は、細長い通路を行き来し、2メートルの高さの棚から商品を取り出し、「トート」と呼ばれる黄色いプラスティックの箱に入れることだった。

 トートは青い金属製の台車で運ばれ、永遠に途切れることがなさそうなほど長いベルトコンベアの上に置かれた。このベルトコンベアは、あたかも海へと注ぐ小川のように建物の端から端まで流れていた。

 平均すると、従業員ひとりで1日に40個ほどのトートに本やDVDなどのさまざまな商品を詰め、コンベアに置いた。

 私たちピッカーには、通常の意味でのマネージャーはいなかった。あるいは、生身の人間のマネージャーはいないと表現したほうが妥当かもしれない。代わりに従業員は、自宅監禁の罪を言い渡された犯罪者のごとく、すべての動きを追跡できるハンドヘルド端末の携帯を義務づけられた。

 そして、十数人の従業員ごとにひとりいるライン・マネージャーが倉庫内のどこかにあるデスクに坐り、コンピューターの画面にさまざまな指示を打ち込んだ。これらの指示の多くはスピードアップをうながすもので、私たちが携帯する端末にリアルタイムで送られてきた――。

「いますぐピッカー・デスクに来てください」

「ここ1時間のペースが落ちています。スピードアップしてください」

 それぞれのピッカーは、商品を棚から集めてトートに入れる速さによって、最上位から最下位までランク付けされた。働きはじめた1週目、私は自分のピッキングの速さが下位10%に属していることを告げられた。

 それを知ったエージェントの担当者は、「スピードアップしなきゃダメです!」と私に忠告した。近い将来、人間がこの種のデバイスに24時間つながれるようになったとしても、なんら驚くことではない。

 派遣会社を通してアマゾンの労働者に認められた権利は限定的なものだったが、これらの不充分な権利でさえたびたび無視された。アマゾンの社員たちは恐ろしいほど気まぐれだった。とくに、ポイント制の懲罰制度に関しては気まぐれ度が増した。この制度では、病気で休んだり、ピッキングの目標を下まわったり、遅刻したりした従業員に懲罰ポイントが与えられた。

「6ポイントになると、リリース(解雇)です。友だちのひとりは、4ポイントまで溜まったことがありました。はじめは、規定よりも早く退勤したという理由でポイントが与えられましたが、彼女は実際にはそんなことはしていませんでした。次は、アマゾンのバスが故障して遅れたのに、それでまた1点。病院にいる子どものために早退したら、また1点。

 働きはじめたばかりのころにわたしも、出勤中に車の事故に遭ったことがありました……だけど、なんとか遅刻せずに会社に着いたんです。でもすぐに帰宅させられ、懲罰ポイントが与えられてしまった。意味不明ですよ。『わたしは不慮の事故に巻き込まれたわけだし、帰れと言ったのもあなた方です。なんでわたしがポイントを与えられなきゃいけないの?』って感じです」

 同僚のクレアはアマゾンにこれ以上長く勤めようとは考えていなかった。すでに懲罰ポイントが5点分溜まっており、あと1点で「リリース」だった。

 はじめの1点は交通事故に対するものだった。次に、ノルマに達していないという理由で点が与えられた(「梱包の仕事でそんなことはありえません」と彼女は訴えた)。

 アマゾンが運行するバスが遅れたとき、さらに点が追加された。会社が残業を強制しようとしたとき、また1点(「これは強制的なものだと言われましたが、『もう5週間も強制残業をしているので、これ以上は絶対にできません』と言って断わったんです」)。

 そして片頭痛で休んだときに、5点目が追加された(「わたしはひどい片頭痛持ちで、『診断書を提出しましょうか?』と会社に訊いたんです。そうしたら、『その必要はない。いずれにしろ懲罰ポイント追加だ』とかなんとか言われてしまって」)。

「まったく休みを取ることもできません」とクレアは説明した。「それに、つねに完璧に基準をクリアしなくちゃいけない……すべてに対して、いつも100パーセントの力を出し切らないといけないんです」

 以上、ジェームズ・ブラッドワース著、濱野大道訳『アマゾンの倉庫で絶望し、ウーバーの車で発狂した』(光文社)をもとに再構成しました。労働市場の規制緩和や移民政策で先を行くイギリス社会は、 日本の明日を映し出しています。これは決して「異国の話」ではありません。移民労働者への現地人の不満、持つ者と持たざる者との一層の格差拡大は、我が国でもすでに始まっている現実なのです。

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