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駄目比べから良さ比べへ

 石破 茂 です。
 
 TBSテレビ「ひるおび!」で何度か紹介された所為もあってか、当欄を初めてお読みいただく方、初めてコメントをお寄せいただく方が増えたように思います。誠に有難いことで、当然のことながら世の中にはいろいろな考えの方が居られることを改めて思い知らされます。
 
 自民党は批判ばかりするな!とのお叱りにはごもっともな面もありますが、批判するべきことを批判しなくては野党の存在意義はありません。様々な政策提言を行い、正しいことには賛成し、誤っていることには反対する、実に当たり前のことです。
 自民党の支持率が民主党に逆転されたという調査もいくつかありますが、基本的にはそれほど下がってはおりませんし、中には僅かながらも上昇したという調査もあります。熱心に政策を議論し、積み上げ、政府・与党に対して提言してきたという地道な努力を見るべき人はきちんと見ていて下さるということであり、決してその数が少なくないことにやや安堵感を感じております。
 これで慢心するつもりは毛頭ありませんが、この二年間、自民党が行ってきた政策提言を全く見ないまま一方的に批判なさる方々には、ぜひ自民党のホームページをご覧いただくようにお願いいたします。
 
 一川防衛相の「素人が大事なんだよ、それが本当のシビリアンコントロールというのだよ。国民の視線で自衛隊を監視するのが文民統制である」との発言が誤りであることに間違いはありません。
 当欄にお寄せいただいたコメントの中には、日本国憲法第66条(内閣総理大臣その他の国務大臣は文民でなくてはならない)の趣旨は総理大臣を含め大臣は(防衛上の)プロであってはならないというもので、防衛相の権限は人事権など内部部局に関する範囲に限られ、自衛隊実務は専ら統合幕僚長以下が所管する、との解説がありましたが、それこそ私が不勉強な所為か、私の知る限りいかなる憲法・防衛関連法の教科書、コンメンタールにもそのような記述があったとは承知しておりません。このような解釈をしている文献・学説、或いはこのような説を唱えておられる学者や実務家をご存じでしたら、後学の為にも是非ご教示くださいませ。
 
 民主主義的な文民統制の本質は、国民から選ばれた政治家(合議体たる内閣、その長であり最高の指揮監督権を有する内閣総理大臣、自衛隊法の定めに従い自衛隊の隊務を統括する防衛大臣)が、直接国民に対して責任を負える唯一の立場であるが故に、誤った統制を行えばその立場を失うという日本国憲法の最高原理である国民主権にこそ、その正当性が求められるべきものです。
 そこに「素人」という価値観が肯定的に入る余地は全くありません。「国民から選ばれた政治家が実力組織を統制する」との趣旨であり、「素人が統制する」という趣旨では全くないのです。

 防衛大臣には、外務大臣と共に内閣総理大臣の下で国際社会と地域の平和と安全のため、祖国の独立を維持するために安全保障政策を企画・立案・遂行することが求められます。
 その際最も必要とされるのは、我が自衛隊に法律面、装備面、運用面で「何が出来て、何が出来ないのか」を政治が正確に把握することです。「彼を知り、己を知れば百戦殆うからず」なのですが、これを裏返せば「敵も知らず、己も知らなければ百戦百敗」ということであって、これは平時においても全く同じことです。
 「戦争は単に一つの政治的行為であるのみならず、一つの政治的手段であり、政治的対外関係の継続(クラウゼヴィッツ)」なのです。大東亜戦争の敗因は、政治がそれを知らず、或いは知っていながらも国民に対してそれを覆い隠したことにこそあり、政治が軍事に対して素人(無知)であることがいかに恐ろしいかの一例です.
 
 そもそも憲法制定時には軍隊も自衛隊も存在していなかったのですし、憲法第9条第2項の「陸海空軍その他の戦力はこれを有しない」規定にもかかわらず、第9条第2項冒頭に「前項の目的を達するため」との文言を追加した所謂芦田修正と整合をとる形で「内閣総理大臣その他の国務大臣は文民でなければならない」という条文が極東委員会の要請を受ける形で挿入されたのは、将来日本が軍隊を保有することが想定されていたからだというのが定説です。あくまで現役の軍人が入ることを排除したものであって、その意味では「プロ」を排除したと言えなくもありませんが、「素人」を意識した条項ではありません。
 
 「大臣の権限は人事権など内部部局に関する事項に限られ、自衛隊の実務は専ら統合幕僚長以下が所管する」という考え方は、「軍政と軍令の分離」を強く意識した、まさしく「統帥権独立」的な考えであるように思われますが、この考えによって大日本帝国は敗北への道を歩んだのです。
 評価は様々であり、ここで詳しい言及は致しませんが、ミッドウェー作戦や沖縄特攻作戦(天号作戦)が誤っていると政治が判断しても、全く関与できなかったというのが歴史の事実です。条約派と艦隊派の争いで、条約遵守を唱えた条約派を「統帥権の干犯である」と無知な政治家と組んで批判した艦隊派がいかに国を誤ったかも想起されるべきでしょう。
 
 防衛庁長官や防衛大臣を務めていた時、多くの国際会議に出ましたが、「軍事に疎い国防大臣」など一人も居ませんでした。ちょうどイラク戦争終結後の対応を巡って大論争のあったころで、すべての出席大臣が国際法や安全保障環境に精通しており、侃侃諤々の議論が闘わされたものでした。
 軍隊は主に対外的な作用を果たすことがその本質なのであり、その長は素人にはとても務まらないとわが身の至らなさを実感したことでした。
 
 文民統制の概念も、「軍隊(実力組織)の暴走から国民を守る」という古典的な従来の考え方に加えて、近年「軍隊を用いて国民の利益を実現する」との考え方が強まりつつあります。
 いかなる組織や品物も、その能力や使い方を知らなければ結果は悲惨なことになりかねません。軍隊のみがその例外であるはずがありません。
 いつ、何が起こっても対応できる態勢を整えておくのが危機管理の要諦です。朝鮮半島有事は明日起こるかもわからず、いつ周辺事態と認定しなくてはならない事態が発生するかもわかりません。その時に「素人」が自衛隊を統制し、国民に責任を負いえない官僚や自衛官が実質的な権限を握ることの恐ろしさを考えたことがあるのでしょうか。

 野田総理が鳩山、菅という前二代の総理に比べて遥かにまともな人物であることを私は否定しません。
 しかし問題は民主党そのものにこそあり、いかにまともな人が総理になろうと基本的な問題は解決しないのではないかと危惧しています。
 野田氏は保守政治家を自認していますが、民主党が保守政党とはとても思えません。閣僚や党役員の顔ぶれを見ても、今までの言動からしてどう見ても思想が異なる人々が何人も居り、「とにかく党内融和と解散しないことが最優先」の布陣であることは明らかです。
 解散権は確かに総理にありますが、「解散しない」と宣言することは主権者たる国民の参政権の行使を奪うものに他なりません。民主党ならびに民主党議員の生き残りのための内閣であって、国家・国民のための内閣とはどうしても思えないのです。

 しかし我々も、ただ解散!解散!と叫ぶだけでは国民の広範な支持は得られず、かえって相手の術中に嵌ることになるような気がします。
 震災・大津波・原子力災害からの復旧・復興、円高対策などに自民党の知恵と力を惜しみなく使い、政府の過った点はきちんと糺し、「流石は自民党だ」と多くの国民に実感して頂くことが、結局は解散への早道になると私は思います。
 「駄目比べ」の時期は終わったのであり、「良さ比べ」の時期に入ったのだとの認識を持ちたいものです。

 週末は九日金曜日が岩手県知事選挙の支援、その後自民党秋田県参議院選挙区支部での講演(午後六時・秋田キャッスルホテル)。
 十日土曜日はBS朝日で前原政調会長との討論収録(激論クロスファイアー・同日午前十時放映)、その後BSジャパンで勝間和代氏との対談収録(勝間和代のデキビジ・翌十一日午後十時放映)。
 十一日は地元での台風災害見舞、という日程です。
 秋田からの帰りは今のところ僅かに残っているブルートレインのひとつ、特急「あけぼの」!!
 どうか予定変更となりませんように…。

 和歌山、奈良、三重をはじめとする被災地の皆様に心からお見舞い申し上げます。
 復旧・復興に力を尽くすべく、8日に官邸に赴いて藤村官房長官に早期の激甚災害指定や法改正、予算対応の申し入れを行ってきました。
 皆様、お元気で週末をお過ごしくださいませ。

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