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【読書感想】羽生善治×AI

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 羽生さんは、あれほどの高みにありながら、「いまだに分からないことだらけ」であるということを自認し、興味を維持し、楽しみながら研究を続けているというのが、いちばんの強さの理由なのかもしれません。
 しかしながら、そんな羽生さんも、研究でのコンピュータの導入による情報共有に伴う全体のレベルの底上げもあって、以前に比べると、周りとの差は縮まってきているのではないか、と著者は述べています。
 それでも、羽生さんはコンピュータを研究の軸に据えるのではなく、あくまでも、長岡さんをはじめとする、人間相手の研究会を中心にしているそうです。
 羽生さんは、AIに関するテレビ番組のナビゲーターも務めておられたこともあり、コンピュータに強そうなイメージがあるのですが、日常的に接している長岡さんからみると「ITにとても詳しい人のようには見えない」のだとか。
 羽生さんは僕とほぼ同世代なのですが、僕の実感として、「同世代のなかでは、比較的コンピュータが得意」というくらいでは、若い人からみたら、「IT音痴」になってしまう、というのも事実なのです。

 2016年に、コンピュータ将棋ソフトponanzaが佐藤天彦名人に2連勝したことで、人間対コンピュータの「電王戦」にはピリオドが打たれましたが、その後もコンピュータ将棋ソフトは進化し続けています。

 現在、最強の将棋ソフトが実力的にどれだけ人間を引き離しているのかという客観的な指標はないのだが、ソフトの開発研究者たちが考察、発表している論文などによれば、将棋連盟が運営するウェブ上の通信対局サイト「将棋倶楽部24」におけるレーティングに換算した場合、平均的なプロ棋士と最強ソフトの実力差はゆうに1000以上、開いているという。
 レーティングについての詳しい説明は省略するが、先の論文などによればこの差は「平手で指した場合、プロがソフトに勝つ可能性は1%もない」といったレベルであるという。将棋は相当実力差があっても、ひとつ間違えれば下級者が上級者に勝つことがある。しかし、本当の初心者とアマチュア初段ほどの開きがあれば100局指して100回とも初段が勝つだろうし、アマチュア初段とプロ棋士が100局指せば、プロ棋士が間違いなく全勝するはずだ。
 現在は、ソフトとプロ棋士が平手で指しても、プロがまったく勝てない状況にある。ソフト開発者の中には、プロ棋士とソフトの差は大駒の「角」1枚以上の差があると見ている人もいる。

 もう、人間の名人がコンピュータに勝つのは難しくなった、というのは理解していたのですが、コンピュータはその後も人間を引き離して、すごいスピードでどんどん強くなり続けているのです。プロでも「角落ち」以上の差があるなんて。

 この本を読んでいて面白かったのは、羽生さんに日常的に接している人だからこそ知っている、ちょっとしたエピソードが散りばめられているところでした。

 ここ数年、人工知能の問題と格闘していた羽生さんだが、その仕事自体が本業の将棋そのものを強くしたとは考えにくい。むしろ研究する時間をそちらに割いた分、対局には不利な影響を与えた可能性もある。ただし、それでもこの問題が自分にとって重要だと考えたからこそ、羽生さんは世界を飛び回って研究者たちと会っていたはずだ。羽生さん自身は「ちょっとAI関係の仕事をやりすぎてしまった」と話していたが、その姿勢には頭が下がる。

 そうか、羽生さん、ちょっと「やりすぎた」と後悔していたのか……
 たぶん、本当に後悔している、というよりは、何かに興味を持つと、のめり込まずにはいられない自分自身に苦笑していた、という感じなのでしょうけど。


超越の棋士 羽生善治との対話


大局観 自分と闘って負けない心 (角川新書)


人工知能の核心 (NHK出版新書)

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