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「衛星」発射に関する政府対応不良の原因と課題_2012北朝鮮「衛星」発射

テストさえしていたJ-アラートは鳴らず、エムネットは事実上の誤報を流し、沖縄の自治体は外国政府発表の報道を聞いて混乱しました。

北朝鮮による「衛星」発射に対する日本政府の対応、国民への広報態勢については、明らかに失敗でした。
この原因と課題について、考えてみます。

広報の元となる情報の収集条件としては、厳しかったことは確かです。
早期警戒情報(SEW)が不正確な情報であることは、前回記事で紹介したとおりですし、イージス艦及びFPS-5等の地上レーダーでの探知ができたか否かは、打ち上げロケットが非常に早い段階で異常が発生し、高度が上がらなかったことから微妙な線でした。
レーダー探知の可能性については、次のブログが詳しく書いています。
海国防衛ジャーナル「日本のレーダーは北朝鮮のロケットを捉えたか?

早期警戒情報(SEW)については、弾道ミサイル対処を行う航空総隊司令部(横田)に、米軍横田基地及び三沢基地に設置されているJTAGS(弾道ミサイル情報処理システム)を通じて自動的に入ってきます。
7時39分の発射を探知したSEWは、1分後の40分には防衛省に入っていたと報じられています。

官房長官が「ダブルチェックして確認すると決めていた」と発表したとおり、防衛省・自衛隊は、ここから別ソースの情報と照合を図ったものと思われます。
ただし、現場の部隊には戦闘態勢への態勢移行が命じられ、迎撃準備が整えられたようです。
PAC3配備自治体、情報収集に追われる」(琉球新報12年4月13日)

 PAC3が設置されている宮古島市の航空自衛隊宮古島分屯基地では7時43分ごろ、発射機そばにいた隊員が猛然と丘を駆け降り、同44分に信号弾のようなものが打ち上げられた。


レーダー探知に関して、条件的には微妙だったことは前述のとおりですが、官房長官が会見で明言しており、探知してことは確かです。
官房長官会見の要旨=北朝鮮ミサイル」(時事通信12年4月13日)

 防衛省の出向者が受けた。そしてレーダーを見ていたら(飛翔体が)1分何秒かで消え、「わが国の安全を脅かすような事態はないと判断している」と聞いた。


補足していたレーダーが、イージスなのかFPS-5なのか分かりませんが、官房長官の言葉を言い換えれば、捕捉していた航跡をロスト(失探)し、その時の航跡諸元が示す着弾予想地域が、わが国の領域にかかってはいなかったということになります。

この時、防衛省内部では、この捕捉した航跡が、打ち上げ失敗によるロケット全体なのか、切り離された第1段ロケットのみを捕捉しているのか、迷ったのではないかと思われます。
また、別の短射程ミサイルである可能性も考慮したようです。
ひょっとして短距離ミサイル?発射直後の防衛省」(読売新聞12年4月14日)

前者あるいは短射程ミサイルなら、政府・自衛隊としては、別に慌てることもないですが、後者であれば第2段以上のロケットを探さなければなりません。
これは想像ですが、”必死で”探していたのではないでしょうか。

捕捉していない幻の第2段ロケットを探してダブルチェックを行おうとしていた結果、確定報告が遅れたのだろうと想像されます。
「どうなっているんだ! 確認しろ!」なんて怒鳴っていた人が居たのかも知れません。

自衛隊では、「状況が不明である報告」も重要な報告であるとされます。
現役自衛官時代にも、分からないなら分からないと報告せよ、という指導を、それこそ耳タコで指導されました。
「第2段以上のロケットが飛翔しているのかは不明です」という情報が伝わらなかった可能性です。
基本中の基本なんですが、何らかの理由で、これができていなかった可能性があります。

また、その報告を受け、広報に関する判断をすべき首相官邸内の危機管理センターに、問題があった可能性も濃厚です。

これも自衛隊で頻繁に言われる「腹案を持て」が出来ていなかった可能性です。
国民への周知を考えた場合、ミサイル発射に関連して、危機管理センターが緊急に発すべき情報は、たったの3パターンしかありません。
(1)「発射を示す情報はない」
(2)「発射された可能性があるが、わが国に影響はない」
(3)「発射され、わが国に影響を及ぼす可能性がある」

某法務大臣は2つでOKだそうですが、今回は、この3つだけ覚えておけば問題なかったはずなのです。
で、今回の場合は、SEWとわが国には到達しないレーダー航跡情報があったのですから、(2)の「発射された可能性があるが、わが国に影響はない」としてJ-アラート等も流せば良かったのです。
もし、その後、日本に落ちてくる可能性のある航跡が捕捉されたのなら、その後で③に訂正発表すればいいだけです。
(3)の可能性があるからと言って、(2)の発表を躊躇う必要は無かったのですが、このあたりの腹案が、危機管理センターの人間に出来ていなかったものと思われます。

これについては、以前の記事「危機管理監ポストと危機管理監の位置付け」で問題提起した、危機管理監が警察官僚であることも、今回の不手際の一因となっているように思われます。
弾道ミサイルの探知や警報態勢等について、基本的な知識が欠乏しているのでしょう。

今回の不手際を見て、民主党の中央集権的な強権体制が背景にあるのではないか、という危惧も抱きました。

前回2009年の誤報さわぎの際、ある政府高官が「あつものに懲りてなますを吹くような事態があってはならない」と発言したそうですが、今回は思いっきりなますを吹いてしまいました。(前回の本番ではうまくいきました)

今回の不手際の兆候は、実は発射が行われる前にも出ていました。
防衛省幹部、表情険しく=北ミサイル警戒、「仕切り直し」」(時事通信12年4月12日)

 ミサイルが発射された際の情報伝達について、2009年の前回発射時に「誤報」した教訓から、制服組トップの岩崎茂統幕長が確認した上で、首相官邸に連絡することにしている。


「誤報は許さない。間違いない情報を上げろ!」
なんて言われていたのでしょう。
報告の基本に反した指導をした結果、起るべきして起った不手際です。
基本に立ち返り、不明なら不明と報告し、それに基づいて、国民のために安全第一で、必要な情報を流すべきです。

-------------------
4月17日追記
防衛省から官邸には、ちゃんと正確な情報が、それほど間を開けずに、上がっていたようです。
ミサイル発射報告の時刻、官邸が修正 15分早かった」(朝日新聞12年4月17日)
やはり、問題は官邸・危機管理センターにあったもよう。

特に、危機管理監は、発射3分後の42分にはSEWを聞いていたそうです。
ミサイル情報食い違い、官邸は発射直後に把握」(日経新聞12年4月16日)
やはり、危機管理監ポストに警察官僚を置いておくのは、無理があるみたいですね。

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